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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月28日(水)☀️/☀️
112/279

10-8 濡れ髪


「このカボチャも合格じゃ。」

「だし巻き卵が美味しすぎる!」


 晩御飯はバーチャんが作ってくれた。

 業務スーパーで購入した『冷凍カボチャ』を使ったカボチャの煮物、バーチャんお手製のだし巻き卵、そして大根の味噌汁と朝昼の残りの漬け物になった。

 どれもが美味しく感じる。どれもがバーチャんの味だ。これが実家の味だ。


「バーチャん。全部が美味しい。」

「そうかそうか。良か良か。」


 バーチャんの味を楽しんでいると、バーチャんが聞いてきた。


「あの娘は可愛いのぉ~ 明日来るんか?」

「明日来て…そうだホテルを取ってるのかな?」


「なんじゃ。泊まって行かんのか?」

「そ、それは、ちょっとまずいと思うけど?」


「なんでじゃ?」

「だって独身の女性だよ。」


「ワシだって独身女性じゃ!」

「はいはい。」


 彼女の宿泊については、後で聞いてみよう。



 晩御飯の洗い物を済ませ、仏間でくつろぐバーチャんにお茶を出す。

 相変わらずバーチャんはPadを操作している。


 俺はお爺ちゃんの部屋に戻り、自分のノートパソコンを開いて社内ネットにログインする。

 ネット会議のソフトを起動して、参加者一覧から彼女のIDを探すが見つからない。

 スマホで彼女にLINEを打つ。


「ネット会議をお願いします。」19:41


 彼女がネット会議に参加するまで、未読の社内メールを読む。

 全てが情報共有で、俺が急ぎ対応を要する必要はないと判断した。


 座卓の上に置かれた、『国の人』な眼鏡スーツが持ってきたUSBメモリーを手に取り少し考える。

 『国の人』な眼鏡スーツは、このUSBメモリーをどんな気持ちで持ってきたんだろう。

 目の前に自分が盗聴器を仕掛けた相手がいる。その相手と平然と会話をする。

 俺は何も言わない眼鏡スーツにしびれを切らしたが、自分の悪事の証拠を目の前に置かれて平然と勤めを果す。


 ある意味、豪胆だな。

 俺やバーチャんから問われても、自分の非を認めない。

 もしや俺やバーチャんを『何とも思わない』考えが備わってるのだろうか?

 俺では思いも寄らない考え方だ。


 そんなことを考えていたら、ネット会議の枠に彼女の顔が写し出された。


 あれ?彼女だよな?

 少し髪が濡れていて

 ピンクな色合いのラフなシャツで

 化粧はしてないよな?


「センパイ。見えますか聞こえますか?」

「門守です。秦さんの素顔が見えます(笑」


「気にしないでください。」

「はじめて見た気がする(笑」


「さっきの続きからで良いですか?」

「はい。続きからで。」

 化粧を落としても秦さんは美人だな。


「センパイと同じ様に、私もメールから経理台帳を確認しました。」

 普段は見せない姿に見惚れそうだ。


「結果として1月で1件。」

 濡れた髪が彼女の色気を増している。


「2月と3月で2件づつ。」

 髪からチラリと見える耳が可愛い。


「合計5件が経理台帳に載ってません。」

 バーチャんの言うとおり彼女は可愛い。


「センパイ?聞こえます?聞いてます?」

「本当に可愛いね。」


 なぜか、急に彼女の顔が赤くなった。


「センパイ。酔ってます?!」

「いや、酒は飲んでないよ。」


「センパイ!深呼吸!」


 はっ!

 いかんいかん見とれてた。

 彼女の大きな声に、自分を取り戻す。


「メールを保存する方法ってあるかな?」

「ローカル保存はありますけど?」


 その時、手元に置かれた眼鏡スーツが持ってきたUSBメモリーに目が行った。


「経理台帳の保存は出来ませんね…」

「経理台帳は経理部門で決済済みだから置いておこう。」


「じゃあ、メールをローカル保存して…」

「念のためにUSBメモリーにも保存しよう。」


「そうですね。それでこれからどうします?」

「鈴木さんと田中君、あの二人はどうなんだろう?」


「さっき、お風呂の前に鈴木さんには電話で伝えました。」

「田中君は?」


「伝わってると思います。」


 そうだった。

 あの二人は今後は二人一組で考えよう。


「鈴木さんに追伸して。調べた結果をメールとか社内の仕組みで残さないように。」

「それって…」


「確証は無いが、部長も関与してると以前のように社内メールやファイルサーバーだと消える可能性がある。」

「…」


 他に証拠を保全する方法は?

 俺は乏しい知恵を振り絞る。


「「課長に渡した申請書!」」


 思わず彼女とハモってしまった。


「センパイは手元にあります?」

「俺は無い。秦さんは?」


「私も無いです。」

「鈴木&田中ペアは?」


「センパイ。言い方。」

「ご、ごめん。」


「田中君は会社のデスクにコピーがあるかも?」

「それも保全したいな。」


 パワハラ課長の手元に改竄された書類があれば確実だ。

 しかし今回の件について、どんな物証があるか。


 それも今では想定しか出来ない。


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