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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月3日(月)☀️/☀️
177/279

15-5 伊勢命神社


「この先に大きな神社、『水若酢神社みずわかすじんじゃ』があるんだが。毎年、5月3日がお祭りなんだよ。二郎くんは興味があるかい?」


 進一さんから神社への興味を問われたが、残念ながら俺は格段に神社仏閣に興味があるわけではない。


「二郎くんの好きな古墳が、水若酢神社にもあるよ(笑」

「いえ、特に古墳が好きなわけじゃないです。門があるなら興味はありますけど(笑」


 こうして進一さんと冗談が交わせるのは助かる。


 説教気味な状況から、進一さんの苦悩に及んで、『継ぐ』話に至っては現実性に乏しく、目まぐるしい状況の変化だった。

 そもそも『門』に関わる話になると、現実から大きく離れ、それでこそ昨夜の魔石を使った魔法なんてファンタジーな状況に至ってしまう。


 渋滞の車中でそんなことを考えながらも周囲を見渡してみる。


 都内で言う『渋滞』な感じではない。

 全体の速度が遅くなる程度だ。

 完全に停まってしまわない程度で車は進む。


 速度の落ちた車の脇を、時折、数台の電動自転車が通過して行く。

 その電動自転車を漕いでいるのは、どちらかと言えば若い女性が多い気がする。

 一方、渋滞している車はタクシーが多く、タクシー以外の数台の乗用車を見れば『れ』ナンバーで黄色だ。

 『れ』で黄色と言うことは、軽のレンタカーなんだと気が付いた。


「電動自転車が多いですね」

「ああ、観光客の電動レンタバイクだよ。ここまで自転車で来るのは、頑張り屋さんだな」


「何処から来てるんですか?」

「西郷港からだろうね。自転車だと1時間ぐらいだね」


「自転車で1時間ですか?観光客には辛いかもですね(笑」

「あの娘たちならレンタカーもありだと思うんだけど…」


 そう言う進一さんの視線の先を見れば、春物を身に纏って電動自転車に跨がる女子大生らしき3人組が見える。


「レンタカーだと幾らぐらいですか?」

「軽のワゴンで1日5000円ぐらいかな?3人で割り勘にすれば1700円?」


「タクシーより安そうですね」

「やっぱり、電動レンタバイクとレンタカーの組み合わせを父さんに打診しよう」


「剛志さんに?そう言えば剛志さんはタクシー会社のお偉いさんですよね?」

「タクシー会社だしレンタカーもやってる。電動レンタバイクも考えてるらしいけど、どれも微妙に競合するだろ?」


「なるほど、競合しそうですね」

「島での交通費を押さえれば、各拠点を巡りやすくなると思うんだよねぇ~」


 そんな隠岐の島事情を進一さんと会話していると、車列が動き始め渋滞から解放された。

 渋滞を抜け、再びトンネルも抜けると、左折3km久見ひさみの看板が見えた。


〉最終的な行き先は久見海岸ひさみかいがん


 進一さんが告げていた目的地だろう。


 案の定、車は左折して進んで行く。

 すると道路際に石造りの鳥居が見えた。


 『伊勢※神社』


 通り行く看板に『伊勢』と『神社』の文字が見えた。


 隠岐の島に伊勢神宮?


 そう思っていると、進一さんが俺の心を見透かしたように言葉を掛けてきた。


「伊勢神宮とは違うよ。あれは『伊勢命神社いせみことじんじゃ』でお伊勢様とは直接の関係は無いよ」

「確かに『神社じんじゃ』で『神宮じんぐう』じゃないですね」


「二郎くんは『神宮』と『神社』の違いがわかるかい?」

「あれ?何だろう?一緒じゃないんですか?」


「僕も同じだと思うんだけど、当人たちは違うと言うね(笑」

「ハハハ 何かの派閥ですかね?」


 そんな話をしていると車は脇道へと入って行き、暫くして農家のような建物の前で停まった。



「おはようございます」

「おお、秦さんか。今日は早いね」


 建物の中に入り、進一さんが職人らしき男性に声をかけた。

 機械の動く音に混ざっての会話なので、細かい話は聞こえ難い。


 屋内には展示ブースらしきものがあり、磨き上げられた黒い石が並んでいる。

 どの黒い石にも白く、いや七色に輝く柄や文字が入っている。

 なるほど、これは貝細工、いや螺鈿らでん細工と呼ばれるものだろう。

 黒い石は黒曜石こくようせきで、七色に輝く部分は貝の真珠層が嵌め込まれていると思われる。


 ここは、黒曜石を加工する工房なのだろう。


「二郎くん、これを見てくれ」


 進一さんに呼ばれて作業台の側に行くと、ザルに入れられた少しくすんだ石を見せられた。


「こんな感じなのを覚えておいて欲しいんだ。それを加工するとこうなる」


 そう言われて次に見せられたのが、別のザルに入った丸く輝く黒い石だった。


 なるほど。先に見せられたのが原石で、加工されたのが丸く輝いたものなのだろう。


「じゃあ、後で出来た分だけ引き取りに来ます」

「おう、気をつけてな」


 職人さんに見送られ、再び車に乗り込む。

 川沿いの道を進むと、多数の漁船が見えてきた。

 ここは既に漁港なのだろう。


 『ローソク島展望台』


 そう書かれている看板が見える頃、俺の耳には波の音が聞こえるだけなのに気が付いた。


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