12-12 休憩
「すいません。ちょっと休憩にして貰えますか?」
俺は思考が纏まらなくなって、休憩をお願いした。
「ええ、休憩にして貰えると助かります。」
彼女も着いて来れないようだ。
「積もる話しもあるでしょう。佐々木さん、二人と休憩してきて。」
マリコさんが休憩に同意して、佐々木さん(元課長)に案内を頼んでいる。
「エリック、ちょっと話があるの。来てくれる。」
マリコさんは、エッリクさんが入ってきた扉の前で、こっちに来いと言わんばかりだ。
呼ばれたエリックさんは、急ぎ足でマリコさんに続いて壁の向こうに消えた。
「秦さん、大丈夫か?門守君は?」
「何とか…」
「俺は大丈夫です。」
佐々木さん(元課長)に連れられ、彼女に気遣いながら重役室の外に出た。
正直に言って、エリック(偽物)が出てくるは、佐々木さん(元課長)が登場するは、彼女の兄との繋がりで自社製品の話が出て、俺は思考が追い付かなくなった。
彼女は何とか話しに着いてきたが、佐々木さん(元課長)の登場や、兄の話と自社製品の話が出て、俺と同じく混乱したのかも知れない。
◆
広いオフィスエリアの窓際は、カフェスペースになっていた。
複数台の自動販売機が並んでいる。
佐々木さん(元課長)の話では、飲み物の全てが無料だと言う。
さすがは外資系企業だ。
俺と佐々木さん(元課長)は缶珈琲を手にし、彼女はカフェオレを選んだ。
ここまで3人で歩いてきたオフィスエリアには、誰一人として人がいなかった。
「佐々木さん。今日はGWで皆が休みですか。誰とも会っていないんですが?」
「マリコさんが人払いしたかな?」
あっさりと人が居ない理由を告げられた。
「それにしても、お久し振りです。」
「そうです。課長。お久し振りです。」
「秦さんも再起動したか?(笑」
「課長が登場して気が動転して、兄の話が出て、自社製品の話が出て……」
「ハハハ。驚かそうとは思ったが、そこまで驚くことか?」
何とか彼女も思考が回る準備ができたようだ。
「課長、兄は自社製品を使ってるんですか?」
彼女が佐々木さん(元課長)に問いかけた。
「秦さん、質問に答える前に『自社製品』の呼び名を止めて『Saikas』にしてくれるか?」
何だ?佐々木さん(元課長)が製品の呼び名に『なぜ』こだわるんだ?
「はい、これからは『Saikas』と呼びます。改めて聞きますが、兄は『Saikas』を使ってるんですか?」
「ああ、使ってる。」
佐々木さん(元課長)が彼女に答えると、彼女は俺に歩み寄ってきた。
「センパイ。センパイも使ってるんですか?」
「はい。使ってます。いえ、使い始めたところです。」
つい、彼女の気迫に押されて言い直してしまう。
「センパイのお婆ちゃんも使ってますよね?」
「はい。使ってます。えっ?秦さん、見たの?」
「見ました。お婆ちゃんが操作してるPadにロゴが見えたから…センパイのお婆ちゃん凄いなと思ったんです。」
確かに、あの年齢でPadを操作するのは凄いかも。
「二人に聞きますけど、自社製…そのSaikasで見てるのって、兄もセンパイもお婆ちゃんも、3人とも同じものを見てるんですか?」
繋がる。
彼女の言葉で、全てが繋がる感じがする。
「兄もセンパイもお婆ちゃんも、それとエリックさんも…課長もSaikasを使って同じ何かを見てるんですよね?」
「そうだね。」
佐々木さん(元課長)がハッキリと答えた。
「それって、英語と日本語の両方で書いてますか?」
「英語と日本語?秦さん、何で知ってるの?」
「昨日の夜、お婆ちゃんがPadで翻訳してる様子を見せてくれたんです。私も英語は自信があったんで…」
「そう言えば、秦さん。さっき英語を喋ってたよね?」
「あれ?門守君は知らなかったの?彼女は英語力が高いと社内でも評判なんだよ。」
「センパイ。教えてあげましょうか?」
秦さん。ニヤリとしないで。
「秦さん。話を戻すよ。君の言う通り、門守君のところも、君の兄も、そしてエリックさんも同じものを見ている。もちろんだが僕も見ている。」
えっ?佐々木さん(元課長)も見ている?
「それって、日記のような物ですか?」
「門守君、答えられる?」
佐々木さん(元課長)が俺にフッテ来た。
「いや、俺では正確には答えられない。秦さんの兄さんが同じものを見ている確証が無いから。」
「センパイとお婆ちゃんは?」
「ちょ、ちょっと待って。」
佐々木さん(元課長)の問いに俺が答え、彼女が次の問いを口に出した時に、元の問いを出してきた当人の佐々木さん(元課長)が話を止めてきた。
「質問した俺が悪かった。君らがどのくらいSaikasで学んでいるかを確認したかったんだ。」
「課長、何を言ってるんですか?意味不明です。」
彼女は問いを止められ納得しないようだが、俺は佐々木さん(元課長)の言葉に答えが含まれている気がした。