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門の守人  作者: 圭太朗
2021年5月2日(日)☀️/☀️
150/279

14-1 チェックアウト


 朝のSPAを楽しみ、朝食を済ませて部屋に戻る。

 彼女の準備した衣服に着替えれば、出発準備が整う。


 某アパレルショップで揃えたものだが、ボタンダウンのシャツに良い感じでジャケットが合う。

 一昔前に流行った、『カジュアルデー』の装いとも言える感じに仕上がっている。


 一方、彼女の装いを見てなるほどと感じた。

 初日に着ていたパンツスーツなのだが、ボトムスパンツのデザインがかなりワイドでゆったりしたものになっている。

 インナーもラフだがレースをあしらった女性らしいデザインだ。


「秦さん。そのスーツって…下のボトムスパンツが何種類あるの?」

「へへへ。これって便利なんです。今回は3種類持ってきました」

 なるほど。

 女性が出張などで着るには、かなり便利そうだ。

 ビジネスシーンからカジュアルまで、インナーとボトムスだけで使い回せる。

 もっとも彼女の容姿が、それを引き立てているのも事実だろう。


コンコン


 出発準備も整ったので、そろそろフロントに向かおうとした時にドアをノックする音がした。

 こんな出発間際にと思いながらドアを開けると、初日に俺と彼女を出迎えた4人が廊下に立っていた。


「門守様、秦様。チェックアウトの手続きに参りました。お部屋に入っても宜しいでしょうか?」

 今井コンシェルジュリーダーの言葉に、少し驚いた。

 フロントでチェックアウトをせずに、部屋で手続きをすると言うのだ。


「どうぞ」

 驚きつつも案内をすると、4人が入ってくる。


「お荷物はキャリーバッグ2つと、こちらのカバンで宜しいですか?」

「ええ、それだけです」

 小野山コンシェルジュと荷物係が確認を求めてくるので返事をすると、荷物係と小野山コンシェルジュがさっさと運び始めた。


 少し呆然としていると、太田支配人がソファーへと誘導してくる。

 その誘導に従いソファーに彼女と並んで座ると、向かい側には太田支配人と今井コンシェルジュリーダーが座る。


「ご確認のサインをお願いします」

 そう告げて太田支配人が明細書を出してきた。

 総合計額は俺の月の手取りを越える数字だ。


「お預り金から差し引き、残金は振込元へお返しさせていただきます。銀行への手続き上、10日付けでの振込となります」

 太田支配人さん。預り金って何ですか?

 彼女と目を合わせると、彼女は少し首を傾げる。


「10日付けでは、ご都合が悪いでしょうか?」

「いえ、それでお願いします」

 彼女が首を傾げたのに太田支配人が反応したのだと思うが、俺も彼女もお金を預けた記憶がない。


 たしか眼鏡が、


〉資料提供への御礼として予算は取れております。


 そんなことを言っていたが、その事だろうか。

 本音を言えば、俺はバーチャんから借りたお金で払うつもりでいた。

 隣に座る彼女も、そのつもりだったのだろう。

 普段使いのバッグに手を入れて、俺が預けた茶封筒を取り出そうとしている。


「それでは、ご確認のサインをお願いします」

 太田支配人がペンを出してきた。

 俺は言われるがままにサインをする。


「それでは、これで手続きは終わりです。「今回は当ホテルの選択に心から感謝を申し上げます」」

 チェックインの時と同じ言葉を太田支配人と今井コンシェルジュリーダーから聞かされて、チェックアウトが終了したと理解した。



 ホテルが準備した送迎車から降り、彼女と二人でキャリーバッグをお伴にリムジンバス乗り場に向かう。


「センパイ。ホテル代、大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。気にしないで」

 彼女は少し心配そうだ。


「出張清算が終わったら、払いますから…請求してください」

 俺は彼女の言葉を聞きながら、ウエストポーチからスマホを取り出す。


「秦さん。もう一回」

「えっ?何がです?」


「出張清算が終わったら?」

 俺の言葉に気が付いたのだろう、彼女が言い直した。


「ホテル代とUSJのチケット代、出張清算が終ったら払います」


 スマホに録音した彼女の声を再生してみる。


〉ホテル代とUSJのチケット代、出張清算が終ったら払います。


 スマホから流れるその声を聞いたとき、彼女の笑顔がひきつったのを見た俺は、思わず笑いだしそうになってしまった。



 リムジンバスには空きもあり、無事に乗り込むことが出来た。

 彼女と並んで座り、スマホで小野山コンシェルジュの予定を調べ直してみる。


11:20 USJバス停3番乗り場

 ↓リムジンバス伊丹空港線

12:00 大阪(伊丹)空港


「センパイは、タクシー利用は考えなかったんですか?」

 俺の手元のスマホを一緒に見ながら、彼女が聞いてきた。


「秦さんは、伊丹空港まで全てをタクシーも考えた?」

「正直に言うと、小野山コンシェルジュの説明を聞いていて思いました。ホテルから伊丹空港までタクシーもありだなって…」


「俺も思った。けど渋滞に捕まるのはリムジンバスもタクシーも同じだと感じたんだ」

「センパイはそっちが優先なんですね」


「そっち?秦さんは?」

「私は、小野山コンシェルジュの頑張りを無駄にしたくなかったんです」


「頑張りを無駄に??」

「小野山コンシェルジュが頑張って調べてくれて、その案で問題が無ければ頑張りを受け入れたいじゃないですか」


「そうだな。タクシーでもリムジンバスでも同じなら、小野山コンシェルジュが調べてくれた案に乗るのもありだね」


 タクシーとリムジンバスでは差がある。

 選択基準を金銭にすれば、リムジンバスが選ばれるだろう。

 便利性を基準にすれば、乗換が不要なタクシーを選ぶだろう。


 俺は渋滞に捕まれば同じだから、金銭を優先してリムジンバスを選んだ。

 得られるであろう結果が同じで、金銭を優先しないならば、彼女のような視点で選択するのも大切なことだ。


 提案を受け、後から基準を持ち出して選択するのは『卑怯ひきょう』な行為だ。

 選択する基準があるのならば、最初から示せば良い。

 後から何かを持ち出すのは提案をしてくれた方への『無礼ぶれい』な行為だ。


 彼女の言葉から、そうしたことを学んだ気がする。


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