2-4 山田に仕事を教える
バーチャんに渡されたLANケーブルをノートパソコンに繋ぐ。
軽くネットの設定をして通信速度を確認すると、俺のアパートより早そうな数値が得られた。
バーチャん。なかなかやるじゃないか。
そんなことをしていると、スマホに知らない番号から着信が入った。
「はい。カドモリです。」
「課長からテレワークでと言われました。」
お前は誰だ?(声は山田だけど)
こいつは電話をしてきて、自らの名すら名乗らない奴だったのか。
「あなたは、誰ですか?」
「山田ですが?」
「ヤマダ?電話をかけて名乗らない。そんなヤマダと言う知り合いは私にはおりませんが?」
「同僚の山田です。わかりませんか?」
「同僚に山田と言うものはいますが、電話を掛けてきたら名乗れる者の筈ですが?」
「…」
「切りますね。」
そう告げて俺は電話を切った。
しばらくして今度は会社から電話が入った。
「はい。カドモリです。」
「山田です。」
「はい。ご用件は?」
「課長から言われました。門守くんからテレワークでサポートを受けろと…」
「その話ですね。どんなサポートが欲しいんですか?」
「テレワークでと課長に言われたので、自分のスマホからかけたんですが?」
何を言ってるんだこいつ?
「それで有給休暇中の私に、どんなサポートをして欲しいんですか?」
「テレワークでは詳しく伝わらないと思うので、会社に出て来れませんか?」
?? 何を言ってるんだこいつ?
「私が会社に出向くのは、あなたから詳しく話を聞くためですか?」
「あなたが有給休暇を取るから、こうして私が頑張っているんです。」
「それで?」
「テレワークでは、個人の電話を使うので電話代もかかるんです。出社してくれませんか?」
??? 何を言ってるんだこいつ?
今もこうして電話で仕事の話をしようとしてるじゃないか。
俺は山田が何を言いたいのか理解するのに時間を要した。
こいつは俺と同年の筈だが、社会人として向き合うと違和感を感じる。
以前に土下座謝罪に付き添ったのは課長の指示だった。
俺が土下座をしたお客様は、前年までは俺が担当していたお客様だった。
それがパワハラ課長の指示で山田に担当が変更されたのだが、山田は担当変更の挨拶以降、一度もお客様に顔を見せに訪問したことが無かったそうだ。
その時から、この山田は社会人としての常識と言うか何かが欠落しているのだろうと思っていた。
そして今日のテレワークでの話に至って、電話では伝わらないから出てきて欲しいと言い出す始末だ。
誰だ。俺の仕事を山田に振ったのは。
あぁ。あの課長か…
俺は半ば諦めつつ、俺の仕事の行く末を配慮してこう伝えた。
「山田くん。まずは俺の話を聞いてくれるか?」
「この電話でですか?」
…切れそうになる気持ちを押さえて…
俺はかなりゆっくりと山田に伝えた。
「まずは、テレワークとは何かを学ぼう。それと俺に質問があるならば、質問事項を整理してメールに書き記そう。そのメールを課長に見せて相談してくれ。これら全てが終わったら、俺に電話してくれ。わかったな?」
「…」
無言かよ。
「まずは、『テレワークとは何かを学べ』ですか?」
「そうだ。そこからだ。」
ゆっくりと話せば理解できるのか。
「質問事項をメールに書く。」
「そうだ。俺に質問したいことを書くんだ。」
「それを課長に相談する。」
「メールに書いた俺への質問事項を課長に見せて相談するんだ。」
「それが終わったら、カドモリくんに電話する。」
「よし。それで良いぞ。」
「…」
「じゃぁ。切るぞ。」
そう言って俺は電話を切った。
何かメチャメチャ疲れた気がする。
山田は、職場でどんな仕事をしていたんだ?
俺は、本気で悩んでしまった。