13-3 生返事
小野山コンシェルジュは、お土産のカタログと注文用紙を持参していた。
部屋の外、廊下での立ち話よりはと考えて部屋の中に入ってもらった。
結果、彼女がリビングエリアのソファーで小野山コンシェルジュから説明を受けることになった。
バチ当たりな俺は、することもなくなったのでリビングエリアのデスクでノートパソコンを取り出す。
その時に、急に彼女から声をかけられた。
「センパイ。お婆ちゃんへんのお土産どうします?」
「う~ん。どんなのがあるの?秦さんから見て、バーチャんに合いそうなのってあるかな?」
ホテルのWi-Fiへの接続を試みたが、案の定というか当然のようにパスワードを求められる。
「う~ん。これかなぁ~」
「じゃぁ~ それでぇ~」
彼女の問いかけに、全面的に任せる返事をする。
部屋の機器を説明する冊子にパスワードが書かれていた筈だと、冊子を開きパスワードを入力すると無事に接続できた。
「センパイ。注文しましたよ。」
「では、最後の分は昨日と同じ宛先ですね。」
小野山コンシェルジュが宛先を確認している。
秦さんの分と、バーチャんの分は別の宛先になるよね。
続けて社内ネットにログインして、社内メールを確認すると2通の未読メールが来ていた。
「そうだ、小野山コンシェルジュ。明日ですけど、13:30に伊丹空港出発の隠岐の島行きに乗りたいんです。」
「では、空港行きのリムジンバスを調べておきます。」
そう言って、小野山コンシェルジュが席を立った。
「お邪魔になってしまい、すいませんでした。」
小野山コンシェルジュ。
俺に向けた、その笑みの説明をしてください。
「センパイ。お土産は終わりましたよ。お風呂に行きませんか?」
「ありがとうね。ちょっとメールを見させて。」
デスクチェアに座る俺の背後から、彼女の腕が絡んできた。
「センパぁ~い。」
「…な、何かな?」
秦さん。雰囲気が怪しいです。
「センパイ。生返事したでしょ~」
秦さん。その腕の絡め方は危険です。
未読メールは2通あった。
1通は課長の代返で彼女が発信したものへの、追加質問だった。
「秦さん。メールが来てるよ。」
「センパイ…」
秦さん。絡めた腕が首に纏わりついて、更に怪しい感じです。
「今度生返事したら許しませんよ。」
「ご、ごめんなさい。」
秦さん。お願いだからヘッドロックは勘弁してください。
もう1通の未読メールは、部長からのアスカラ・セグレ社への訪問を労う(ねぎらう)メールだった。
◆
昨日同様にSPAを楽しんだ。
サウナと湯船の往復を2セット。
湯上りビールを欲しがる体に仕上がった。
少しクールダウンして、約束の時間にSPA施設のエントランスに行く。
彼女の姿が見当たらないので、しばし待つことにした。
そう言えば、明日の飛行機が伊丹空港発だと彼女が言っていた。
着替えと一緒に持ってきたスマホを取り出して、隠岐の島行きの便を確認してみると13:30出発の直行便が確認できた。
これだなと当たりをつけて、このホテルから伊丹空港までの所要時間と交通機関を確認する。
小野山コンシェルジュが言っていた通りに、リムジンバスが出ている。
ここで少し考える。
大阪へ来る際に、交通渋滞で鉄道に切り替えた。
大阪の市街から、伊丹空港への交通事情がわからない。
伊丹空港へのリムジンバスが渋滞に捕まりやすいなら、鉄道などの遅延が出にくい交通機関も考えておく必要があるな。
「センパイ!」
「おお、秦さんか。ビックリした。」
SPA施設から出てきた彼女に、急に声をかけられた。
「SPAの前でスマホを触ってると…」
「スマホを触ってると?」
「盗撮犯に見えます(謎」
◆
昨夜と同じビュッフェスタイルの席へとやって来た。
受付で部屋番号と名前を告げると、スイートルーム利用者専用席へと案内された。
席に着くと、直ぐに女性の給仕係さんが飲み物の注文を取りに来る。
昨夜もお世話になった給仕係さんだ。
「秦さん。今日は何から…」
「ビールを中ジョッキで2つお願いします。」
はいはい。ビールが飲みたかったのね。
「「お疲れぇ~」」
ビールに添えられて出てきた枝豆をつまみながら、明日の飛行機を彼女に聞いてみる。
「秦さん。明日の飛行機って伊丹空港から?」
「そうです。13:30の直行便です。」
「じゃあリムジンバスで伊丹空港行き?」
そこまで話したときに、小野山コンシェルジュが席にやって来た。
「門守様、秦様。伊丹空港へはリムジンバスが便利ですよ。」
「そうなんですか…GWの渋滞とかで遅れたりしませんか?」
俺は大阪に来た際の渋滞を思い出しながら問いかける。
「皆様、心配されますが、ひどい遅れは聞きません。電車も可能ですが乗り換えが意外と不便です。」
「なら、大丈夫かな?」
「念のために予定を作ってきました。」
そういって、小野山コンシェルジュは印刷された紙を見せてきた。
10:30 チェックアウト
11:00 ホテル発
↓タクシー移動
11:20 USJバス停3番乗り場
↓リムジンバス伊丹空港線
12:00 大阪(伊丹)空港
登場手続き
13:30 隠岐の島行き
なるほど。
これならリムジンバスが渋滞に捕まっても、1時間程度は余裕がありそうだ。
「秦さん。どうかな?これなら大丈夫だと思うんだけど。」
「私もこれなら大丈夫だと思います。」
彼女が同意してくれた。
それでも小野山コンシェルジュの説明が続く。
「リムジンバスですが予約が出来ません。満席の場合にはタクシー移動がお勧めです。」
「ありがとうございます。」
「お手数をお掛けしました。」
俺と彼女の言葉で、小野山コンシェルジュは去っていった。
これで明日の予定も決まった。
後は食事を楽しんで、明日に備えて寝るだけだ。