表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月29日(木)☀️/☀️
121/279

11-8 部長との対話


「じゃあ、部長に電話しますね。」


 そう言って彼女はスマホを操作する。


「もしもし。秦です。」

「ええ、門守さんと落ち合いました。」

「部長。少々お待ちください。」


 そう言って彼女は、ダッシュボードの運転席と助手席の間にスマホを置いた。


「門守です。部長。聞こえますか?」

「おお、門守君。今回はすまんなぁ。」


「いえ、業務命令ですから。」


 俺は少し皮肉を込めて部長に伝えた。


「部長、すいませんが後で確認できるように、この電話は録音して秦さんも参加して聞いています。」

「…おお、構わんぞ。今回の件は門守君だけじゃなく秦君もご指名だからな。」


「まず教えて欲しいんですが、アスカラ・セグレ社訪問は何が目的なんですか?」

「それだが、門守君も秦君も他言無用たごんむようで頼む。」


 『他言無用たごんむよう』の言葉に思わず彼女と目を合わせてしまった。


「二人なら気がついてると思うが、我社わがしゃの業績は良くない状況だ。」

「「…」」


「正直に言うが、フランス系外資から買収の話が来ている。」

「「…」」


 外資からの買収の話は本当だったんだ。

 「フランス系外資」ってどこだ?

 「アスカラ・セグレ社」は米国系外資だと思うが…


「このフランス系外資からの買収対策で、会長が繋がりのある米国の財団に話を持っていったんだ。」

「「…」」


「そうしたら、その財団からの返事が、二人のアスカラ・セグレ社への訪問なんだよ。」


 『なんのこっちゃ』そんなジェスチャーだろう。

 助手席の彼女は、両手のひらを上に向けて首をかしげ、外国人がするようなジェスチャーをしている。

 彼女は『何の事なんだ?』と言いたげだが、俺は理解できた。


「部長、アスカラ・セグレ社への訪問理由は理解できました。」

「おお、門守君。ありがとう。」


「それで別件です。課長についての話があります。続けて良いですか?」

「ああ、あいつの件か。売上計上を誤魔化してた件だろ。」


 再び俺と彼女は顔を見合わせた。

 部長は知っていたんだ。


「君の課の山田か、あいつも一緒だったそうだな。」

「部長!その件ってどうなるんですか!」


「その声は秦君だな。数字は修正するよ。奴らの好き勝手にはさせない。」


 彼女はガッツポーズをしている。

 けれども俺は少し気になることがあって話を続けた。

 部長が口にした『奴ら』の言葉だ。


「部長、門守です。続けて良いですか?」

「いいぞ、不安や疑問があるなら何でも聞いてくれ。」


 助手席の彼女は未だに喜んでいる。

 それでも俺は部長との会話を続けた。


「課長と山田の不正の件ですが、部長の聡明な判断と対応に感謝します。」

「ああ、大丈夫だ。今、社内システム部が主体となって、君の課の過去のメールを全て調べてるよ。」


 部長のその言葉で、彼女は再度ガッツポーズをする。


「部長、すいませんが後3つ質問があります。」

「3つか…随分と君たちに不安を与えていたんだな。反省するよ。」


 俺は部長の言葉に心が揺れそうになったが、耐えて質問を続けた。


「1つ目は、自社製品の件です。」

「…」


 部長が黙ってしまった。

 俺は隣にいる彼女に目をやると、彼女は『あの件だな』と思案するように黙っている。

 一方の俺としては、ここまで抱えてきた疑問を部長に問うチャンスだ。

 俺は必ず物にするぞと思い質問を続けた。


「自社製品の資料とメールを消したのは部長ですか?」

「…」


 部長は答えない。黙ったままだ。

 これは何かあると俺は確信した。

 その時、部長の声がした。


「削除したのは私だ。理由は明日の訪問の後に説明させてくれ。」

「明日の訪問の後?」


「ああ、今、私から説明すると君らに混乱を招く。明日の訪問が終われば理解できる。これ以上は今は言えん。」

「秦さん。どうする?」

「行きます!明日行けばわかるんですよね部長!」


 しまった。また判断を彼女に任せてしまった。

 けれども、彼女に判断を任せたのは俺だ。従うしかない。


「部長、2つ目です。課長と山田はどうなりますか?」

「元には戻さん。」


 秦さん。本日、何回目のガッツポーズですか?


「これは俺の憶測です。課長と山田はフランス系外資の出身だと思っています。」

「…」


 部長は俺の言葉を肯定も否定もしなかった。

 多分だが、俺の憶測は当たっているのだろう。


「部長。最後の3つ目です。部長はどうなりますか?」

「わ、私か?門守君は私の心配をしてるのか?」


「はい。課長に不正があったのです。上司である部長にも影響があると考えています。」

「ハッハッハ。門守君の言う通りだ。役員会でも言われたよ。だが責任を追求すると誰もが傷を負う。」


 なるほど。

 部長の言うことは理解できる。


 パワハラ課長の不祥事だからと言って、部長だけが管理監督不行き届きの責任を負う話では済まない。

 パワハラ課長を採用した人事部の責任、経理部が早期にパワハラ課長と山田の不正を見抜けなかった責任、簡単に上げればそうした責任も出てくる。


「門守君。礼を言うべきだな。私の心配をしてくれてありがとう。」


「秦さん。他にある?」

「無いです。」

「よし。明日は頼んだぞ。」


 ツーツーツー


 部長が電話を切ったようだ。


「秦さん。行ける?」

「はい。センパイの実家へGO♪」



 家電量販店の駐車場を出て、実家に向かう軽トラの中は明るい雰囲気だ。


 彼女には良い話が重なった。

 俺にも良い話が重なった。

 鈴木さんにも良い話が重なった。

 田中君にも良い話が重なった。


 だが、俺と彼女には『アスカラ・セグレ社』への訪問が待っている。


「センパイ。鈴木さんと田中君に何て話します?」

「話せる部分と話せない部分があるね。」


「そうですよね。外資の話は話せないですよね。」

「『他言無用』だからね。」


 彼女なりに、鈴木さんと田中君への説明範囲を考えているようだ。


「課長の不正を部長が知っている件は、鈴木さんと田中君に話しても大丈夫ですよね?」

「部長が数字を直すと言った部分は話せるな。」


「課長と山田が戻らない話しは?」

「そこは微妙だな。他者の人事情報は話せないだろ。」


「う~ん。言われてみればそうですね。何か面倒臭いですね。」


 そんな会話をしていると実家が見えてきた。

 実家の敷地に軽トラを入れ、母家の前で停めて彼女と荷台の荷物を降ろす。


 玄関戸を開けて彼女を土間口に招き入れ、俺はバーチャんに声をかけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ