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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月2日(日)☀️/☀️
163/279

14-14 しいしび


 新型Padを使ってのバーチャんとのテレビ会議は、進一さん(彼女の兄)や剛志さん(彼女の父)のすすめで、京子さん(彼女の祖母)から始まった。


 京子さんは、最初は大型液晶テレビに写るバーチャんに驚いていたが、時間と共に慣れてきたのか話が弾んできている。


「桂子さん、今年の新玉ねぎはそんなに出来が悪いんですか?」

「ああ、恥ずかしくて送れんぐらい出来が悪いんじゃ。京子さんすまんのう」


 そんな会話をする京子さんとバーチャんが写る大型液晶テレビを眺めながら、俺は『しいしび』を齧りつつ、剛志さんや進一さんと酒を飲み進める。


 この『しいしび』は、いわゆるイカの一夜干しだ。

 冬の寒い時期が旬のスルメイカを、新鮮なうちに捌いて一晩干し、4分乾きにしたものだという。

 東京で買うイカの一夜干しよりも厚みがあり、甘くて美味しい。

 そして『しいしび』以外にも、並べられた刺身がかなりの旨さだ。

 考えてみれば隠岐の島は周囲が海だ。

 新鮮な魚が豊富に取れるのだろう。


「やっぱりこの刺身は、隠岐の島周辺で捕れたものですか?」

「そう隠岐の島産だ。会社に船持ちの奴がいるんだ。そいつが持ってきてくれたんだよ」


 剛志さんに勧められるままに新鮮な刺身をいただいていると、ロックグラスに氷入りで透明な飲み物を出される。


「これを一緒に飲むと旨いぞ」


 少し口に含んでみると、ほのかに磯の香りがする。


「これって、焼酎ですよね?米じゃないし芋でも麦でもない。何だろう?」

「これが海草焼酎だよ」


 芋や麦、そして米を原料とせず『海草』を原料としたものだという。

 バーチャんに飲ませてみたいなと思っていると、バーチャんの声がする。


「市之助はな、初対面のワシの尻を撫でたんじゃ」

「あらあら、桂子さんも撫でられたの。私なんて撫で回されたのよ。フフフ」

 市之助さん。お尻が好きなんですか?


 尻を触ったとかの話を余所よそに、剛志さんが会社での彼女の様子を聞いてくる。


「二郎君から見て、会社での由美子はどうだ?」

「素晴らしいです。仕事ではかなり助けて貰ってます。同期とも仲が良いし後輩の面倒もしっかり見てますね」

「後輩といえばセンパイ?」

 ギクッ。

 進一さん。ニヤニヤしながら言わないでください。


「センパイ?」

 剛志さん。その疑問に満ちた顔が少し怖いです。


「由美子は二郎くんを『センパイ』と呼んでるよね?」

「二郎君は由美子の先輩社員なのか?」

「いえいえ。同期入社です」

 進一さん。ほらほら、剛志さんが何か気になって来ちゃったよ。


「僕は会社勤めの経験が無いからわからないけど、同期でも先輩後輩で呼び合うのかい?」

「いえ、自分は就職留年してるんです」

「「就職留年?」」

 剛志さんも進一さんも、理解できない言葉ですよね。


「由美子さんとは学年で1年違いなんです。自分は大学卒業時に合わせて就職できなくて留年を選んだんです」


 俺が就職留年の話をしているその時、京子さんから驚きの言葉が出た。


「桂子さんは一回だけでしょ?私なんて毎晩毎晩、市之助さんにお尻を触られたのよ」

「夫婦なんじゃから当たり前じゃ」

 まったく、この二人は…

 亡くなった市之助さんにお尻を触られた話で張り合うなんて、何を考えてるんだ?


「由美子から二郎くんと同じ大学と聞いてたんだけど?」

「ええ、進一さんの言うとおりに同じ大学です。由美子さんはストレートで卒業して就職。自分は留年して就職です。それが同じ会社なんて驚きですよね」

「「へぇ~そんなことがあるんだ」」

 進一さんも剛志さん。

 見事にハモってるけど、京子さんとバーチャんの話が気にならないのか?


 そんな感じで話していると、剛志さんが聞いてきた。


「淡路島の桂子さんの家に由美子がお世話になったようだが…」

 ギクッ。

 娘を実家に泊めたとなれば、父親の剛志さんは気になるだろう。

 俺は息を整え剛志さんの問いに答える。


「ええ、社用で大阪の会社に訪問する際に、由美子さんとの同行が求められたんです。私が有給休暇中で淡路島の実家に帰っていたんで、由美子さんが迎えに来て…」

「大阪の会社?もしかして、大阪の会社って、アスカラ・セグレ社か?」


 俺としては誤解を招かないように丁寧に説明していた。

 だが、剛志さんが『アスカラ・セグレ社』の名を出してきた。


「ええ、そうですけど?アスカラ・セグレ社をご存じなんですか?」


 俺の言葉に、剛志さんと進一さんは互いの顔を見合せ何故か頷いている。

 俺はその様子から、剛志さんと進一さんがアスカラ・セグレ社を知っていることに少し驚いた。


 セグレ一族と言えば『米軍の門』を使った実験の最高責任者で、零士お爺ちゃんと礼子母さんを保護したアルバイン・セグレさん。

 アルバイン・セグレさんの後を継ぎ、『米軍の門』を使った実験の最高責任者となり、礼子母さんの渡米を受け入れたジョージ・セグレさん。

 そしてつい先日に会った、ジョージ・セグレさんの息子で『魔石』を欲しがったエリック・セグレさん。


 いずれも『米軍の門』の関係者だ。

 どうして『米軍の門』に関わっているセグレ一族の会社、アスカラ・セグレ社を剛志さんと進一さんが知っているんだ?


「二郎くん、アスカラ・セグレ社では、誰に会ったんだい?」

「Eric G.Segre=エリックと言う社長です」

 俺が正直に答えると、今度は剛志さんが確認するように聞いてきた。


「二郎君、その、これは確認なんだが由美子と二郎君は、同じ会社なんだよな?」

「はい。そうです。同じ部署です」

 剛志さんから見れば、社内恋愛とも言えるのだろう。

 娘の相手の事、俺の事は気になるだろう。


「由美子と二郎君が、アスカラ・セグレ社を訪問した理由は?社命と言っていたが、なぜ二郎君と由美子が訪問したんだ?」


 少々、風向きが悪くなってきた。

 剛志さんは、俺と彼女がアスカラ・セグレ社を訪問した理由が気になるようだ。


「先ほども説明しましたがアスカラ・セグレ社の訪問は会社の指示でして…少し話が複雑でして…」


 アスカラ・セグレ社の訪問理由を話すには、会社の業績不振に触れなくてはならない。

 娘さんが、妹さんが勤める会社の業績不振を聞かせて良いのだろうか?


「二郎君、話しにくそうだね」

 しまった。剛志さんに勘づかれたか?


 剛志さんが進一さんに目配せすると、進一さんは手を振る仕草をした。

 何だろうと思っていると、進一さんが聞いてきた。


「二郎君、話せないかい?」

「その、『訪問理由』は話しづらいのが事実です」


「会社の業績か?」


 剛志さんが核心を突いてきた。


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