2-5 チャットとネット会議
朝から疲れた。
パワハラ課長の感情を静め、山田に電話で仕事の進め方を伝えた。
それだけで疲れてしまった。
この疲れは、癒された実家での環境から仕事に引き戻されたからだろう。
しかも俺自身には、何も得られるものがない状況に引き戻されたからだろう。
電話で話した山田にしても、パワハラ課長との応対にしても、何も俺に得られるものがないのだと痛感した気がする。
休日出勤と終電残業が続いた職場から離れてそれを感じられるとは…
有給休暇は意味のある物だと考えよう。
こうしていてもくだらない電話連絡は入りそうだし、テレワークなら可能と伝えている以上はテレワーク環境の整備は必要だろう。
俺の有給休暇を充実させるためにもな。
ノートパソコンで会社のネットワークに接続してみる。
以前にアパートから繋いだ方法で接続できることを確認した。
社内メールも読める。
これで山田からメールが来てもひとまずは安心だ。
次は社内チャットを試してみる。
社内チャットに接続すると、俺をセンパイと呼ぶ彼女のIDを見つけた。
彼女は出社すると、社内チャットに繋いでいるんだなと感心していると、彼女の俺を呼ぶメッセージが表示された。
秦由美子:センパイ発見!
門守二郎:秦さん。今、大丈夫か?
秦由美子:センパイはどこからですか?
門守二郎:実家からだよ
秦由美子:実家から繋げるんですか?
門守二郎:俺の実家のネット環境は優秀
少し無駄な自慢をしてみた。
秦由美子:課長か山田に電話した?
門守二郎:朝一で電話した
秦由美子:ありがとう ウザかったぁ~
門守二郎:すまんな
秦由美子:課長と山田が話してる
門守二郎:ははは
秦由美子:今日は大丈夫かな?
門守二郎:たぶん大丈夫だと思う
秦由美子:仕事に戻るね
門守二郎:会議は繋げるか?
秦由美子:繋げるよ
門守二郎:繋いでみて
ネット会議用のソフトを起動すると、彼女の顔が画面いっぱいに広がる。
軽く手を振ってみると、彼女も手を振り返してきた。
「声は聞こえるか?」
…彼女から反応がない。
「聞こえるか?」
「ごめん。ボリューム落としてた。」
無事にテレワーク環境が整ったことが確認できた。
これで大丈夫だろう。
「これで大丈夫かな?」
「ありがとう。これでテレワークも可能だ。」
彼女に礼を言うと、画面に彼女の顔が近寄りヒソヒソと話し始めた。
「後で話があるから夜にでも電話するね。」
「おお。」
そして彼女の顔が画面から消えたので、俺はネット会議用ソフトを閉じた。
社内ネットにも繋げたからメールも読める。
社内チャットも可能だから簡単なやり取りも問題ない。
ネット会議も使えることがわかったのだから、これでテレワーク環境は十分だと言える。
山田が質問事項を整理し、課長に相談が終わったらサポートも可能だろう。
それにしても、これでも俺は有給休暇中の筈だ。
実家に帰ってまで、テレワーク環境の整備や確認をするなんて思いもよらなかった。
仕事を離れられないのは、なぜなんだろうと腕を組んで考えてしまった。