10-7 売上確認
「ワシは昨日と同じでも良いぞ。」
「それって、餃子とハイボールが希望ですか?」
「そうじゃが、ダメか?」
バーチャん。
目をキラキラさせて、子供のおねだりみたいな顔をしないでください。
連日の飲酒は控えさせたい。
今日も晩御飯でハイボールを飲んで、仏間の座卓を枕にするバーチャんを見たくない。
「バーチャん。今日は我慢して。この後も仕事の可能性があるんだ。」
「一緒に飲めんのか?」
「うん。仕事で不正をしている可能性が見つかったんだ。それを調べたいんだ。」
「不正?二郎が前に話しとった部長の件か?」
自社製品の資料が無くなり、メールまで削除された件だ。
そう言えばバーチャんに話したな。
「それとは違う件で、課長の不正かもしれない。」
「お前さんの会社は大丈夫か?部長の次は課長の不正とは大変じゃのう。」
掻い摘んで(かいつまんで)話すと、そう聞こえるかも知れないね。
「わかった。今日は諦めるぞ。二郎が大変なのにワシだけ飲んどる訳には行かんぞ。」
「ありがとう。バーチャん。」
「で、晩御飯はどうする。」
「悪いけど、バーチャんにお願いしたい。」
「じゃあ、有り合わせじゃ。」
そう言ってバーチャんは部屋を出ていった。
実家にいる間は出来る限りバーチャんを手伝いたいが、今は非常事態だ。
俺は自分のノートパソコンに戻り、経理台帳に載っている俺の売上として計上されている数字について調べて行く。
経理台帳の数字と過去のメールからの数字を比較して、全てが35%前後少ないことを確認した。
続けて、俺の成績として経理台帳に載せられていない件、即ち漏れていないかも調べた。
結果として小さい売上が数件、経理台帳には俺の成績として載せられておらず漏れていることを確認した。
ここまで確認したところで、スマホに彼女からLINEが入った。
「ネット会議」18:24
随分とぶっきらぼうだ(笑
俺はネット会議のソフトを起動し、彼女のIDを探そうとするといきなり画面に彼女の顔が写り声が聞こえる。
「センパイ!センパイ!大変です!」
「はい。深呼吸してぇ~」
「すぅ~ はぁ~ すぅ~ はぁ~」
「落ち着いたら話して。」
「センパイ!どうなってるんですか!」
「…」
俺は、思いきってネット会議のソフトを閉じてからスマホで彼女にLINEを打つ。
「ちょっとトイレ」18:32
俺は本当にトイレに行き用を足した。
台所に行きバーチャんの様子を覗くと、バーチャんから声をかけられた。
「二郎。終わったんか?」
「いや、これから対策会議。」
「出来たら呼びに行くで。」
「バーチャん。手伝えなくてごめん。」
「良か良か。」
俺はお爺ちゃんの部屋に戻り、ネット会議のソフトを起動する。
彼女のIDを探しクリックすると、カップラーメンを啜る彼女の顔が写り音まで聞こえる。
「ごめん。食事中だった。」
「ブフッ」
彼女はカップラーメンを食べるのを止めて画面に向き直った。
「俺から話すから。」
「コクコク」
「そのまま続けて。伸びる前に食べよう。」
「モグモグ」
「まず、俺の社員番号で経理台帳を調べた。過去のメールと突き合わせて、どれもが35%ほど低いことがわかった。」
「ズズズ~」
「次に経理台帳に漏れがないかを調べた。」
「ゴクゴク。はぁ~。」
「俺の売上になる筈のが数件、経理台帳には載っていなかった。」
「ごちそうさまです。」
「食事中に悪かったね。落ち着いた?」
「センパイ。すいませんでした。お腹が空いちゃって。」
「そっちはどうだった?」
「私の方も同じ感じです。全部じゃないけど2割から3割低い数字で経理台帳に載ってました。」
「漏れの方は?」
「漏れの方?ああ、経理台帳に載ってないのは未確認です。これから調べようと思います。」
そう言った彼女がにっこり微笑んだ。
俺はその微笑みから目を離し、後ろを振り返った。
案の定、バーチャんが微笑んで手をふっていた。
はぁ~ 思わずため息をつく。
「二郎。飯が出来たぞ。」
「バーチャん。今日は乱入は無しでお願いします。」
「センパイ、これから食事ですか?」
「本に可愛い娘じゃ。」
「いやだあぁ~照れちゃいますぅ~」
はぁ~ 再びため息をついてしまった。
「センパイ。食後に話せますか?」
「おお、ありがとう。LINEするよ。」
「お婆ちゃん。明日行きますよぉ~」
「おぉ~ 待っとるぞぉ~」
俺はそっとネット会議のソフトを閉じた。