14-17 試練
先程の疑問を、もう一度振り返ってみたが『魔石』の件がどうしても気になる。
正直に言えば、『魔石』について目の前の進一さんと剛志さんに、色々と聞きたい。
俺の知る『魔石』の知識は、かなり乏しい。
『米軍の門』で魔石を入手したこと、核実験で何らかの方法で魔石を輝く状態にしたこと、魔石を使って門を開いたこと、魔石の複製に成功したことぐらいだ。
二人に『魔石』について、どう聞けば良いのだろうか?
いや、そもそも俺は『魔石』の何が知りたいんだ?
どうしてして俺は『魔石』について知りたいんだ?
あ~もう、考えるのが面倒になってきた。
彼女と結ばれて、彼女と付き合う覚悟をして、彼女の両親に会って、一緒にお酒を飲んで、それで良いじゃないか。
自分の興味本意で『魔石』が何かを知ってどうする?
目の前にある美味しい食事を堪能して、手元のグラスを満たすお酒を飲んで、楽しい会話をすれば良いじゃないか。
自分の興味に押されて、知識を増やすことにどんな意味があるんだ?
なんか、どうでも良い気分になってきた。
きっと、今の俺は酔ってるんだと思う。
「二郎くん。魔石について知りたいけど、今は聞けない感じかな?」
ギクッ。
何だ、どうして進一さんは俺の気持ちがわかるんだ?
しかも進一さんはニヤニヤしてる。
あれ?剛志さんもニヤニヤしてる。
「進一、桂子さんを思い出すだろ」
「やっぱり父さんも経験あるんだ?」
な、何の話をしてるんだ?
桂子さん=バーチャんだよな?
「お二人は、何を思い出してるんですか?」
「いやいや、二郎君。悪かった」
「悪気はないんだ。二郎くん、どうか許してくれ」
二人に謝られてしまった。
謝られても俺には何もわからない。
「どうして謝るんですか?お二人は何もしてないですよね?」
俺がそう尋ねると、剛志さんが進一さんに目配せする。
進一さんは頷くと口を開いた。
「二郎くん。これは継ぐことを志す者への一種の試練なんだよ」
「試練?」
「進一は乗り越えて継いだんだよな?」
「僕の場合は当代になるしか道が無かったからね。言わば退路の無い道だよ」
「すまんな進一。ワシが継げないばかりに辛い思いをさせて」
「いや、父さんの方が辛いよ。試練を越えても努力をしても、結果的に継げないんだから」
「あのぉ~ 聞いても良いですか?」
俺は勇気を振り絞って、親子の対話に割り込んでみた。
「継ぐ継がないは、進一さんが教えてくれる話ですよね?」
「そうだね。明日か明後日にでも話すよ」
進一さんは優しく答えてくれた。
「それで、由美子さんのお父さんが継げな…」
「待った」
剛志さんに話を遮られた。
「呼びにくかったら『剛志さん』で良いよ」
アッ!気付いてたんだ。
「世間では、『~のお父さん』と呼ぶのが普通なんだろうが、どうもワシは苦手なんだ」
「そうなんですか?」
「里依紗の時に、『進一さんのお父さん』『進一さんのお母さん』を連呼されて、吉江と話し合ったんだ」
「ハハハ」
「考えてみれば、ワシも市之助さんを『吉江さんのお父さん』と呼んだし京子さんを『吉江さんのお母さん』と呼んでたよ」
「ハハハ」
だめだ、そうした微妙な話題には愛想笑いしか出来ない。
「里依紗や進一のように、お父さんでも良いぞ(笑」
「ありがとうございます。今日は『剛志さん』で勘弁してください」
「ハッハッハ。すまん、話が逸れたな。それで何が聞きたいんだ?」
「剛志さんが『継げなかった』理由です。今、話していた『試練』が理由じゃないですよね?」
「それが理由じゃないね。父さんは『継ぐ』意思を持ってたんだ。全ての試練を越えたけれど『継げなかった』んだよ」
剛志さんに代わって進一さんが答えた。
「待て待て、進一。継ぐ継がないの話はお前に任せるが、『継げない』話はワシの領分だぞ」
「おっと、そうだった。父さんゴメン」
その時、背後に人の気配を感じた。
「あなた達、いつまで飲んでるの!」
吉江さんが怒りのこもった声を掛けてきた。
「みんな、ご飯食べ終わったわよ。片付けたいから早く食べて!」
吉江さんに睨まれながら、男3人でスゴスゴと誰もいなくなったダイニングテーブルに向かった。
◆
「桂子お婆ちゃん、見てないドラマの話はやめて!」
「そうじゃな。すまんすまん。録画はしてあるから後で見て良いぞ」
目の前では風呂上がりの彼女が、Padに写るバーチャんとドラマ談義をしている。
彼女の手元のPadを覗き見れば、バーチャんは湯上がりビールを楽しんでいるようだ。
彼女も片手にロックグラスを持ち、海草焼酎を楽しんでいる。
一方の俺と剛志さんと進一さんは、吉江さんの準備してくれたお茶漬けをいただいている。
「剛志さん聞いても良いですか?」
「おお良いぞ。ワシは二郎君に過酷な試練を与える気はないから、何でも聞いてくれ」
「クックック」
進一さん、笑い方がちょっと不気味です。
「どうして、継げなかったんですか?」
「血筋だよ」
「血筋?」
「ワシは入り婿なんだ。市之助さんの血が全く無いんだよ」
「どういうことですか?」
「後継者、いわゆる『継ぐ』者になるには、門を出入りした者の血筋が必要なんだよ」
剛志さん、酔ってます?
何を言ってるか理解できないんですけど?
いや、酔ってるのは俺かな?
「進一さん、剛志さんが言ってるのは本当ですか?」
「本当らしいよ。それより先に食べないか?」
「え、えぇ。そうですね」
ズルズル スルスル ズルズル
3人でお茶漬けを啜る音に混ざって、時折、バーチャんの声が聞こえる。
血筋
確かバーチャんがそんな話をしていた記憶がある。
先週?その前か?『国の人』が交代の挨拶で来た時だったかな?
思い出してきたぞ。
『国の人』が交代の挨拶に来て、俺がマクドでメスライオンに骨までしゃぶられた時だ。
俺には
・『門』についての知識が無い
・『門』についての経験が無い
・英語ができない
だから、バーチャんのやっている翻訳の監修を『継ぐ』ことは出来ないと会話した記憶がある。
その時にバーチャんが
〉じゃが、血筋は両方を持っとる
剛志さんの言った、『門を出入りした者の血筋』で考えたら俺はどうなんだ?
礼子母さんは『米軍の門』から出てきた、しかも向こうの世界では勇者の娘。
一郎父さんは『淡路陵の門』から出てきた、向こうの世界では勇者見習い。
俺は門から出てきた二人の子供。
なんか、メチャメチャに『継ぐ』為の血筋が濃い気がしてきた。