15-9 恭平君
どうやら庭でBBQをするらしい。
俺の歓迎会、彼女の叔母さん夫婦への紹介を兼ねてのBBQだという。
よくよく話を聞けば、里依紗さんのママ友と以前から予定していたらしく、俺は付け足しのようだが…
剛志さんの指示で、賢次さんも含めて3人で協力してテーブルやら折り畳みのベンチシートを広げる。
テラスから離れた場所にも組立式のテーブルを設置して、アウトドアキャンプで使いそうな折り畳みチェアを広げる。
イスの数、腰を落ち着かせれる場所だけで、15を越えるだろう。
何人が来るんだろうかと思える量だ。
途中で恭平君と里依紗さんも参加して、恭平君が一生懸命に自分用のイスを組み立てる。
準備されていたイスやテーブルを組み立て終わる頃、恭平君がいつものダッシュでやって来た。
「おにいちゃんは どこに すわるの?」
突然、恭平君に聞かれて困ってしまっていると、里依紗さんと彼女もやって来た。
「恭平ちゃんは、おにいちゃんとお姉ちゃん、どっちと座りたいのかな?」
「みんな いっしょがいい!」
恭平君の話を聞き、彼女と里依紗さんが顔を見合わせてから、俺を見る。
「センパイ。今日は禁酒かも?」
「??まあ、俺は良いけど…」
「良いんですか?二郎さん?」
「よし、恭平君、みんなで一緒に座ろう」
「やったー ママもパパもいっしょね!」
あらまぁ恭平君。みんなで一緒が良いのね。
「じゃあ、恭平ちゃん。一緒にイスを持って来ようか?お姉ちゃんも手伝うよ」
「うん。おねえちゃん てつだって!」
そう言った恭平君は彼女の手を取り、二人でダッシュで組み立てたイスに行く。
残された里依紗さんが話し掛けてきた。
「二郎さん、すいませんね。秦の家では、子供と同じ席で大人はお酒やタバコは禁止なんです」
「大丈夫です。自分はタバコは吸わないですから。お酒は…剛志さんと賢次さん、それに進一さんに飲んで貰いますから(笑」
「それなら大丈夫ですね。あの3人も恭平と同席では飲まないですから(笑」
「じゃあ、問題無しです(笑」
剛志さんや進一さん、今日、出会えた賢次さんと一献傾ける機会が減ったのは少し残念な気もするが、秦家のルールに従うべきだ。
子供(未成年)と同席で、大人が飲酒喫煙をしないと言うのは、ある意味正しいと俺は思っている。
以前にアスカラ・セグレ社の東京支店で、俺の担当になってくれた方から聞いたことがある。
その方は帰国子女で、海外在住の幼少期に、親がタバコや酒を嗜んでいるのを見たことがないと言うのだ。
家柄もあるとは思うが、幼少期に知る必要が無いことを、大人が教えない、大人がその姿を見せないと言う姿勢は、称えるべきだと思う。
彼女と恭平君が協力して、恭平君のイスを持って来た。
さて、どのテーブルで座るのが良いだろうかと考えていると、進一さんが戻ってきた。
「里依紗、恭平、ただいま」
「パパ!おかえりー(✌️」
「あなた、お疲れ様です」
「恭平、良い子にしてたか?」
「うん。おねえちゃんと べんきょうしたよ(✌️」
恭平君と一緒にイスを持って来た彼女が仁王立ちで言う。
「お兄さんも里依紗お姉さんも、恭平ちゃんに使ったでしょ?」
「✌️」
「「…」」
恭平君は✌️を連発し、進一さんと里依紗さんは彼女に問われて黙り混む。
恭平君、金髪で✌️を出す姿がカッコいいぞ!
◆
「進一さんと門守君。炭おこしを頼んで良いかな?」
賢次さんが申し訳なさそうに頼みに来た。
テラス席から少し離れた場所には、大型サイズのBBQコンロと、丸い達磨のような形をしたコンロが置かれていた。
かなり本格的だ。
大型サイズのBBQコンロは、コンロ全体に蓋が出来るタイプで、炭をグリルの横から出し入れできる本格派だ。
達磨のような形のBBQコンロも蓋が出来るタイプで、海外ドラマのBBQシーンで出てきそうな奴だ。
この2台に入れる分の炭をおこすとなると、一仕事だなと思っていると、進一さんが丸い達磨のような形をしたコンロに袋から炭をバラバラと入れ始めた。
後から着火材で付けるのだろうかと思っていると、進一さんが炭バサミを準備してコンロに歩み寄る。
俺も手伝おうとコンロに歩み寄る。
すると、彼女が俺の側に来て腕を絡ませ耳元で囁く。
「センパイ。よく見ててくださいね」
何だろうと思っていると、金髪イケメンの進一さんと目が合った。
進一さんは、俺と彼女に軽くウインクする。
金髪イケメンの突然のウィンクに驚いていると、進一さんは作業着の胸元に左手を当て、右手は開いてコンロに向けた。
まさか?!
フンッ
進一さんの唸るような掛け声と共に、コンロに入れた炭から炎が上がった。
その様子は、まるでマジックショーを見ているようだ。
その様子に驚き、進一さんに問いかける。
「進一さん!今のって!?」
「カッコいいだろ(✌️」
進一さん。
親子で金髪イケメンの✌️サインですか?
「パパー カッコいい!」
「恭平、熱いから気を付けて!」
「恭平、走ると危ないぞ!」
恭平君がやってきて、ダッシュでコンロに近寄ろうとする。
すかさず進一さんが恭平君を抱き止めた。
進一さんに抱きかかえられながら、恭平君は達磨型のコンロの中を覗く。
「パパ すごく熱いね」
「触ると火傷するぞ。恭平、火の側で走らない約束はどうした?」
「パパ ごめんなさぃ…」
「恭平、パパとの約束を守ろうね」
里依紗さんが追い付き、進一さんに抱かれていた恭平君を受けとる。
恭平君は里依紗さんに抱かれながら、進一さんに注意されて少し大人しくなった。
今の進一さんがやって見せたのは魔法だ。
魔石を使った魔法で炭に火を着けたのだ。
胸元に魔石のペンダントか何かを隠していて、その魔石を使って火を起こす魔法を出したのだ。
進一さんが達磨型のコンロから隣のコンロに炭を移動しようとした時、里依紗さんに抱かれながら恭平君が俺を見て聞いてきた。
「きんいろの おにいちゃんも できる?」
おいおい。
恭平君、俺に何をさせる気だ?
「そうだ、二郎くんなら出来るかも?」
進一さん、それはムチャ振りです。
「センパイ、出来るんですか?!」
出来ない出来ない。
期待した目で見ないで。
「なになに、二郎君も出来るのか?」
「門守君も出来るのか?流石は次期当代だ!」
剛志さんと賢次さん。
変な期待をしないで。
「物は試しだ。二郎くんもやってみよう」
そう言った進一さんは、隣のコンロに炭を入れ始めた。