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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月30日(金)☁️/☂️
135/279

12-9 小会議室


「Hello. My name is Jirou Kadomori.」

 "私の名前は門守二郎です。"


「I have an appointment with Mr. Eric at 15:30.」

 "私はエリック氏と15:30の約束をしました。"


 拙い脳細胞から知りうる限りの英文を引き出し、発音を気にせずに答えてみた。


「Please hold the line a moment.」

 "通話を切らずにお待ちください。"


 受話器の向こうから返って来た英語が、俺の知っている範囲であることを思わず神に感謝した。


 彼女と二人でエントランスで待つ。

 俺は右手に持った受話器を置きたくなったが、「Please hold the line」の言葉に従うと置くことが出来ない。

 そろそろ勘弁して欲しいなと思った時に、パーティションの向こう側から長身黒髪スレンダーな女性が現れた。


 モデルで女優の『菜○緒』に似ている。


 年齢で言えば俺や彼女と同じだろうか、いや、もう少し若くて鈴木さんや田中君と同じぐらいか。

 彼女と同じ様にパンツスーツに身を包み、モデル歩きだ。

 今後は彼女を『モデルさん』と呼ぼう。


「Hello. Mr.Kadomori.」


 先ほどの電話の声と同じだ。

 モデルさんが英語で喋っていたのね。

 俺はようやく受話器を戻すことが出来た。


 モデルさん、出来れば日本語でお願いします。

 そう考えつつも英語での挨拶をしようとすると、俺の後ろにいた彼女が半歩前に出て、英語で喋り出した。


「We are Japanese. And this is Japan. Why don't we have a conversation in Japanese?」

 秦さん。後で翻訳をお願いします。


「わかりました。ここからは日本語で話します。案内しますので、こちらへどうぞ。」

 モデルさん。日本語を喋れるの?

 それなら最初から日本語でお願いします。


 モデルさんの後ろをついて、エントランスのパーティションを越えると、目の前にガラスで囲われた小部屋のようなものが見える。

 よく見ると、ガラス張りの小部屋の中には階段が見える。

 こうした階段って、別のお客様のオフィスで拝見した記憶がある。

 そのお客様からは、「異なるフロアの交流を促進する社内階段」とか言う説明を聞いた。

 そのガラスの小部屋以外には視線を遮るものがなく、大きな窓まで見通せるオフィスフロアが広がる。


 清潔感に満ち近代的でオープンなオフィスフロアに圧倒されながら、モデルさんの後ろを着いて行くと、4人掛けのテーブルが置かれた小会議室に通された。


「この部屋で荷物をお預かりします。」

「ありがとうございます。」

 モデルさんからの気遣いだろう。

 俺と彼女の荷物キャリーバッグへの気遣いが嬉しかった。


「この後、打合せされるエリアには電子機器を持ち込めません。また Mr.Eric との面会ではメモも出来ませんので、この部屋で荷物をお預かりします。」

 そう言って、モデルさんは小会議室の外に出て開けていた戸を閉めた。


 気遣いじゃなかった。

 こうした電子機器の持ち込みを禁ずるのは、録音や写真撮影の防止もあるが、内部情報の持ち出しを防ぐ目的もある。

 更にモデルさんは、面会ではメモも出来ないと口にした。

 エリック氏はかなり情報管理に徹底した姿勢が伺える。


 俺が土下座謝罪に行った東京支社(この大阪が本社の筈だから、東京が支社扱いだろう)では、こんな対応はなかった。

 それだけこの大阪本社は、よりアメリカ本国に近い位置付けなのだろう。


 だが、この会議室に荷物を預けるに際して、少し気になることが出てきた。

 今日の俺はノートパソコンとPadを持ち歩いている。

 しかもノートパソコン専用バッグには、眼鏡から受け取ったUSBメモリーも入っている。

 これらを無防備にアスカラ・セグレ社に預けて大丈夫なのだろうか?


 ノートパソコン専用バッグとウエストポーチを巻き付けたキャリーバッグを置く。

 スーツのポケットに入っているものを、机の上に全て出す。

 財布、PASMO、バーチャんから受け取った茶封筒、眼鏡から受け取った二つ折りのメモと赤封蝋がされた白い封筒。

 軽くスーツのポケットを叩き、全てを机に出したことを確認する。

 バーチャんから受け取った茶封筒(たぶん現金)の中身を見て驚いた。

 明らかに俺の夏のボーナスより多い。

 縦横に帯封がされた現金だ。

 慌てて茶封筒に戻してスーツの内ポケットに入れ、紛失を恐れてボタンまで閉じてしまった。

 ウエストポーチからスマホを取り出す。

 代わりに机に並べた全てをウエストポーチに放り込んだ。


 バタバタとスーツから出し入れする俺。そんな俺を眺める彼女と目があった。


「センパイ。スーツのポケットに入れ過ぎです。シルエットが崩れますよ。」


 はい。すんません。


 指摘をする彼女は、既に支度を終えていた。

 俺に指摘するだけあって、普段から衣服のポケットには物を入れないのだろう。


 俺は最後にスマホを操作して録音を開始し、荷物の上に見えるように置いた。


 これで俺と彼女の荷物に触れるなと言う警鐘になれば良いが…


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