表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月2日(日)☀️/☀️
156/279

14-7 高級住宅


 結局、タクシーで彼女の実家に向かうことになった。


 タクシーは、先ほどバスを降りた場所に数台停まっていた。

 キャリーバッグをドナドナして順番待ちの列に並ぶ。

 程なくして、俺と彼女が乗り込む番となった。

 運転手さんが、俺と彼女がキャリーバッグを引いているのを見てトランクを開けてくれる。

 運転手さんが降りてきて、トランクにキャリーバッグを載せるのを手伝ってくれる。


「あれ?秦のお嬢さんじゃないか」

 運転手さんが、彼女に向かって声をかけた。


「あら、おじさん。お久しぶりです」

「随分と久しぶりじゃねえか。戻ってきたのか?」


 その時、後ろのタクシーから軽くパッシングをされてしまった。

 運転手さんが慌てて、俺と彼女に乗るように促す。

 ふと後ろを見れば、女性3人組が既に乗り込んだタクシーの運転手さんが、俺と彼女が乗る車が発進するのを待っている感じだ。


「まったく辛抱が足りない奴だ。あの女の子3人組、楽しい旅行に水を指されなきゃいいが…」

 車内で運転手さんが少しだけ毒づく。

 どうやらお客さんの心配をしているようだ。


「本当は、おじさんが乗せたかったとか?」

「お嬢、何を言うんですか。俺にはこうしてお嬢を運ぶ大役があるんですよ」


 彼女と運転手さんの冗談混じりの会話から、お互いが顔見知り以上の関係だろうと伺える。


 何にせよ、ここは彼女の地元だ。

 それなりに彼女の知り合いが居ても、おかしいことでは無いだろう。


「それじゃあ、平神社たいらじんじゃまでお願いします」

「暫くはこっちに居るんかい?」


 運転手さんと彼女の会話が続く。


 少し、気になるのは運転手さんが口にした、『秦のお嬢さん』の言葉だ。

 もしかして、彼女は隠岐の島では名の知れた家の『お嬢様』とか?

 だとしたら、俺なんかがお付き合いするのは相応しくなかったりするのか?


 う~ん。

 彼女の兄さんに会うのに腰が引けてきた。

 彼女の両親に会うのに気が重くなってきた。


「秦さん。ちょっと聞いて良い?」

「何ですか?センパイ」


「お嬢の彼氏さんかい?」

 運転手さんが割り込んできた。


「わかりますぅ~」

 秦さん。腕に絡み付かないで。

 運転手さんの気が散って、運転が疎かになっちゃうから。


「それで親父さんは急に休んだんだ」

 おいおい。

 彼女のお父さんは、今日、俺がお邪魔することを知って、仕事を休んだのか?


 あれ?

 何で運転手さんが、彼女の父親が休んだのを知ってるんだ?


「今日、お父さん休んだんですか?」

「ああ、午後は休むって急いで帰ったらしいよ」


「秦さん。お父さんの仕事って?」

「うちの会社の専務だよ」

 運転手さん。バキバキに割り込んできますね。

 秦さん。腕に力が入ってますよ。



 タクシーを降り、運転手さんが荷物をトランクから出してくれる。

 俺は目の前の高級住宅を茫然と眺めている。


「お嬢、頑張れよ!」

「はい。一緒に頑張ります。ねっ♪」

「……」


 話し好きな運転手さんは車を切り返して、来た道を戻りながら意味不明な応援の言葉を投げてきた。

 彼女は俺の腕を掴んだままで軽快に答える。

 何を頑張るかはわからないが…


 タクシーを降りた俺と彼女の目の前には、高級住宅がある。

 2車線の道から脇道に入って、直ぐに見えてきた大きな家だ。


 日本家屋な感じではない。

 むしろアメリカの海外ドラマに出てきそうな感じで、見事に手入れされた芝生の庭の向こうに荘厳な外観の2階建て高級住宅が見える。

 ガレージも備え、Lで始まる白の高級車と、大阪でホテルの迎えに使われていた黒のアルファードが見える。

 更に視線を移せば、普段使いであろう軽自動車が納められたガレージまである。


 彼女の実家は何世帯で住んでるんだ?


「秦さん。この大きな家に何世帯で住んでるの?」

「祖母と両親と兄夫婦と甥っ子ですから…3世帯ですね」


「今日、俺が泊まっても大丈夫?」

「全然大丈夫ですよ。母が客間を準備してるはずですから」


「そもそも、急に俺が来て泊まること自体が非常識な気もするけど…」

「センパイ。逃げたいんですか?」


「ま、まあ。逃げたいかも(笑」


 彼女の言葉に本気で頷きそうになった。

 逃げ出したい気持ちは本気だが…


「センパイ。往生際が悪いです」

 秦さん。アヒル口な怒った顔も可愛いです。


「それと、ここからは『由美子』もしくは『由美子さん』と呼んでくださいね」

「えっ?」


「わかりませんか?」

「??」


「じゃあ、今まで通り『秦さん』と呼ぶんですか?あの家の中は、全員が『秦』ですよ」

「!!」


 そうだ。彼女の言う通りだ。

 職場で呼んでいた癖で、ついつい『秦さん』と彼女を呼んでいた。

 けれども彼女の両親や親族に会い、会話をする上で、彼女を『秦さん』とは呼べないだろう。

 彼女の親族の名字は『秦』なのだ。


「秦さん」

「センパイ。練習したいんですか?」

 なぜバッグに手を入れてスマホを取り出すの?


「由美子さん」

「待って待って。録り損ねちゃった。はい。もう一回」


「由美子」

「……」


「由美子さん」

「……」


「何回言えば気が済むの?由美子さん?」

「よし。録れてる録れてる」


 神様仏様。サンダース様。

 それに女神の若奥様。


 どうか教えてください。


 彼女の実家の前で、俺が彼女の名を呼ぶのを『なぜ録音されるのか?』どうか教えてください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ