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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月3日(月)☀️/☀️
178/279

15-6 伊勢の門


 先程、黒曜石を加工する工房で見た原石、それに似た物を海岸際で探す。


 耳元には風が鳴り、波の音だけが規則正しい。

 頬を撫でる風は冷たくはなく、潮を含んでいるのか少し粘つく感触がする。

 そんな自然の溢れる中で、自分の頭ほどの石を退けて、その下をよく見ると黒い小石が落ちている。

 磯の香りに包まれながら、石を退けては見つけた黒い小石を拾って行く。

 拾い上げた黒い小石は、ピンクのバケツに入れて行く。

 進一さんに渡された100円ショップで購入できそうなピンクのバケツだ。


 この作業は思いの外、腰に来る感じで、時折、腰を伸ばす。

 それでも寄せては返す波の音の中で、黒い石を拾う作業を続けるのは、何処か楽しい。


 夢中で黒い小石を探していると、進一さんから声を掛けられる。


「二郎くん。潮が上がり始めた。そろそろ引き上げよう」


 進一さんの声を合図に、潮風の中の作業を終わらせて互いを見やる。

 金髪イケメンが、作業着でピンクのバケツを手にしている姿は、かなりの違和感だ。


「これを加工して丸くするんですか?」

「全部は無理だね。中にはヒビが入ってるのもある」


 車に乗り、先程の黒曜石を加工する工房へ向かう。


 進一さんが職人に声をかけ、採ってきた原石をピンクのバケツで渡すと、同じピンクのバケツを進一さんが受けとる。

 きっと、受け取った方には、加工済みの丸く磨かれた黒曜石が入っているのだろう。

 一方の俺は展示ブースの磨かれた品々を眺め、シンプルなデザインのペンダントトップが気になり手に取る。

 彼女に似合うだろうかと考えていると、再び進一さんが声を掛けてきた。


「由美子に贈り物か?」

「黒曜石のペンダントとか良さそうで、けど魔石か確認されそうですね(笑」


「昔、渡したことがあるよ」

「えっ、あるんですか?」


「試験の時だけ着けてて笑えたよ」

「ハハハ それまずいでしょ?」


 などと会話をしながら、車まで戻ると受け取ったピンクのバケツを渡される。

 中には10個程度、どれもが黒い石が先ほどのペンダントトップのように磨き上げられている。


 これが魔石の原料かと考えながら一粒手にする。

 黒く丸い石には、俺の顔が写っているぐらいに見事な磨き方だ。



 進一さんの運転で来た道を戻り、再び『伊勢命神社いせみことじんじゃ』の前を通った時に


・婚姻相手を連れて

・伊勢神宮に行き

・継げるか否かの判定を貰う


 を『伊勢』の語句から思い出した。


 そして『判定を貰う』に引っ掛かりを感じる。


 なぜ『貰う』と進一さんは述べたのだろう?

 伊勢神宮が『上な』表現に違和感を抱いたのだろう。


「進一さん、さっきの伊勢神宮の話をしても良いですか?」

「良いけど?何か気になるのかい?」


「ええ、当代になるとき伊勢神宮まで行って『お墨付き』か何かがあるんですか?」

「ああ、それね。『隠岐の島の門』に関わる記録、僕が書いた記録があるんだ。二郎くんでも学べるけど…二郎くんとしては他の門の記録だから僕から聞いても良いね?」

「ええ、後で確認しますけど(笑」


「実は伊勢神宮にも『門』があるんだよ。『伊勢の門』と呼ばれて、別名が『神の門』と呼ぶらしい」


 はい。次の門が出てきました。


 『米軍の門』『淡路陵の門』『隠岐の島の門』に続いて『伊勢の門=神の門』です。

 神様、女神様、『門』を造り過ぎです。


「『神の門』と言うぐらいだから、当代を継ぐと報告に行く習わしらしいんだ」

「市之助さんも行ったんですか?」


「いや、市之助さんは初代で当代だから行く必要無し。無条件に当代だね」

「なるほど。じゃあ進一さんは?」


「僕は2回行った」

「2回?」


「高校を卒業して『当代』の宣言をして行ったのが1回目」

「それって『伊勢の門=神の門』を観たんですか?」


「いや、僕は観てはいない。けれども御付きの人達が騒がしかったよ。門が開いたそうだよ」

「へぇ~」


「伊勢の連中には、『未婚で当代を継ぐのは前例がない』とか言ってた奴らもいたらしくて、その時に思ったよ」

「何を思ったんです?」


 進一さんが間を置いた。

 何か考えてます?


「ククク。それで2回目に里依紗を連れて行ったんだ。その時にも門が開いたそうだよ。ククク」

 進一さん。なんか楽しそうです。


 俺は進一さんの言葉を聞いて、伊勢の全てではないが一部の方々に疑問を抱いた。


「なんか、伊勢の言うことに疑問を感じますね」

「そうだろ、二郎くんも疑問を感じるだろ?」


 嬉しそうな進一さんの言葉を聞きながら、伊勢神宮の門に関わる方々に対しての疑念が確信となった。

 きっと、進一さんも同じ考えだろう。

 だが、そんな尖った考えも愚かしく思える。


「進一さんも尖ってたんですね(笑」

「その尖った部分を折ったのが桂子さんだよ」

 そこでバーチャんですか?


「ククク。誰もが僕の当代に文句を言わなくなってからは、僕も丸くなったと思うんだ」

「いや、俺はその時の進一さんを知らないから(笑」


「随分と桂子さんに折られたんだよ(笑」


 バーチャん。折り過ぎです。


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