12-16 5つの質問
「さて、これで俺の使命は果たせた。二人の使命は果たせたかな?」
「私は十分です。センパイはどうですか?」
「そうだね、今回のアスカラ・セグレ社訪問の使命は果たせたと思う。けど……」
「「けど?」」
「門守君、何か気になるのかな?」
「センパイ、まだ続けるんですか?」
「実は疑問が5つ湧いてしまったんだ…」
「せ、センパイ、5つもですか?」
「門守君、俺は良いけど秦さんは解放しないか?」
「そうですね。佐々木さんは、この後は予定がありますか?」
「おいおい。それは僕と君の二人で残業する提案か?門守君は僕の主義を忘れたのかい?非効率な残業はやめようよ。」
「センパイ、今でなきゃダメですか?」
俺は思案した。俺の5つの疑問は、
1.Saikasは複数あるのか?
佐々木さん(元課長)は言った。
〉門守君の実家と秦さんの実家のSaikasに登録されてる日記は読んでるから
これにエリック・セグレさんが『米軍の門』の日記を加えれば、俺の知っている門の全ての日記が揃う。
『淡路陵の門』『隠岐の島の門』『米軍の門』と3つのSaikas存在が考えられる。
2.なぜ佐々木さんは複数のSaikasの日記を読めるのか?
俺は『淡路陵の門』に関わったことから、『国の人』な眼鏡からユーザーIDとパスワードを受け取ってSaikasを使えるようになった。
佐々木さん(元課長)は眼鏡と同じ様にユーザーIDとパスワードを貰って見ているのか?
しかも各門のSaikasのユーザーIDとパスワードを持っているのか?
3.アスカラ・セグレ社は門を持っているか?
エリックさんとマリコさんは魔石を欲しがった。
俺が日記から学習した限りは、『米軍の門』では実験において『魔石』の製造に成功している。
〉魔石は成分分析を行い、同成分の材料で『米軍の門』を使って製造を試み成功している。
アスカラ・セグレ社はアメリカ本土にある『米軍の門』とは別に、独自に門を持っているのではないか?
その独自に持っている門を開くために、魔石が欲しいのでは?
4.魔石は何に使うのか?
独自に持っている門を開くためでなければ、なぜ魔石を欲しがるのか?
魔石は門を開く以外に用途があるのか?
5.眼鏡は何者か?
Saikasと日記の組み合わせは眼鏡の発案だ。
佐々木さん(元課長)は彼女を同行したお客様提案で、眼鏡と会っている。
つまりは、この時点では『Saikas』という仕組みは佐々木さん(元課長)の手にあり、『日記』は眼鏡の手にあった。
〉門に関わる日記と最初に接触した
〉あの時は秦さんに悪いことをした
けれども後に眼鏡は佐々木さん(元課長)に、彼女の同行を拒否する旨を伝え佐々木さん(元課長)もそれに従っている。
この事からすると、眼鏡の素性が判然としない。
眼鏡は彼女が『隠岐の島の門』に関係のある人物だと知っているのだ。
それなのにSaikasと日記の組み合わせに、彼女が関わらぬよう遠ざけている。
眼鏡が佐々木さん(元課長)にSaikasを使用するためのユーザーIDとパスワードを渡しているとしたら、眼鏡の素性と言うか立ち位置が判然としない。
6.眼鏡と佐々木さん(元課長)の関係は?
佐々木さん(元課長)と眼鏡は面識がある。
Saikasと日記の組み合わせを実現した当人同士だ。
そして眼鏡は佐々木さん(元課長)に、『淡路陵の門』『隠岐の島の門』『米軍の門』これらの日記が読めるようにユーザーIDとパスワードを渡している可能性がある。
だとしたら、佐々木さん(元課長)と眼鏡の二人は、今はどんな関係なんだ?
ここまで考えてやめた。
5つと口にしたが6つも出てきた。
既に自分が想定や連想のスパイラルに入っているのを認識した。
「いや、今日は終わりにしましょう。」
「ヤッター!センパイ、宿にGOです!」
「終わりにするけど、佐々木さんの連絡先を教えてください。」
「いいよ。まずは二人の荷物だな。」
◆
佐々木さん(元課長)に連れられ、小会議室に行くと警備員の仁王立ちは続いていた。
佐々木さん(元課長)が警備員と会話して開けてもらう。
俺と彼女が小会議室に入り荷物周辺を確認すると、スマホの録音は続いていた。
録音は後でノートパソコンに転送してから聞いてみよう。
無事に荷物を取り戻し、無人受付のエントランスまで佐々木さん(元課長)の付き添いで戻った。
ここなら大丈夫だと言われ、佐々木さん(元課長)と連絡先を交わした。
「連絡して良いのは平日の09:15~17:15だけ、土日などの休日はNG。秦さんに教えても良いから。」
「わかりました。」
「そうだ、今日は大阪に泊まるのかい?」
「はい、今日は大阪で泊まって、明日はUSJで、明後日は隠岐の島です。」
秦さん。楽しそうですね。
「宿が取れてるんだ。何処だい?迷いそうなら送るよ。」
「センパイ、何処ですか?」
二人に言われて俺はウエストポーチから、眼鏡に渡されたメモを取り出した。
〉InterContinental Hotel Osaka 06-xxxx-xxxx
〉Conrad Osaka 06-xxxx-xxxx
〉INTERGATE UMEDA 06-xxxx-xxxx
〉LIBER HOTEL at USJ 06-xxxx-xxxx
「何で、こんなに書いてあるんだ?」
サッ。俺の取り出したメモを彼女が取り上げる。
彼女はメモに目を通して、俺に目配せしてから佐々木さん(元課長)に質問した。
「課長これって、何処かわかります?」
「どれどれ。」
佐々木さん(元課長)は、彼女が見せたメモを見て考え込んだ。
「秦さんと門守君。どれに泊まるの?」
この時、俺は佐々木さん(元課長)と眼鏡の関係を探る意味を込めて聞いてみた。
「これって知人に予約してもらったんです。」
「このGWに予約が取れるなんて凄い人だね。」
「佐々木さん(元課長)も知ってる人ですよ。」
「……」
「課長、『眼鏡』さんです。知ってますよね?」
秦さん。ナイスアシスト!
「ふ~ん。やっぱり君らは面識があるんだ。」
「佐々木さんも面識ありますよね?」
さあ、佐々木さん(元課長)どうする。
「彼ならこれだけの予約も取れるな。」
「やっぱり課長は面識があるんですね。」
さあ、彼女も聞いてるんだ答えろ佐々木さん(元課長)。
「秦さん。俺は残業はしないよ。けれども、君らの為にホテルの場所は教えよう。これは元部下へのお礼だな(笑」
「「はぁ~」」
思わず彼女と共に溜め息をついてしまった。
「さて、どれが知りたい?まさか全部じゃないよな?」