12-13 エルフと勇者
「まずは、秦さんの質問に答えよう。」
「私の質問は、兄、センパイ、お婆ちゃん、この3人が同じ日記のようなものをみているのかどうかです。」
「その質問への答えはYESだ。」
「その日記は『門』について書かれたものですか?」
「その質問への答えもYESだ。」
「じゃあ、兄も英語の翻訳をしてるんですか?兄の英語力は常に赤点ですよ。」
秦さん、お兄さんをディス(dis)ってますけど。
「ククク。なら翻訳には関わっていないね(笑」
「よかったぁ~。お兄ちゃんが翻訳したのをセンパイのお婆ちゃんに見られてないかと心配だったんです。」
秦さん、何の心配をしてるんですか?
「課長、今日のアスカラ・セグレ社訪問ですが、私を指名したのはエリックさんですか?」
「その件ですけど、俺も指名されてます。やはりエリックさんの指名ですか?」
「君らの指名の共通点を言えば、僕が二人を知っていること、Saikasに関わりがあること、そして門の関係者だからだと考えるのが正しいね。」
うんうん。その考えは正しいと思う。
佐々木さん(元課長)の考えには俺も同意できる。
「けれども、私は『門』についての知識は0ですよ。センパイは詳しいんですか?」
「秦さんは『門』の知識は0なの?」
あれ?佐々木さん(元課長)が驚くような困るような顔をしている。
「はい。『門』については祖父の後継者が兄なので、私は『門』については何も知らないんです。」
うんうん。今朝も言ってたね。
「祖父が亡くなって、後継者に兄が立つまでトラウマになるぐらい嫌なことや変なことがありました。」
トラウマになるぐらい嫌なこと?
「兄が高校を卒業して、後継者の宣言をしたんです。それから『門』絡みは全て兄の許可が必要になりました。」
今朝も言っていたことだね。
秦さん、そこで俺を見るのは…
「佐々木さん。秦さんの言う通りです。今回の訪問が『門』絡みなら、俺が全てを受けます。ですからエリックさんにその事を…」
そこまで言った時に、俺の視野にマリコさんが入ってきた。
「門守さん、秦さん。安心して。」
「あれ?マリコさんどうしたんです?」
佐々木さん(元課長)がマリコさんの問いかけに反応した。
「エリックに白状させたから。困った男よ、まったく。」
「何だったんです?」
「エリックはエルフと勇者に興味があったのよ。」
『エルフ』?
確かバーチャんが言ってた。
》ほんに由美子さんは綺麗じゃ。
》やはりエルフの娘は可愛いのう。
『勇者』は確か…
》勇者か…礼子の父親じゃな。
》一郎は勇者見習いだったそうじゃぞ。
ああ、俺のことか…
「最終的に、秦さんと門守さんを選んだのは彼なの。さっき話していて、変な感じがしたから問い詰めたら白状したのよ。」
「エリックさん。また悪い癖が出てますね(笑」
「前に桂子さんに会いに行ったのも、ドワーフに興味があったからでしょ。」
「そういえば、そんなことを言ってましたね(笑」
「けど、今回は佐々木さんのSaikasの件もあるし魔石の件もあるでしょ?」
「そう言えばエリックさんは?」
「バツが悪そうにして帰ったわよ。」
「「「帰った!?」」」
「私も帰りたくなっちゃった。後は佐々木さんにお願いして、私も帰って良いかしら?」
「Saikasの件は僕で話せますけど、魔石の件は良いんですか?」
「お任せします。じゃあ、帰るわね。門守さんと秦さん、今日は彼の我儘で大阪まで呼び出して、本当にごめんなさいね。」
そう言って、マリコさんは背を向け去っていった。
あれ?何か忘れてる気がする。
「センパイ、荷物…」
「はっ、そうだ!荷物を置いた部屋の鍵!」
「門守君、秦さん。鍵って?」
「マリコさんに小会議室に案内されて荷物を置いて…」
「その部屋にマリコさんが鍵をかけたんです。」
そこまで聞いて、佐々木さん(元課長)が猛ダッシュで帰ろうとするマリコさんを追いかけていった。
◆
「何か、気が抜けちゃいました。」
「そうだね。」
雨が吹き付ける大きな窓の前に立ち、彼女と共に一息入れる。
俺と彼女をエリックさんが指名した理由はともかく、面倒臭そうな話から解放された気分だ。
「雨、強くなってますよね。」
「ああ、強くなってる。」
「明日も雨なのかなぁ~…」
「そうだね。雨で荒れると飛行機が飛ばないか…」
「…センパイ、飛行機は明後日ですよ。」
「えっ?あれっ?」
「もしかして…」
「そうそう、隠岐の島行きは明後日だったね。」
やべっ、そうだ大阪には2泊するんだった。
え~と明日は確か…何だっけ?
「センパイ!忘れたんですか!」
「えっ?な、何を?」
「USJでセンパイとのデートです。」
「い、いや。忘れてないよ…」
忘れてました。ごめんなさい。
正直に言って、エリックさんとの面会が終わって完全に気が抜けてるな。