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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月2日(日)☀️/☀️
154/279

14-5 隠岐空港


 無事に隠岐の島の空港に着いた。

 飛行機はかなり揺れたが無事に空港に着いた。


 ここまで『隠岐の島の空港』と呼んでいたが、正しい呼称が「隠岐空港」であり、愛称が「隠岐世界ジオパーク空港」と彼女の説明で知った。


 そして地方空港特有の「なるほど」を学んだ。

 着陸した飛行機が移動し、空港施設の建物ターミナルビル付近で止まる。

 飛行機にタラップが接続され、自分自身で歩いて空港施設の建物ターミナルビルへ移動するのだ。


 機外に出てタラップを降り、地に足を着けて自分が生きていることを実感した。

 格段に飛行機に恐怖感が有ったわけではないが、今まで機内という閉鎖された空間から解放された感じがする。


 まさに五月晴れと呼べる空の青さ。

 見渡す限り、背の高い建物が周囲に見当たらない。

 空港だからと言うのもあるとは思うが、素晴らしいまでの解放感がある。


 空港の建物ターミナルビルに向かって彼女と歩きながら、それとなく感想を口にする。


「これが地方空港の実際なんだね」

「はい。これが当たり前です」


 飛行機から降りて地面を歩くなんて、伊丹空港の経験からすれば思いもよらなかった。

 空港の建物ターミナルビルから、搭乗橋を使って飛行機に乗り込んだ経験しかない俺だ。

 当然のように、降りる際も同じだと思い込んでいた。


 けれども、よくよく考えてみればこれは当たり前のことなのだ。

 ニュースなどの映像で、どこそこの大統領や首相が日本に来た際には、乗ってきた飛行機を背景にタラップの上で手を振る姿が流される。

 その後は楽隊の演奏に迎えられ、同様なお偉いさんと握手して黒塗りの大きな車に乗り込む。


 この隠岐空港との違いは、お偉いさんの握手が無いこと、黒塗りの大きな車でのお迎えが無いこと、楽隊の演奏が無いことだけだ。


 空港の建物ターミナルビルに入り、荷物受取所で彼女と共に自分達の荷物が出てくるのを待つ。

 最初に彼女のキャリーバッグが出てきた。

 続いて空港で購入したお土産が出てきた。

 俺のキャリーバッグが出てこない。

 20個ぐらい他の方々の荷物が出て来たのだが、俺のキャリーバッグだけが出てこない。


「これって、どんな順番なんだろ?」

「不思議ですよね。私は経験無いけどファーストクラスだと最初に出てくるそうです」


「秦さんはファーストクラスの経験があるの?」

「美奈は、インドへ行った時に乗ったそうです」

 美奈?

 ああ、あの個人情報駄々漏れにしている同期入社で人事部の美奈さんね。

 インド旅行の経験があるんだ。


「へぇ~。さっきの飛行機にもファーストクラスってあるの?」

「センパイ。あると思いますか?」

 秦さん。その皮肉を口にした笑顔も可愛いです。


「無かったと思う…」

「あ、ほら、センパイのですよ」


 彼女の言う通り、俺のキャリーバッグがベルトコンベアに乗せられ出てきた。


 彼女と共にキャリーバッグを引き連れて、空港ターミナルビルのロビーに出る。


 う~ん。全てが見渡せる。


 伊丹空港で見かけた、航空会社のチェックインカウンター。

 その隣の荷物預け入れ口。

 保安検査への入り口。

 お土産を売る売店。

 その隣の飲食店?喫茶店?。

 更にターミナルビルの出口。


「センパイ。食事はどうします?」

「う~ん。秦さんはあの店で食べたことある?」

 そう言って、俺は飲食店のような喫茶店のような店を顎で指す。


「私は無いんです。ちゃんぽんが美味しいらしいんですが…」

「ちゃんぽん?長崎チャンポン?」


「ええ、兄や叔母さん達が美味しいと言ってたんです」

「食べたくなって来たね」


「じゃあ、行きましょう!」

「よし。隠岐の島で最初の食事はチャンポンだ」


 店内を覗いて彼女と顔を見合わせる。


「センパイ。満席ですね」

「こ、これは無理だな」


「人気店とは聞いてましたが…」

「諦めよう」


「ですね」

「秦さん。隠岐の島でおすすめの食べ物は?」


「チャンポンですね」

「えっ?」


「バスにまだ間に合う。行きましょう。案内します」


 そう言って彼女は建物ターミナルビルの外にダッシュで出て行く。


「センパイ!急いでください。もう出るそうです!」


 止まっているバスの前で、彼女が俺を呼ぶ。

 キャリーバッグとノートパソコン専用バッグ、そしてお土産の袋を持って俺は彼女の元に走りよる。

 彼女と共に路線バスに乗り込むと、程なくしてバスの扉が閉まり、バスが動き出した。


「秦さん。急いで乗ったけど、このバスであってるの?」

「大丈夫です。飛行機が着いて15分後には出ちゃうんです」


「??」

「ああ、わからないですね。このバスは空港とポートプラザを繋ぐバスで、飛行機から降りたお客さんを乗せるんです」


「路線バスだよね?」

「路線バスですよ。発着時間が飛行機に合わせてるんです」


 俺は彼女の言葉を、直ぐに理解できなかった。


 彼女は走って乱れた息を整えながら、俺に説明をしてくれた。

 俺も息を整えながら説明を聞き、ようやく理解できた。

 空港から街中に向かうバスは、飛行機が空港に到着して15分後には出発するというのだ。

 そのために空港で時間を要したり、バスを乗り過ごすと、次の飛行機が到着するまで街中に向かうバスが無いというのだ。


「今の飛行機が最終便だったら…」

「空港からタクシーですね」


 伊丹空港で話していた、隠岐の島に着いてお土産が買えるかとか、食事をするなんて、そもそもタクシー利用が前提の話だったんですね。


 俺は、隠岐の島をなめていたのかもしれないと、少しだけ反省した。


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