12-10 トム・クル○ズ
荷物を全て置き、彼女と一緒に小会議室を出ると、モデルさんと警備員が待っていた。
警備員の登場で雰囲気がものものしくなった。
そのものものしい感じに驚いていると、
「閉めます。」
モデルさんはそう言って小会議室の戸を閉めると、戸の脇に取り付けられた装置を操作する。
徐に首からぶら下げた社員証らしき物を装置にかざすと、小会議室の扉からガチンと音がした。
モデルさんは小会議室の取手を握り、2度ほど小会議室の戸をガタガタさせる。
小会議室の戸に鍵を掛けた証だろう。
その様子を確認した警備員が、小会議室の前に仁王立ちする。
「トイレはよろしいですか?」
モデルさんの言葉に応えて彼女を見れば首をふる。
「気遣いありがとうございます。大丈夫です。」
彼女がそう言うと、モデルさんが前を歩き重役室のような部屋に案内された。
木目調の壁に囲まれた重役室。
モデルさんの案内で、中央に据えられた会議テーブルに向かって俺と彼女で並んで座る。
会議テーブルの上手(誕生日席?)には、かなり大きな液晶テレビが置かれている。
「まもなく来ますのでお待ちください。」
そう告げたモデルさんは、俺達の後ろで仁王立ちする。
アスカラ・セグレ社は仁王立ちが流行りなのか?
まもなく来るであろう、エリック氏に聞きたくなった。
ガチャリ
俺と彼女が入って来た扉が開き、壮年な外国人が入って来た。
「コンニチハ。」
外国人が話し掛けてきた日本語は、少し訛りを感じる。
俺と彼女は椅子から立ち上がる。
モデルさんは俺達の後ろから、外国人の横に移動する。
入ってきた外国人は、会議机を挟んで俺達の反対側に立つと右手を差し出してきた。
「ワタシガ Eric G.Segre デス。」
「門守二郎です。」
「秦由美子です。」
「Mr.Kadomori ケイコサンハ ゲンキデスカ?」
「Mr.Eric 桂子は元気です。私は門守二郎です。Jiro と呼んでください。」
Mr.Eric が差し出してきた手に合わせて俺も右手を差し出し、握手を交わして挨拶をする。
やはりと言うか当然のように、バーチャんの名前『桂子』が出てきた感じだ。
「Ms.Hata シンイチサンハ ゲンキデスカ?」
その時、俺は強い違和感を覚えた。
Mr.Eric が出した手に合わせて、彼女が握手しようと差し出した手を掴む。
「きゃぁ!」
彼女は可愛い悲鳴を上げる。
構わず俺の後方に彼女を隠すように下がらせた。
「センパイ!急に何ですか?!」
「Mr.Eric, I have a question.」
"エリックさん、質問があります。"
「??」
「Mr. Eric, where did you hear the name Shinichi ?」
"エリックさん、どこで「進一」の名を知ったのですか?"
「……」
俺の質問が彼女にも聞こえたのか、俺の背後で彼女が身を固くするのを感じる。
パチン
フィンガースナップ(指パッチン)?
モデルさんが右手を動かしてるので、彼女が鳴らしたのだろう。
それまで右手を出していた外国人は手を下ろし、その手を軽くフルと入ってきた扉から出て行った。
俺の後ろで少し緊張を緩めた彼女が聞いてきた。
「せ、センパイ、どう言うことですか?」
俺は彼女の言葉には答えず、モデルさんを真っ直ぐに見つめる。
「門守さん。失礼しました。お掛けになってお待ちください。」
「いや、断る。秦さん、帰ろう。」
「センパイ…」
「秦さん、帰ろう。」
「……」
モデルさんは黙っている。
「あなたは俺たち二人を呼び出して、何をしたい!何が目的だ!」
俺は強めの口調でモデルさんに問いかける。俺の背後の彼女は再び体を固くした。
俺はモデルさんから目を離さない。
彼女を守る様に背後に隠し続ける。
「ふっ。」
モデルさんが息を吐き緊張が解ける。
ガチャリ
木目調の壁の一部がドアのように開いて、どことなくトム・クル○ズに似た外国人が入ってきた。
「マリコ。彼が門守二郎さん?女性が秦由美子さん?」
このトム・クル○ズさん、日本語が堪能だ。
トム・クル○ズさんがツカツカと俺たちの方に向かってくる。
俺はモデルさんから目を離し、近寄るトム・クル○ズさんに注意を払い、彼女を背後に隠し続ける。
「エリック、だから私は言ったんです。これはやりすぎだって。」
「二郎はん、堪忍してや。」
大阪弁?トム・クル○ズの容姿で大阪弁は違和感が強すぎる。
それにモデルさんも口調が砕けてきた。
「私の見立てでは、荷物を預けてるので0点ですね。」
「そやけどワイの仕掛けは見抜いたやないか?それで十分とちゃうんか?」
「センパイ、もう良いですか?」
「う、うん。大丈夫だと思う…」
彼女に声をかけられ俺も緊張を解いた。
「座って話さんか?」
そう言ってトム・クル○ズさんが会議机に向かって座る。
隣に座れとモデルさんを手招く。
俺たち二人にも座れとジェスチャーしてくる。
トム・クル○ズさんの提案に従って、俺も彼女も席についた。
「ほな、改めまして。ワイがエリックや。ほんでワイの右腕のマリコや。」
「マリコ・セグレです。」
「マリコ・セグレ?エリック・セグレ?」
「そうや、ワイの嫁さんで右腕のマリコや。」
確かに、二人の左手薬指には指輪があるから結婚してるんですね。
「じゃあ、本題に入ろうか……」
「いや、ちょっと待ってください。あなた方が本当にエリック・セグレだと証明されていません。先程は偽物まで出てきました。」
俺は先程の、偽物のエリックが登場したことを皮肉を込めて伝えてみた。
「それはこちらも同じです。私達は、あなたが本当の門守さんと秦さんとは確認できません。」
「それは全ての荷物を取り上げたからです。」
モデルさんの反論に、彼女が反論を重ねる。