11-11 赤魚の煮付
「お婆ちゃん。あのお風呂、スッゴク良いです!」
「じゃろぉ~。風呂に乾杯じゃぁ~!」
赤魚も煮えたので火を落とした。
「お婆ちゃん。この餃子、スッゴクおいしいです!」
「じゃろぉ~。餃子に乾杯じゃぁ~!」
二人で何に乾杯してるんですか?
「お婆ちゃん。このお酒、スッゴクおいしいです!」
「じゃろぉ~。お酒に乾杯じゃぁ~!」
お酒に乾杯するのはどうなんですか?
台所に続く食卓には、ピンクっぽいパジャマのような室内着の彼女と、いつもの姿のバーチャんが食卓の角を挟んで座っている。
二人の乾杯に釣られて、台所に近い席に座る俺もハイボールで乾杯すると、空のジョッキが2つ突き出される。
仕方なしに空のジョッキにハイボールを作ると、直ぐに俺の前からジョッキは瞬間移動して二人の手の中に戻って行く。
「さて、バーチャん。寝る前に話して」
「何をじゃ?」
「センパイ。改まってどうしたんですかぁ~」
「どうして、秦さんを知ってるの?」
「センパイ。その話ですかぁ~」
「そりゃ知っとるぞ。吉江さんの娘じゃ」
「秦さん。吉江さんってお母さん?」
「はい!さっき電話で話しましたぁ~」
「それに京子さんの孫じゃ」
バーチャんも秦さんも酔い始めてる。
どっちから話を聞き出すべきか?
「二郎。知りたいんか?」
「センパイ。知りたいのぉ~?」
「⋯」
バーチャんが席を立ち仏間に向かった。
足取りを見る限り、まだ大丈夫そうだ。
「ほれ、この写真を見てみい」
仏間から戻ってきたバーチャんが、四つ切り、いや、その倍はあるから半切りの集合写真を持ってきた。
餃子が無くなった皿をバーチャんが退けて、彼女が食卓の水滴を布巾で拭き取る。
その半切りの集合写真が食卓の中央に置かれた。
「由美子、説明じゃ!」
「はい。お任せください!」
秦さん。なんで敬礼するの?
その写真には、椅子に並んで座ったバーチャんと礼子母さん、その後ろに立ち姿の零士お爺ちゃんと一郎父さんが左側に固まって写っている。
全員が俺の知る限り若い姿だ。
右側には椅子に座った女性が2名と、その後に女性が2名。
その女性の後ろに背の高い男性と中肉中背の男性が写っている。
写真に写っている女性は全てが似ている。
「二郎がわかるのはこっち側じゃな」
そう言って、バーチャんは自分が座る左側を指す。
「センパイ。こっち側が私の母と父、そして叔母達と祖父母です」
そう言って彼女は女性4名が写る右側を指差した。
「えっ?何で一緒に写ってるの?」
「一緒に写真撮影したからじゃ」
「ですよぇね~(笑」
そこで二人で、ニヤニヤですか?
「二郎。ここから大事な話じゃ」
「大事な話?」
「⋯」
「餃子が空じゃ」
「(ククク」
秦さん。笑い声が漏れてます。
俺は台所に戻りフライパンに餃子をセットしつつ、煮上がった赤魚を食卓に出した。
「餃子が焼けるまでこれね」
二人は直ぐに赤魚の煮付けに手を出した。
「お婆ちゃん。赤魚の煮付、美味しいです!」
「じゃろぉ~。赤魚に乾杯じゃぁ~!」
◆
晩御飯の洗い物を全て済ませた。
バーチャんは仏間で4杯目のハイボールが入ったジョッキを握って、座卓を枕に寝ている。
この姿を見るのは何回目だろう。
彼女は座敷前の廊下で、鈴木さんと田中君に今日の部長との話をスマホで通話して伝えている。
俺が彼女の分もお茶を入れて仏間に運ぶと、彼女も電話を終えて仏間に入ってきた。
「秦さん。酔いの方は大丈夫なの?」
「大丈夫です。楽しいお酒だと酔いが覚めるの早いんです」
先週、酔って泣いたのを思い出したが、楽しい気分なら良いかと思い俺は口にしなかった。
「それに、あの飲み方なら、私は悪酔いはしないですね」
「酔いざましにお茶をどうぞ」
バーチャんが枕にする座卓に向かって二人で座り、お茶を啜りながら鈴木さんと田中君の話をする。
「鈴木&田中コンビには伝わった?」
「センパイ。言い方」
「ごめんごめん。二人には伝わった?」
「センパイのおかげで安心したって言ってました」
「安心したなら大丈夫か」
「けど、有給休暇明けに詳しく話せって迫られました」
「ハハハ」
「センパイから説明してくださいね」
「わかった。俺から説明するよ」
「それより、お婆ちゃん。大丈夫ですか?」
彼女の言葉に反応して、バーチャんが顔を上げた。
「今日のドラマは9時からじゃ⋯」
バーチャんはそうつぶやいて、再び座卓を枕にした。
俺と彼女は顔を見合わせ笑ってしまった。
「さて、この写真だけど、秦さん説明できる?」
「嫌です」
「えっ?」
「由美子って呼んでくれないと⋯」
「秦さん?酔ってる?」
「由美子です」
「⋯」
「⋯」
ガバッ!
「二郎!由美子と呼ばんか!」
バーチャん。起きて聞いてただろ!?