14-15 理由
彼女を実家に泊めた話が気になるだろう剛志さん(彼女の父)から、会社からの業務命令で訪問したアスカラ・セグレ社の名を出された。
話を進める中で、剛志さんも進一さん(彼女の兄)もアスカラ・セグレ社を知っていることが気になった。
俺の知識では、アスカラ・セグレ社の社長のエリックさんは『米軍の門』の関係者だ。
『隠岐の島の門』に関わる彼女の父と兄が、『米軍の門』の関係者であるエリックさんと繋がりがあるのだろうか?
加えて剛志さんからは、俺と彼女がアスカラ・セグレ社を訪問した理由を問われた。
俺と彼女が訪問した理由は会社からの業務命令だが、その背景には会社の業績が絡んでいる。
目の前で一緒にお酒を飲んでいる彼女の父親と兄に、娘さんの妹さんの勤める会社の業績不振が訪問の理由ですと伝えることは抵抗がある。
また、自分自身が勤める会社の業績不振が理由ですと伝えることは抵抗がある。
それにアスカラ・セグレ社訪問の理由は、上司である部長からは『他言無用』の言葉も添えられている。
こうした状況で、俺の口からアスカラ・セグレ社への訪問理由を答えられない時はどうするべきか?
「教えてください。アスカラ・セグレ社への訪問理由を知りたい、その理由を教えてください」
「ふっ、そうだな。質問した側が質問の理由を言わないのは『卑怯』な行為だな」
少しだが剛志さんから譲歩を引き出せた気がする。
「進一、エリック・セグレさんとの関係を話せるか?」
「いいよ。父さんの詰め方は強引だから僕の方が良いだろうね」
進一さん。ニヤリと笑わないで怖いから。
詰め方?
確かに俺は問い詰められている。
その問い詰められる理由は…
俺の身勝手な判断で大事な娘さんを実家に泊め、『米軍の門』の関係者であるエリック・セグレさんに会わせたからだろう。
けっして彼女を軽んじたわけではない。
彼女の親族からすれば、心配もするだろうし俺を問い詰めたい気持ちも理解できる。
「二郎くん、まずは一杯飲もう。そのグラスは、父さんの焼酎の方だな」
進一さんの言葉に応えて、剛志さんが俺のグラスに焼酎を注いでくる。
三人で満たされたグラスを持ち上げ、軽く乾杯の挨拶をしてグラスに口を付ける。
「さて、二郎くん。まず互いの知識レベルを共有しよう。知ってること知らないことを互いに明らかにしないと、時に疑心暗鬼に陥るだろ?」
「ええ、そうですね」
「まずは僕からだ。二郎くんに『知って欲しい』事がある」
「…」
「僕や父さんは『隠岐の島の門』についての知識だけに限らず、『米軍の門』に関する知識も備えているんだよ」
「!」
進一さんの言葉に驚きが隠せなかった。
進一さんに気づかれただろうか?
「そして『淡路陵の門』についての知識もあるんだよ」
「そ、そうですよね…」
やはりと言うか当然だった。
秦の家では、『継げなかった』父親がいて『継いだ』兄がいるのだ。
俺が聞き及んだ『米軍の門』『淡路陵の門』『隠岐の島の門』の3つの『門』についての知識を有しているのは当然だろう。
「父さんや僕が気にしているのは、由美子が巻き込まれること、それに継いでもいない二郎くんが巻き込まれることだよ」
「ありがとうございます」
俺は進一さんの言葉に、思わず礼を述べていた。
正直に心から礼を述べていた。
ふと、剛志さんを見れば、進一さんの話にうんうんと頷いている。
その時、京子さんが声を掛けてきた。
「進一。随分と成長したな。市之助さんに益々(ますます)似てきた」
京子さん。
急に割り込んできたけど、市之助さんを引き合いに出すんですか?
「何を言っとる。それより大切な話じゃ」
あれ、これはバーチャんの声だよな。
よく見れば、京子さんがPadを両手で持ち俺たちの方に向けている。
大型液晶テレビにはリビングエリアが写り、酒盛りをしている俺と剛志さんと進一さんが写っている。
「二郎。それに剛志も進一も、飲んどるんか?」
「「はい。飲んでます…」」
どうしたの?
剛志さんと進一さんが急に大人しくなったけど?
「バーチャん。飲みたいの?」
「二郎が飲んどるなら、ワシも飲むぞ!」
飲みたそうにしているバーチャん。
我慢させるのはかわいそうだと思い、俺はバーチャんに答える。
「Padで繋いでるなら飲んでも良いよ」
「よし!それなら風呂じゃ!」
バーチャんがそう言うと、大型液晶テレビの画面に仏間の天井が写った。
きっとバーチャんは、いつもの癖でPadを仏間の座卓に置いたのだろう。
テレビ会議を繋いだままで。