15-7 インチキな門
金髪イケメンの進一さんとバーチャんの話をしながらも、今の進一さんの言葉が気になった。
〉『隠岐の島の門』に関わる記録
〉僕が書いた記録があるんだ
〉二郎くんでも学べるけど
俺が知る限りPadで読めるのは、『米軍の門』と『淡路陵の門』の記録=日記だ。
けれども『隠岐の島』はPadで一度検索している。
その際に検索はしたが、日記の中身までは読んでいない。
俺は大量な検索結果を眺めただけだ。
もしかして、あの検索結果は進一さんや市之助さんの記録=日記だったのだろうか?
Saikas
佐々木さん(元課長)が作った仕組みは、クラウド型で門に関わる記録の検索や閲覧が可能な仕組みなのか?
例えば、淡路島には『淡路陵の門』に関わる記録=日記を置いて、ここ『隠岐の島の門』に関わる記録=日記は隠岐の島にある。
『米軍の門』の日記の全てが、何処に置かれているかは不明だ。
実際に『米軍の門』の記録は淡路島に置かれていた。
それでも、各地に置かれたサーバーを縦横に検索する仕組みを、Saikasが提供する。
この方法ならば『米軍の門』で欠番があった記録も、何らかの検索を駆使すれば見れるのだろう。
進一さんが口にした『伊勢の門』も、検索すれば見れるのでは?
逆もあり得る。
エリック・セグレさんや佐々木さんが、『淡路陵の門』や『隠岐の島の門』についての記録=日記を読んでいることも理解できる。
あの『Saikas』は、『国の人』が持ち込んだ仕組みだ。
即ち、『国の人』は『全ての門』についての記録=日記を、Saikasを使ってクラウド型で管理しているのだ。
そして各門に関わっている人々は、互いの記録をSaikasを使えば読むことが出来るのだ。
なんと言うことだ、俺の考えが狭すぎた。
俺は各門の関係者は、自分の関わっている門についての記録=日記しか読めないと思っていた。思い込んでいた。
だが、この考えが正しければ、昨夜に湧いた疑問の答えが見つかった気がする。
そんなことを考えながら窓から流れ行く外を見ていると、再び渋滞に捕まった。
水若酢神社
の看板が見える。
今日お祭りがあると言っていた付近だ。
来た道を戻っているので、渋滞に遭遇するのは当然だった。
俺は詳しくは知らないが、隠岐の島では『抜け道』のような方法での渋滞回避は難しいだろうと思う。
久見海岸へ向かう際に眺めていた限りでは、そうした脇道の存在を感じなかった。
「進一さん、隠岐の島では抜け道とかは無いですよね?」
「あるにはあるが、概して変わらないね。そんなに急いでも同じだよ」
「そうですね。こうして進一さんとも話せますしね」
「そうだね。僕も他の門の連中と、これだけ会話したのは始めてだよ」
進一さん。尖ってたからかな?
「そう言えば久実海岸に向かう際に、進一さんは他の門の代替わりの話をしてましたね」
「してたね。聞きたいかい?」
「ええ、聞きたいです」
「尖ってた頃の話だけど?(笑」
「痛くない程度でお願いします(笑」
「ククク。そうだね、里依紗と一緒になった頃が面白いな」
「5年、6年ぐらい前ですね?」
「あらまあ。二郎くんはよく御存知で(笑」
「恭平君がそのぐらいですよね。由美子さんから、進一さんの結婚式以来だと聞いたんで(笑」
「里依紗と一緒になって、お伊勢様に行って、当代のお墨付きを貰っただろ」
「ええ、さっき言ってましたよね」
「その後、桂子さんに弟子入りして…」
なるほど、その頃に弟子入りしたんだ。
俺が東京で頑張ってた頃だね。
そりゃ、バーチャんに折られるのもわかります。
「桂子さんのところに住み込み始めた時に、父さんから連絡が来たんだよ。他の門が会いたいって」
「ま、待ってください。進一さんは淡路島に来てたんですか?」
「あれ?二郎くんは桂子さんから聞いてないの?」
「さっきも言いましたけど聞いてないです。進一さんや剛志さんがバーチャんに弟子入りした話も、さっき初めて知ったんですよ」
「ゴメンゴメン。そうだったね。弟子入りの話は父さんを交えてしよう」
「ええ、話が複雑になりそうなんで…」
進一さん。お願いします。
バーチャんが絡むと話が複雑になるんで。
「そうだね(笑。それで、父さんから連絡が来て他の門の代替わりに会うことになったんだよ」
「何処の門ですか?」
「門じゃないね」
「えっ?」
門じゃないのに代替わり?
「結果的に門じゃなくて、僕から金を引き出そうとしたらしいね」
「なんですかそれ?」
「二郎くん。当代になるとそうした奴らも湧いてくるんだよ」
「まあ、どこにでも悪い奴らはいますからね」
「傑作なのは、そのインチキな門を桂子さんにPadで調べて貰ったら記録が出てきたんだよ」
「バーチャんがPadで調べた?」
「そう、父さんに言われた名前で桂子さんに検索して貰ったら、記録が50件ほど出てきたんだ」
「じゃあ、その記録に門から出てきた話があったんですか?」
「それが無かったんだよ。どの記録も門から出てきた話が無いから偽物だと直ぐにわかったんだよ」
「な、なんでそんな記録が見れるんですか?」
「ククク。不思議だろ?」
そこまで聞いて、先程まで考えていたSaikasの仕組みをぶつけてみた。
「じゃあ、そのインチキな門にもSaikasが入ってたって事ですよね?」
「あれ?二郎くんはSaikasの名を知ってるんだね」
進一さんの言葉で確信が持てた。
俺の予想どおりにSaikasが、『クラウド型で門に関わる記録の検索や閲覧が可能な仕組み』だと確信が持てた。
「ええ、知ってます。製作者の佐々木さんも知り合いです」
「二郎くんは、佐々木さんを知ってるの?」
「知ってるも何も、俺の元課長です!」
「えっ!じゃあ、あれ?由美子も知ってるの?」
「ええ、大阪のアスカラ・セグレ社で会いました」
「ちょ、ちょっと待って。じゃあ由美子も会ってるのか?!」
俺も進一さんも驚きだった。
俺と彼女の元課長である佐々木さん、Saikasを作った佐々木さんが、『隠岐の島の門』の当代な進一さんと面識があるのだ。
だが、俺の驚きはさらに続いた。
「二郎くん!由美子は『門』に絡んで佐々木さんから何もされてないな?!」
「進一さん落ち着いてください。由美子さんには何もありませんし、何もされてません。門については俺が全て引き受けました。大丈夫です!」
「本当だな、本当に大丈夫なんだな!」
「ほら、進一さん。前が空きました。車を動かして下さい」
「あ、あぁ…すまない」
ふぅ~。はぁ~。
穏やかな進一さんの暴走。
これに慌てた俺は深呼吸で気持ちを落ち着かせる。
ふぅ~。はぁ~。
気が付けば進一さんも深呼吸していた。
「二郎くん。すまん。取り乱した」
「いえ。気にしないで下さい。由美子さんから『門』に関わる話が嫌いなのは聞いてます」
「そうだね。これからも頼むよ。佐々木さんには僕から伝えておく」
「そうですね。その方が良いと思います」
良かった。
進一さんが穏やかになってきた。
けれども、今の進一さんの様子からして、今後は彼女を『門に関わる話』から守り切らないと大変なことになると思い知った。