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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月29日(木)☀️/☀️
120/279

11-7 証拠品回収


「ちょっと車を停める。」

 俺はウィンカーを出してハンドルを切り、国道沿いの家電量販店の駐車場に軽トラを停めた。


「秦センパイ。そばに門守さんですかぁ~?」

「そうよ~ もうラブラブなのぉ~」

 秦さん。何を言ってるんですか?


「はいはい。良かったですね。」

「センパイ。回収した書類はどうします?」


 彼女が手のひらに乗せたスマホを運転席の俺に寄せる。


「門守りです。鈴木さん。聞こえる?」

「鈴木です。聞こえてます。」


「手間をかけて悪いけど原本とは別に1部コピーを作っておいて欲しい。」

「わかりました。他にありますか?」


「有給休暇中に悪かったね。ありがとう。」

「いえいえ。秦センパイから聞いて、田中君と一緒に調べて驚きました。」

 鈴木さん。自分から田中君と仲良しだって言っちゃったよ。


「俺もだけど、二人とも確認してなかったの?」

「ええ、迂闊でした。けど彼が先週に気がついて話してたんです。そしたら秦さんから連絡が来て…」


「鈴木さん。俺がもっと早くに気がつくべきだった。本当にごめん。」


 俺が謝罪を述べていると、彼女が自分の方にスマホを戻した。


「田中君は他の証拠の事を何か言ってた?」

「課長の机の鍵番号を調べてます。」


「えっ、今調べてるの?!」


 俺は驚いたが直ぐに理解した。

 そうか、書類を回収したってことは鈴木さんと田中君の二人は、今は会社に居るんだ。

 そして田中君はパワハラ課長の机で何やら調べてるのだろう。


「田中君と話せるかな?」


 今の状況でパワハラ課長の机まで勝手に調べるのは危険な気がする。


 彼女はスマホを乗せた手を再び俺に寄せる。


「田中です。課長の机、鍵が掛かってますね。」

「田中君。気持ちはわかるけど直接行動は鈴木さんへの影響もあるから、少しだけ我慢できる?」


「そうか、そうですね。(ほら言ったじゃん」


 田中君の返事の後ろから、鈴木さんの窘める(たしなめる)言葉が聞こえる。


「これから部長とも話すから、結果を伝えるまで待ってくれるかな?」

「はい。俺も鈴木さんも許せない気持ちは一緒です。(うんうん」


「今は有給休暇を楽しもう。じゃあ切るね。」

「「はーい。」」


 鈴木さんと田中君の声がハモる。

 俺は思わず彼女と顔を見合わせ笑ってしまった。


「部長に連絡します?」

「いや、その前にスマホで通話中に録音ができるかを確認して欲しい。」


 俺は彼女に、これからの部長との応対についての考えを伝えた。


1.今後は部長や課長と話すときは全て録音する。

2.これから彼女が部長宛に電話連絡する。

3.直ぐに俺に代わる。

4.俺から録音していることを告げる。

5.今回の出張の真意を問う。

6.その上でパワハラ課長の不正の話をする。

7.不正は部長権限で正す約束を求める。


 彼女はうなずきを繰り返す。

 俺の話を理解してくれているようだ。


「それで、最後だけど、部長が曖昧な返事をした時が問題なんだ。」

「部長が曖昧な返事をした時ですか?」


「部長が曖昧な返事をしたら、明日の大阪出張も曖昧にする。」

「そ、それって…」


「その時には、秦さんに迷惑をかけるかも知れない。」

「わかりました。納得しました。」


 明日の大阪出張=アスカラ・セグレ社訪問を曖昧にすると言うことは、彼女が釣られた出張扱いでの帰省が取り消される可能性があると言うことだ。


 彼女はスマホを操作し始めた。

 電話中の録音を確認するためだろう。


「センパイ。私から電話すれば良いですか?」

「ちょっと待って。」


 ウエストポーチからスマホを取り出し俺は軽トラから降りることにした。

 同じ車内で通話しては、録音状態を確認できないと考えたからだ。


「準備ができたら電話して。俺は外で受けるから。」


 俺が運転席から降りて外に出るとスマホに彼女から電話が入った。


「秦さん?」

「センパイ!」


「はい?」

「由美子って呼んでください。」


「えっ?!」

「ほら!ユ・ミ・コです。」


「ユ・ミ・コ」


 俺は彼女の問いかけを復唱してしまった。



「秦さん。何を言わせるの?」


 俺は軽トラの車内に戻ろうとして、彼女に車内から制された。


「もう一度、お願いします。」

「もう言わないよ。」


 すると彼女は運転席の鍵を閉めてしまった。

 俺は運転席の窓をコンコンと叩くが、彼女はスマホを操作している。

 程なくして、再び俺のスマホに彼女から電話が入った。


「秦さん。何をしてるの?」

「さっきの話ですけど、私の出張扱いが消えたらどうします?」


「えっ?!」

「大阪出張を曖昧にすると言いましたよね?」


「ま、まあ。言いました。」

「センパイが一緒に行かないと、私の帰省が自腹になるかも知れません。」


「そ、それは…」

「センパイ。どうするんですか?」


「わかった。俺が夏のボーナスで払う。」

「もう一回、最初からお願いします。」


 はぁ~。

 俺は諦めるように溜め息をついて、こんな台詞を口にした。


「秦さんの出張扱いが消えたら、秦さんの帰省費用は俺の夏のボーナスで払います。」


 俺が電話でそう言うと、彼女はスマホを操作し始めた。

 車内から俺のさっきの台詞が聞こえる。彼女は俺の言葉を再生しているのだろう。

 再生が終わったらしく俺の台詞が聞こえなくなった。

 再び彼女はスマホを操作している。


 はぁ~。

 秦さん何がしたいの?

 俺は再び溜め息をついてしまった。

 もう、彼女に振り回されてる感じだ。


 そう考えていると、彼女がニッコリと微笑み運転席の鍵を外した。


 俺はすぐさま軽トラの車内に入る。


「秦さん。何がしたいの?」


 彼女はスマホを操作して、俺に画面を向ける。

 するとスマホから音声が流れてきた。


> 秦さんの出張扱いが消えたら、秦さんの帰省費用は俺の夏のボーナスで払います。


 おいおい。これって俺の声?


「無事に音声も録音できました。試しにInstagram投稿も確認できたんで、証拠保全も万全です。グッ!」

 秦さん。サムズアップ連発ですね。


 って、Instagramに投稿したの?


「い、今の俺の声をInstagramに投稿したの?」

「はい♪」


 秦さん。笑顔が綺麗です。


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