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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月30日(金)☁️/☂️
128/279

12-2 隠岐の島行き


 朝御飯の洗い物を済ませ、3人分のお茶を入れて仏間に運ぶ。

 俺が座卓に着くと、彼女が話しかけてきた。


「センパイ。隠岐の島行きはどうします?」

「隠岐の島は行きたいね。秦さんのお兄さんと話がしたいね。」


「グッ」

「ほれ、由美子さん心配せんでも二郎は行くと言うたじゃろ。」


 彼女のサムズアップと、バーチャんの言葉が気になる。


「由美子さん。吉江さんにはワシから電話するで。」

「じゃあ、飛行機は私が予約しますね。」

 急に、二人で話を進めてるけど?


「淡路陵の桂子じゃ。吉江さんか?」

「由美子さんは無事じゃ。」

 バーチャん。それは誘拐犯の台詞です。


「やった、同じ便が空いてる!」

 彼女はスマホで予約してるし…


 俺の「隠岐の島は行きたいね」発言から二人が急に何かしてるけど?


「ちょっと待て。何をしてるの?」

「飛行機の予約です。よっし!センパイ。帰りも同じ便です。」

 秦さん。朝からドヤ顔でスマホの『予約完了』画面を見せないで。

 そのドヤ顔も美しいけど。


「二郎が進一君と話したいから行くそうじゃ。えっ?…ワシは行けんぞ…」

「…新玉ねぎか?スマン手元にないんじゃ…」

 バーチャんの方は、俺の話からズレている気がする。


「秦さん。その飛行機の予約っていつの?」

「明後日です。帰りは5日の水曜日です。」

 秦さん。笑顔が可愛いけど。

 明後日(5月2日)出発って急すぎるよね?


「あ、もうこんな時間。お婆ちゃん始まりますよ。」

「おお、こんな時間か。じゃあ切るぞ。」


 彼女の言葉に反応して、バーチャんも電話を切った。

 そして二人は直ぐにテレビドラマな人になった。



 公共放送のテレビドラマな人から戻った二人に、俺は隠岐の島行きについて話を続けた。


「隠岐の島に行きたいとは言ったけど、明後日出発は早過ぎない?」

「善は急げと言うじゃろ。」

「私と同じ便が嫌なんですか?」


 テレビドラマな人から戻ってきた二人に説教しようとしたら反撃を喰らった。


「急に行ったら迷惑でしょ?」

「構わん。ワシが許す。」

 バーチャんが『許す』話なんですか?


 バーチャんに『隠岐の島』行きを提案された俺は、彼女の兄に会って『継ぐ』ことについて話を聞きたいとは言った。

 けれども俺は今日明日に行く話ではなく、まだ先のことで考えていた。


「秦さんのお兄さんだって、急に俺が『話を聞かせろ』って押し掛けたら迷惑ですよね?」

「構いません。私が許可します。」

 秦さんが『許可』する話なんですか?


「待って待って。ちょっと待って。」

 俺は明後日の隠岐の島行きを推す二人を制して、冷静に話し合うことにした。


「秦さん。冷静に考えて。俺が急に実家に行ったら迷惑でしょ?」

「行くとしても明後日ですよね。急じゃないですよ。」

 秦さん。そこでニッコリ笑顔ですか?

 可愛らしい笑顔で心が揺らいじゃうよ。


「バーチャん。冷静に考えて。俺が急に秦さんの実家に行ったら『門守は迷惑な奴だ』って思われちゃうよ。」

「二郎。秦の市之助は急に来たぞ。しかも家族6人じゃったぞ。」

 あ~ぁ。あの集合写真のことですね。

 秦さんのお爺さん家族6人で来てたね。


「秦さん。実家でのんびりしたいでしょ。俺が急に実家に行ったら家族水入らずが水浴び状態だよ。」

「笑えん「ジョーク」がオヤジじゃ。」

 二人でハモりが微妙です。


「それに飛行機の予約も無理でしょ?」

「さっき、同じ便で取れたの見せましたよね?」

 はい。見ました。

 秦さんのドヤ顔も見ました。


 このままでは押し切られる。

 何か起死回生の一手は……


 そうだ!


「バーチャん。俺が居なかったら飲めないよ。いいの?」

「…今まで二郎はおらんかった。来週にも東京に帰るじゃろ。同じじゃ。」


 バーチャんが微妙に寂しそうだ。

 俺がもっと頻繁に帰ってくれば良いんだよね。

 返り討ちを喰らった気分だ。


 正直に言えば、隠岐の島へ行き彼女のお兄さんと話をしてみたい。『継ぐ』の意味を知りたい。


「いつ行くんじゃ。行くなら今じゃろ!」

 バーチャん。その言い回しは少し古いよ。


「センパイ。一緒に隠岐の島に行かないなら、今日の大阪に私も一緒に行きませんよ。」

「秦さん。それは…むしろ困るのは秦さんじゃないの?」


 俺は彼女の反撃に抗ってみた。

 彼女が大阪には行かないと言い出しているが、大阪に行かないと困るのは彼女だ。

 彼女は俺と一緒に大阪でアスカラ・セグレ社を訪問しないと、今回の帰省が出張扱いにならない可能性がある。


「センパイ。私の出張扱いを気にしてます?」

「う~ん。秦さんの『門』に関わる気持ちはわかったから、今日のアスカラ・セグレ社訪問で『門』に関しては俺が引き受ける。けれども明後日の隠岐の島行きは少し話が違うと思うんだ。」


 少し変化球だが、これでわかって貰えるだろう。


「仕方がないですね。最終手段です。」


 そう言って彼女がスマホを操作すると、聞き覚えのある音声が流れてきた。


》秦さんの出張扱いが消えたら、秦さんの帰省費用は俺の夏のボーナスで払います。


 彼女のInstagramに上げられた俺の言葉だ。


 俺は決断した。


「わかった。秦さん。一緒に行こう。」

「グッ」

 秦さん。サムズアップ連発です。



 二人に押し切られた俺は、明後日の隠岐の島行きを承諾した。


「ああ、お母さん。由美子です。」

「うんうん。明後日、行くから。」


 さっきはバーチャんが話していたが、今度は彼女が隠岐の島の実家に電話しているようだ。


「それでね。えっ、…うん…うん。」

「わかった。代わるね。」


 そう言った彼女はスマホをバーチャんに渡した。


「代わったぞ、淡路陵の桂子じゃ。」

「伊勢か?…ワシは構わんぞ。」


 電話を代わったバーチャんは、再び俺の隠岐の島行きからズレた話をしているようだ。


 バーチャんと彼女、彼女の母が電話で話しているのを見ていても仕方がない。

 俺は寝泊まりしている部屋へ戻り、旅支度をすることにした。


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