2-6 農作業
そうだ、スマホのWi-Fi接続をしておこう。
腕を組みながらテレワーク環境の不足なども考えていると、机の上に置かれたスマホに目が行く。
モバイル接続よりはWi-Fi接続の方が良さそうだと考え、スマホが接続できそうなWi-Fiの一覧を得てみると一つだけ出てきた。
さすがに田舎だ。
周辺近所のWi-Fiを拾うこともなく、使える接続が一つだけ表示されたのだ。
これがバーチャんの使っているWi-Fiだろうと当たりを付けて接続してみると、案の定だがパスワードを要求された。
「バーチャんに聞けばわかるかな?」
再び仏間に行くと、バーチャんはちょうど野良作業姿に着替え終えたところだった。
「バーチャん畑に行くのか?」
「おお、二郎も行くか?」
バーチャんの言葉に少しだけ考えたが、久しぶりに土いじりも良い気がした。
「俺も行きたいが服が…」
「行くなら作業着に着替えんといけん」
畑仕事となれば、衣服も其れなりに汚れるので作業着に着替えた方が良い。
けれども俺には作業着なんて当ては無い。
持ってきたズボンでも大丈夫だろうかと考えていると、
「ワシのじゃサイズが合わん。待っとれ」
バーチャんはそう言うと押し入れを開け、奥まで四つん這いになりなながら何かを取り出してきた。
バーチャんが手にしていたのは、紙袋に入った新品の作業着だった。
「これでどうじゃ?」
俺は少し黄ばんで埃も着いているビニールを開け、中の作業着を取り出す。
サイズを見てみると『LL』の表記がある。
これなら大丈夫だろうと着てみると、案の定大きかった。
「袖や裾はまくれば良かろう。靴は長靴のLで入るか?」
確かに袖は捲れば良かったが、畑作業ならばむしろ動きやすいかもしれない。
けれどもさすがに、靴はサイズが合わないと不便だなと思っていると長靴ならLサイズがあると言う。
試しに履いてみれば大丈夫そうだ。
「バーチャん。これなら大丈夫だ」
「よう似合っとる一郎そっくりだ」
これって一郎父さんの?
確かにお爺ちゃんのにしては、サイズが大きい気もする。
写真でしか知らない父が着るための作業着とは驚いた。
◆
東京の青空とは違う。
故郷の空の青さは違う。
これこそが澄んだ青空というのだろう。
景色が違う。
東京とは色合いが違う。
緑一色とはこの事を言うのだろ。
視線を遮るものがない。
東京ならば直ぐに建物が目に入る。
青空は建物の隙間に見えるもの。
しかしここで見える青空は、緑の絨毯の先につながるものなのだ。
そんな景色のなかで、ショッキングピンクの軽トラは目立つ。
めちゃくちゃ目立つ。
そのショッキングピンクの軽トラに乗って、畑に来た俺とバーチャん。
俺は雑草除去なら手伝えるだろうと申し出たのだが、中腰で地を這うように動き続けるのはかなり辛い。
バーチャんは作物の様子を見ながら、時々、雑草を取ったり軽く耕したり追肥をしているようだ。
久しぶりの農作業は、なれない姿勢で腰にくる。
もっとも普段から運動不足な俺。
慣れない畑仕事など無理なのだろう。
何度も立ち上がり腰を伸ばす姿勢をする度に、バーチャんが俺を見て笑っているようだ。
「慣れないから、腰が痛むか?」
「バーチャんは毎日だろ?スゴいよな」
「最近は毎日は無理じゃ。二日に一度じゃ」
「それでもスゴいよ」
その後も黙々と作業を続けて、指定された畑全体の草取りが終わった。
「今日はこれで終わりかな?」
「二郎が手伝ってくれたから、よう進んだわい」
「この後は?」
「買い物してしまいじゃ」
「それなら俺の作業着も欲しいから買いに行こう」
「その服じゃ気に入らんか?一郎のじゃがダメか?」
「いやいや、もう2着ぐらい欲しいし靴も欲しいんだ。それにパジャマも欲しい」
「そんなら飯くって買い物じゃな」
そう言って片付けをし、再びショッキングピンクの軽トラに乗り込んだ。