11-12 先代と当代
「秦の一族は『隠岐の島の門』じゃ。」
はい。新たな『門』が出てきました。
『米軍の門』『淡路陵の門』に続いて『隠岐の島の門』で3つ目です。
「秦さんは知ってたの?」
「先代は祖父の市之助でした。祖父が亡くなって、継げる男は兄だけなので今は兄が当代です。」
俺の質問に彼女は頷き答えた。
その答えの中には『継げる=継ぐ』の言葉が含まれていた。
「二郎、この写真は秦の一家が淡路陵に来た時のじゃ。」
俺は驚いた。
彼女の親族は、彼女や俺が生まれる前に、家族旅行で『淡路陵』を訪れていたのだ。
「でも、何で秦さんを知ってるの?彼女が生まれる前でしょ?」
「吉江さんそっくりじゃ。」
「よく言われます。母に似てるって。」
「前に二郎とノートパソコンで話とったろ。」
バーチャんが乱入してきたネット会議ですね。
「あまりにも似とるで、会ってみたかったんじゃ。」
それでバーチャんは実家に来いと主張したんですね。
「二郎が迎えに行っとる間に、吉江さんと当代の進一にも確認したんじゃ。ほれ。」
そう言ってバーチャんはスマホの画面を見せてきた。
それは彼女が自分で自分を撮影した写真が並んでいるものだった。
う~ん。やっぱり彼女は美しい。
しかも総てが笑顔なのだ。
「それ、私のInstagramですね。お婆ちゃん見てたんですか?」
「フォロワーになったぞ。」
「きゃー何か恥ずかしいですぅ~。」
「何を言うとるんじゃ。可愛いは正義じゃぞ。」
ピピピ ピピピ ピピピ
その時、バーチャんが俺に見せていたスマホからアラームが鳴り響いた。
「二郎。時間じゃ。続きはドラマの後じゃ。」
「あれ、今日って何曜日?」
「秦さん。木曜です。」
「お婆ちゃん、もしかして?」
「一緒に見るか?」
「見ます見ます。」
そう言って、2人はテレビドラマな人になった。
俺は台所で二人分のお茶を入れ直し仏間に届け、風呂に入るため寝泊まりしている部屋に着替えを取りに行った。
「風呂に入ってくる。」
仏間のテレビドラマな二人に声をかけたが返事はなかった。
◆
ゴーゴーゴー
ジャグジーの音の中。
俺は湯船に浸かりながら、明日のアスカラ・セグレ社の訪問について考えてみた。
アスカラ・セグレ社のエリックさん。
俺と彼女を訪問者に指名してきた理由は、俺と彼女が『門』に関わっているからだ。
最初は、俺が『米軍の門』に関わっていた礼子母さんの息子だからだと思っていた。
一緒に呼ばれた彼女は、むしろ巻き込まれた第三者だと思い込んでいた。
今は考えを改めた。
俺は『淡路陵の門』の関係者であり、彼女は『隠岐の島の門』の関係者なのだ。
部長の話では、我社の会長がフランス系外資からの買収に対抗するために、交流のある米国の財団に支援を願った。
米国の財団は、支援条件として俺と彼女のアスカラ・セグレ社訪問を示した。
米国の財団が何かはわからない。
けれどもアスカラ・セグレ社=『米軍の門』は、日本の『淡路陵の門』と『隠岐の島の門』に注目していると言うことだ。
更に厄介に感じるのが、『国の人』な眼鏡スーツの驚いた顔と、上司に指示されて俺との接触を図ってきた事だ。
俺は軽く考えすぎていた。
部長に言われたから、アスカラ・セグレ社=『米軍の門』の責任者の息子さんに会いに行きました。彼女は巻き込まれただけです。
その程度にしか考えていなかった自分が恥ずかしくなってきた。
そして気になる点もある。
彼女はアスカラ・セグレ社への訪問に指名された理由を理解しているかどうかだ。
彼女の今までの言動や部長との会話の様子からして、彼女は指名された理由はわかっていないだろう。
彼女がセグレ一族から標的にされるのは、俺としては黙って見過ごせない気分だ。
だからと言って、今さらアスカラ・セグレ社への訪問を取り止めるのは困難だろう。
それに『自社製品』の件もある。
部長が『自社製品』に関わる情報を削除した理由が、アスカラ・セグレ社への訪問で判明するのだ。
◆
風呂から上がり用意したパジャマに着替え、肌着等は洗濯機に放り込んだ。
風呂に入る前に着ていた普段着などを寝泊まりしている部屋に戻し、Padを充電器から外して仏間に向かう。
「バーチャん。お風呂空いたよ。」
仏間でバーチャんに声をかけたが、未だにテレビドラマな人のままだ。
一緒にテレビドラマな彼女も反応しない。
座卓に着き、Padで『隠岐の島』で検索してみると大量な検索結果が出てきた。
「やっぱりな。」
風呂に入りながら考えていたことが的中した感じがした。
やはり、俺の目の前でバーチャんと共にテレビドラマな人になっている彼女。
彼女は俺と同じく『門』に関わる関係者の一人だと確信した。
これでアスカラ・セグレ社への訪問に、俺と彼女が指名された理由がハッキリとした。