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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月2日(日)☀️/☀️
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14-20 黒い粉


 俺は、進一さんの教えで、魔石を使って酔いを醒ました。


 だが、その醒まし方に問題があった。

 『もうお酒は飲まないから』と条件を付けて願ったら、本当に体が酒を飲みたいと思わなくなった。


 魔石を使って酔いを醒ました時に、純粋に『酔いを醒ましてくれ』と、一切の条件を付けずに願ったらどうだったんだろう。

 そうしたことを試したいが、今の俺の体は酒が飲めない体になっている。

 試してみたいが、酒が飲めなくなった俺では試すことが出来ない。


 他の人間で試したらどうだろうか?

 いや、それも危険だ。

 試した人間が、純粋に条件を付けずに願う保証がない。

 先程の俺のように、少しでも条件を付けたら、少しでも不純な考えを添えたら、魔石によってそれが現実となる可能性がある。


 何かこう魔石で何かを実行することが、ものすごく危険な行為であると思えてきた。


「進一さん、やはり魔石は危険すぎる気がする。いや気がするとかのレベルじゃない、危険だ。ハッキリと断言できます」

「二郎くんは、何となくだが魔石の危険性がわかったようだね」

 進一さんの言葉に、俺は強く頷く。


「さて、どうする?お近づきの記しに、小さいが先程の魔石を一つ譲ろうと思うが?」

「いえ、私が持つ物では無いです」


「要らないのかい?便利だよ。門も開けるし、門が開ければ次の魔石も作れるし、何よりも簡単に酔いを醒ますことも出来る。二日酔い知らずだ(笑」

「いえ、まだまだ俺では不純な考えや、先程のように条件を付けてしまいそうです。そんな人間が魔石を持つのは危険すぎます」


 進一さんは、グラスに半分ほど残った酒を一気に煽るように飲み干す。

 俺はその姿を見て、気分が悪くなってきた。

 何でそんな不味い物を、進一さんは平気で飲めるんだろう。

 そんな気持ちになってきた。


「どうしたんだ二郎くん。顔色が悪いが?」

「いえ、進一さんの酒を飲む姿が、こう、ダメだ気分が悪くなってきた」


 正直に気持ちが悪くなってきた。

 目の前で、進一さんが酒を飲む姿が受け入れられない。

 こう、酒を飲むことを心が強く拒否している気がする。


「おいおい、勇者の血筋はそんなに敏感なのか?」


 そう言う進一さんは、作務衣のポケットに手を入れて先程の黒い魔石を取り出した。


「そうだな…『酔いの醒めた元の体に戻してくれ』で行こう」

「『酔いの醒めた元の体に戻してくれ』?」


「そうだ、それ以外を考えるな。僕も手伝う。もう一度言う『酔いの醒めた元の体に戻してくれ。』だ」


 そう言って進一さんは俺の右手に魔石を握らせると、先程と同じように魔石を握った手を両手で包み、祈るような仕草をする。

 俺も進一さんを見習い、魔石を握った手に力を込めると心の中で強く願った。


『酔いの醒めた元の体に戻してくれ。』

『酔いの醒めた元の体に戻してくれ。』

『酔いの醒めた元の体に戻してくれ。』


 心の中で何度も反芻すると、魔石が熱を持った感じがすると体から何かが抜けて行く感じがした。


 パキッ


 握り込めた手の中で、魔石が割れた感じがする。


「進一さん!」


 俺の言葉に応えて、進一さんが祈りの仕草を解き、俺の右手から手を離した。

 解放された魔石を握っていた手を開くと、粉々になった黒い粉が手のひらに残っていた。


「二郎くん、それ黒曜石だから手を切る可能性がある。流しで洗って!」


 俺は慌ててキッチンへ入り、流しの水を全開にして右手のひらに付いた黒い粉を洗い流す。


「二郎くん、どうだ?全部流せたか?」

 進一さんが心配そうに聞いてきた。


「ええ、大丈夫だと思います」

 手のひらを何度も見て、黒い粉が付いていないのを確認する。


「むしろ壊してすいません」

「いや、僕が軽率だった。こんなに魔法が効くとは思いもよらなかった。許してくれ」


「魔法?」


 進一さんの言葉が気になったが、差し出された何枚ものペーパータオルを受け取る。


「進一さん。『魔法』ですか?」

「手を拭く時に擦らないように、さっきも言ったけど黒曜石だから、擦ると手が切れるからね」


 進一さんは俺の言葉を無視して、手の拭き方を忠告してくる。

 その忠告を聞きながら、渡されたペーパータオルに右手のひらを押し付けて、水分を吸わせるようにして行く。

 手のひらに黒い粉が付いていないかを見つめていると、進一さんに右手を捕まれコロコロローラーまで掛けられてしまった。


「いやいや、本当にすまない。僕は勇者の血筋をなめていたよ」

「それより、今のは『魔法』なんですか?」


「二郎くん。慌てないで座って話そう」


 進一さんと二人でキッチンからダイニングテーブルに戻り、元の席に座り直す。

 テーブルの上に置かれた、俺が飲み干せなかった酒が満たされたグラスに目が行く。

 さっきまでは視界に入れるのすら嫌な感じがしていたのだが、今はそうした感覚すらない。

 試しにグラスを持ってみると、体は拒否をせず、何の違和感も無く素直に持てる。


 椅子に座り直し、グラスの中の酒の香りを嗅ぐ。

 芳しい日本酒の香りがする。

 試しに口を付けてみると、始めて口にしたのと同じ味わいが甦る。

 この酒はやはり旨い。


「どうだい、元の体に戻ったかな?」

「ええ、『酔いの醒めた元の体』です(笑」


 俺が笑顔を見せると、進一さんも笑顔で応えてくれた。


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