15-8 カネの当代
その後、深呼吸で落ち着いてくれた進一さんは、インチキな門の話を続けてくれた。
「桂子さんが彼らに連絡して事情を話したら、直ぐにSaikasから記録は消えたよ」
『彼ら』=『国の人』だな。
5~6年前にバーチャんが『国の人』に連絡したなら、それは眼鏡だろう。
あれ?
もしかして、進一さんは『国の人』の眼鏡にも面識があるのか?
俺としては、そうしたことも気にはなった。
だが、今の進一さんは、お酒を飲んでるわけでもないのに饒舌に話してくれる。
俺はそれが少し嬉しくて確認はしなかった。
「他にも、変な奴らが『代替わり』と称して、やって来たよ」
そう言って進一さんは話しを進める。
・会いに来いと要求する
・若い進一さんに上から目線
・記録=日記で学んでない
・当代になる理由が金銭目的
そんな奴らの話を、面白おかしくしてくれた。
「進一さん、その笑える方々については、記録=日記で書いて残したんですか?」
「書いたのもあれば、書いてないのもあるよ」
進一さん。後で楽しく読ませて貰います。
◆
少し饒舌な進一さんとの時間は、気が付けば終わる程に早かった。
『楽しい時間は過ぎるのが早い』と言うが、まさにそのとおりだと思う。
高級住宅な彼女の実家、敷地の手前、昨日の俺が呆然としていた場所で、進一さんに車から降ろされた。
「二郎くん。車を戻してくるから、先に戻ってくれるか?」
「はい。何か持って行く物はありますか?」
「いや、特にないよ」
そう言い残して、進一さんは軽のSUVを発進させる。
残された俺が高級住宅の敷地に入ると、高級車が駐められた車庫の反対側、テラス屋根の側で男性二人が何かをしているのに気が付いた。
よく見れば、出掛けに平神社で作業をしていた二人のようで、一人は剛志さんだとわかったが、もう一人がわからない。
二人はテラス屋根の下にテーブルを据えようとしている。
俺は二人の側に寄り、剛志さんともう一人の男性に声を掛ける。
「剛志さん。戻りました」
「おお、お帰り二郎君」
「剛志さん。彼が門守さんかい?」
俺を『門守さん』と呼ぶ男性、年の頃は剛志さんと同じぐらいだろう。
その男性の顔を記憶の中で探すが、見たことも名前すらも出てこない。
「賢次は初めてだよな。彼が門守二郎君だ」
「やはり門守さんか。秦賢次だ、よろしく」
剛志さんに『賢次』と呼ばれた男性は、名乗りと共に俺に右手を差し出してきた。
俺は差し出された手に合わせ、握手をする。
「淡路陵の零士さんと桂子さんの孫、一郎さんと礼子さんの息子だってな?」
「ええ…」
「しかも、由美子の未来の旦那さんとは、剛志さんの所は益々安泰だな。ガハハハ(笑」
賢次さん。笑い声が豪快です。
「二郎君は初めてだよな。ワシの義弟で保江さんの相方の賢次さんだ」
「堅苦しいのは嫌だから、剛志さんと同じで『さん』付けで呼んでくれ」
賢次さん。握手した手をブンブンするんですね。
『保江さん』?
彼女の叔母さんの一人か?
確か吉江さん(彼女の母)が剛志さんに
〉明日は保江も美江も来るからね。
そう、言ってたような記憶がある。
「ありがとうございます。自分も同じです。『門守』では堅苦しいので『二郎』と呼び捨てでお願いします」
「いやいや、淡路陵の次期当代を呼び捨てには出来んよ。そうだな…娘と同年代と聞いているから『門守君』で許してくれ」
『淡路陵の次期当代』?
賢次さんはもしかして、門に関わりのある方なのか?
進一さんの教えにあった『門に関わりし人々=守人』の一人だろうか?
失礼だとは思うが、変化球で探ろう。
「すいません。まだまだ自分は雛児です。淡路陵の当代は暫くは桂子です。賢次さんは隠岐の島の…守人」
「ああ、『隠岐の門』の守人だよ。ガハハハ」
賢次さん。そろそろ握手をほど来ませんか?
変化球がハマり、進一さんの教えを確認することが出来た。
けれども、なかなか握手を解く(ほどく)気配を賢次さんが見せない。
賢次さんの顔を見れば笑顔だが、目の奥が笑っていない。
「『守人』なんて言葉を門守君に教えたのは、剛志さんか?それとも進一さんか?」
「ワシじゃないな。二郎君、守人なんて呼ばずに『カネの当代』と呼んでやれ」
『カネの当代』?
剛志さんの発したその言葉で、賢次さんが握手を解いてくれた。
「おいおい、ここでその呼び名か?門守君はそこまで知ってるのか?」
「二郎君、賢次は一部の当代から『カネの当代』と呼ばれてるんだよ。ハッハッハ」
「おにいちゃん おかえりー!」
テラスに顔を出した恭平君が大声で俺に声を掛ける。
突然の恭平君の登場に、剛志さんと賢次さんが慌てて振り替える。
「二郎さん。お帰りなさい。進一さんは?」
恭平君の後ろには、親子セットで里依紗さんが控えていた。
「進一さんなら、車を置いてくるって言ってましたけど?」
「なら、直に来るだろう。門守君は進一さんと隠岐の島観光かい?」
俺が里依紗さんに答えると、返すように賢次さんが聞いてくる。
「いえ、石拾いでした(笑」
「あぁ~石拾いね(笑」
俺は察した。
賢次さんの納得するような答えに、俺は賢次さんも魔石作りに関わっていると察した。