14-19 何に使う?
「進一さん、今のをもう一度、見せてください」
「ダメ」
えっ??
俺のお願いの仕方が悪かったのか?
「進一さん、もう一度、魔石を見せて貰えますか?」
「ダメ」
やっぱり断るんですね。
「どうしてダメなんですか?」
「ほら、それだよ」
えっ!あっ!そうか!
理解できた気がする。
アスカラ・セグレ社がエリックさんが、魔石を欲しがったのと俺がやってるのは同じじゃないか。
ニヤニヤする進一さんに一本取られた感じだ。
少し癪だが、逆の立場で考えたら見せる理由もないし、渡す理由もない。
ましてや、どうしてだと問われても答えられない。
「進一さん、やられた気分ですが理解が深まりました」
「酔ったままだと、理解を深めれないと思ってね」
それにしても魔石とは凄いものだ。
魔石でこんなことも出来るなんて、俺は思いもよらなかった。
「今のは、本の一例だよ。実際に見せた方が『魔石』の持つ魅力がわかると思ったんだ」
「ええ、わかってきました。魔石でこんな事が出来るなんて驚きです」
「他に魔石で何が出来ると思う?」
「え、えっ?」
「進一くんは魔石で何が出来るか、どれだけの知識があるんだろうね?」
「知ってるのは、『米軍の門』を開くのに使ったぐらいで、他には知らないんです」
「じゃあ、この魔石を手に入れたら、二郎くんは何に使うんだい?」
「何に使う?」
そこまで進一さんに言われて、思考を深めてみた。
酔いが抜けた頭は、色々なことを考え始める。
・魔石を使って門を開いてみる。
⇒門を持ってないから出来ない。
⇒そもそも何のために門を開くんだ?
・魔石を使って二日酔いを防ぐ。
⇒いや、そもそも飲まなければ良い。
⇒深酒しなければ二日酔いは防げる。
他に魔石を使って出来ることは何だ?
そうだ、他に何が出来るか色々と調べたい。
⇒何のために調べるんだ?
「そうだよ、何のために調べるんだ…」
「二郎く~ん」
「え、は、はい。何ですか進一さん?」
進一さんの俺を呼ぶ声で我に返った。
「二郎くんは、魔石を手に入れたら何に使うんだい?」
「何に使えるか調べたいですが…」
「調べたいですが?」
「何を、どう、何のために調べるかは、まだ決められないです」
「門は開かないのかい?」
「いえ、門は持ってないですから…」
「門を持ってたら?」
「持ってたら…開くでしょうね」
「何のために開くんだい?」
「えっ、何のために?」
「魔石はどうやって作れるかは、知ってるよね?」
「ええ、『米軍の門』では実験で魔石を作ったと学びました」
「じゃあ、話を戻そう。二郎くんが門を持ってるとして、魔石がなかったらどうする?」
「……進一さんに、魔石をくださいって頼みますね」
俺は出来る限りの笑顔を作り、進一さんの質問に答えてみた。
「スマイルは0円だよね」
「あれ?隠岐の島には無いですよね?」
思わず進一さんと顔を見合わせ、ニヤニヤしてしまった。
「進一さん、話を戻しますね」
「うん良いよ」
「自分が門を持ってたら魔石が欲しいと進一さんに頼み込みますね。そして門を開いて魔石を作ります。魔石を作るために門を開きます」
「それで自分で作った魔石で何をするんだい?」
「魔石が何に使えるかを調べます」
「何のために?」
「何のために?それはまだ決めてません」
「おしい、もう少しだったね」
そう言って進一さんは酒の満たされたグラスを軽く持ち上げた。
俺もそれに合わせてグラスを持ち上げる。
互いにグラスの半分ほどを飲むが、最初に飲んだ時ほどの旨さを感じない。
何かアルコール臭が強く感じる。
いかにも『お酒』な感じがして、もう一杯とかもう一口という気分になれない。
おかしいなと思いながらも、もう一口飲んでみるが同じ、いや、もっとお酒が飲めないものに感じる。
あれ?何でだろうと思いながら、もう一口を飲もうとして進一さんと目があった。
進一さんはニヤニヤしている。
あっ、これは何かあるなと思い進一さんに聞いてみる。
「これ、お酒が変わりました?」
「いや、変えてないよ。どうかしたかい?」
そう言いながらも、進一さんはニヤニヤしている。
「同じお酒ですよね?」
「同じだよ。違うのは二郎くんが魔石で酔いを覚ましたぐらいだね」
「そうですよね?副作用ですか?」
「何の副作用だと思う?」
「魔石で酔いを覚ました副作用じゃないんですか?」
「さぁ~どうかなぁ~」
「じゃあ、何だろう」
俺は諦めずに、もう一度と酒を口にする。
無理だ。酷く不味いものに感じる。
口に入れるのに酷く抵抗を感じる。
「二郎くんは、『もうお酒は飲まないから』って言ったよね?」
「ちょ、ちょっと待ってください。それは進一さんに教えられて言っただけです」
「いやいや、それでも言葉を口にしたのは二郎くんだし、心の中で願ったのは二郎くんだよ」
「それはそうですけど、進一さんを信用して…」
俺はそこまで口にして、気がついた。
この魔石を使っての酔い醒ましは危険だ。
と言うか、魔石を使って何かを願い、それを実現するのは危険だ。
迂闊に余分なことを意識すると、それが実現してしまう。
俺は確認のために、もう一度、酒を飲めるか試そうとしてグラスに手を伸ばそうとしたが、酒の入ったグラスすら触りたくない気持ちになる。
「進一さん、これは危険すぎます」
「二郎くんもそう思うだろ?」