12-1 作戦会議
チュンチュン
鳥の鳴き声で目が覚めた。
トイレに行き顔を洗い普段着に着替える。
神棚に手を合わせるために座敷に入ろうとして、一瞬、止まった。
多分だが、彼女は座敷で寝たはずだ。
俺がこのまま座敷に入って大丈夫だろうか?
念のために仏間を覗いてみたが、バーチャんも彼女もいない。
食堂(台所と食卓のある場所)を見れば、二人で台所に立っていた。
「おはよう。」
「二郎、起きたか。」
「センパイ。おはようございます。」
秦さんどうしたの?
俺の顔を見て顔が赤くなったけど?
そのジーンズ姿。大学時代を思い出すよ。
う~ん。バーチャんの言う通り、可愛いは正義ですね。
彼女が台所に居るなら大丈夫だろうと思い座敷に入ると、布団は綺麗に畳まれており、彼女のキャリーバッグが置かれ、彼女のパンツスーツはハンガーに掛けられ鴨居にぶら下がっている。
やはり俺が寝てる間に移動したんだ。
神棚に続いて仏間で仏壇に手を合わせ、朝御飯を食べるため食卓に向かう。
台所に繋がる食卓に座れば湯気の立つ白飯と味噌汁。そして生卵。
机の中央には漬け物が山盛りの大皿。いつもの朝食だ。
今朝はこれに昨夜の晩御飯の残りで『赤魚の煮付』が置かれている。
「「「いただきます。」」」
3人で手を合わせ、食事前の挨拶をする。
まずは味噌汁からと椀の中を見れば、俺の好きな『玉ねぎと卵』だ。
「どうですか?」
「「合格」じゃ。」
バーチャんとハモってしまった。
彼女は嬉しそうだ。
「秦さんが作ったの?」
「はい♪」
秦さん。笑顔が素敵です。
「昨日は先に寝ちゃってゴメンな。」
「気にしないでください。」
「いいもんが撮れたで(笑」
「お婆ちゃん。しー!」
彼女は口の前で指を立て、バーチャんに黙りを求める仕草をする。
二人で何をしてるんだ?
「荷物の移動を手伝わないで、先に寝ちゃってごめんな。」
「寝顔が可愛かったです(笑」
「ハハハハ」
「へへへへ」
「ニヤニヤ」
バーチャん。横でニヤニヤしないで。
「そうじゃ、二郎。」
「何?バーチャん?」
「今朝から由美子さんと話とったんだが、隠岐の島に行ってみんか?」
ブフッ
たまごかけご飯を吹き出しそうになった。
「バーチャん。急に何を言い出すの?」
「二郎は『隠岐の島の門』に興味があるじゃろ。」
「『隠岐の島の門』か…」
昨夜二人に聞きたかった話が出てきた。
だが、彼女が何も言わないのが気になった。
「二人とも聞いてくれる。」
「何じゃ改まって。」
「何ですか?」
それから俺は、今日のアスカラ・セグレ社訪問で会う『エリック』さんは『米軍の門』の関係者である話をした。
バーチャんは『うんうん』と頷いて聞いてくれた。
だが、彼女はうんざりするような顔をする。
「センパイ。『門』に関しては任せていいですか?」
「秦さん。俺に丸投げ?」
「ホッホッホ」
バーチャん。そこは笑うところですか?
「ダメですか?」
「秦さんが嫌なら、今日はやめとく?」
「う~ん…と言うか、『門』については全て兄に任せてるんです。もし今日の大阪行きが『門』に関わる話なら、兄の許可が必要です。」
俺は彼女の言葉を聞いて、改めて思った。
俺は確かに『隠岐の島の門』に興味はあるが、一番の興味は彼女の兄さんが『継いだ』ことだ。
バーチャんや若奥様(女神)が口にする、『継ぐ』が『どういうことなのか』を知りたいのだ。
「私が気になるのは、行かないと出張扱いにならないことですね。」
「体調不良とかで誤魔化すか…」
俺がそういった時に、バーチャんが口を開いた。
「二郎。今日の出発は何時じゃ?」
「御陵前のバス停で11:58だから11:30には出ようと思う。」
「エリックとの待ち合わせは何時じゃ。」
「15:30だよ。」
「なら、まだ時間があるな…ワシがエリックと話すか?」
「「えっ?」」
「何を驚いとるんじゃ?」
「エリックさんと話せるの?」
「お婆ちゃん。話せるならお願いします!」
「由美子さんに確認しとくが、『門』に関わる話なら行きたくないんじゃな?」
「兄の許可があれば…けど、私は『門』については何も知らないんですよ。」
俺は彼女の言葉に少し驚いた。
バーチャんの言葉では、彼女の一家は『隠岐の島の門』に関わっているはずだ。
なのに彼女は『門については何も知らない』と言い切り、『門』については関わりたく無い感じを伝えてくる。
けれども考えてみれば、俺も1週間前は彼女と同じで『門』については何も知らなかった。
全てはバーチャんの「日本人じゃない」と言う衝撃発言から始まった。
俺の親である一郎父さんや礼子母さん、育ての親である零士お爺ちゃんや目の前のバーチャん、全てが別世界から来たと言うのだ。
それから今日まで、自社製品で日記を学習してきた知識しかない。
そうだ!自社製品の件がある。
「二郎はどうする?」
「俺は行くよ。自社製品の件もあるから。」
「あっ!部長が言ってた話ですね。」
俺は部長の話を思い出した。
彼女も思い出したようだ。
》明日の訪問の後に説明させてくれ
》明日の訪問が終われば理解できる
「迷いますね。『門』に関わる話じゃなければいいんですけど…」
「秦さん。『門』に関しては俺が引き受けるよ。」
「センパイ。お願いします。」
「じゃあ、ワシはエリックには電話せんぞ。」
「秦さん、任せて。バーチャん、ありがとう。電話しなくても大丈夫。」