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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月28日(水)☀️/☀️
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10-6 売上


> 由紀が言うには、売上の数値が偏ってる

> 課長と山田のポイントだけ高い


 経理の由紀さんが彼女に伝えたこれらの言葉の意味を、俺はなんとか彼女から聞き出した。


「秦さんは、自分の売上って経理台帳から見てみた?」

「ごめんなさい。忙しくて見てなかったです。」


「謝らないで。俺も同じだから。」

「でも、今年に入ってから売上計上は記入して課長に出してますよね。」


「俺も課長に渡された紙に書いて出してる。」

「じゃあ、課長がやったってことですか?」


「俺らの出した数字と違ってたらそうなるね。」

「まじっすか?」


「秦さん。言い方。」

「…」


「今年に入ってから、担当した案件の売上って記憶してる?」

「メールに残ってると思いますが…全部は覚えてないです。」


「じゃあ、記憶の範囲で良いから経理台帳の売上と比較してみて?」

「はい。じゃあ切りますね。」


 ネット会議の画面は真っ暗になった。



 会社の経理台帳は、全社員が自分の情報は閲覧可能な仕組みになっている。

 これは入社時のオリエンテーションでも説明を受けていることだ。


 社員全員が自分の売上の閲覧を可能にすることで、年間及び月間の目標達成度を確認できるように作られている。

 謂わば自分の成績を自分で管理出来る仕組みとなっている。

 そして所属している課の成績も見れるため、自分の成績を組み合わせれば課内での比率も知ることが出来る。


 但し、経理部門は全社員の数字を閲覧できる。

 これは、経理として各部門や各課での不正を監査するためだ。


 経理の由紀さんから彼女が聞いたのは、この課内での比率がパワハラ課長と山田が高く、他の課員が昨年に比べて明らかに低くなっていると言うのだ。


 彼女から、そこまでの話を聞いて俺は全てを察した。


 経理台帳に計上するには、最終的に部長職の承認が必要になる。

 部長職の承認を得るには課長職の承認が必要だ。

 だが、この課長職の承認の段階では数字を調整できるのだ。

 これは、課として複数名の社員で売上を上げた場合に、現場担当課長の裁量でどの課員にどれだけの売上を割り振るかを調整可能にするためだ。


 例えば俺と彼女で組んで、100万円の売上を出したとする。当事者同士で話し合い100万円の割り振りを行い数字を整えてパワハラ課長に申請する。

 パワハラ課長はその申請を確認し調整して承認し、部長に申請する。


 パワハラ課長はこの課長が確認し調整する段階で、山田や自分自身に売上を計上する書き換えを行ってから承認したのだ。


 俺の知る限り山田とパワハラ課長が顧客から売上を得たとの社内メールは、今年に入ってから一度も見ていない。

 単純に言えば、パワハラ課長と山田の売上は0に近いはずだ。


 俺は記憶を振り絞り、今年の1月から俺が個人で担当した案件の売上を経理台帳で検索して驚いた。

 全般の売上が、俺が記憶している数字より35%ほど低い数字になっているのだ。

 前課長の場合には、俺が申請した数字を課長職として調整する場合、課長職の承認前に申請が差し戻され自分で修正していた。

 けれども年内に入ってからパワハラ課長から差し戻された事は一度もない。

 従って俺が出した数字を修正できるのは、パワハラ課長に限定される。


 しかもパワハラ課長は今年になってから、この申請を社内の電子決済に乗せていない。

 例の『未決』『既決』と書かれた札が貼り付けられたデスクトレーでの紙形式に切り換えていたのだ。


 俺も迂闊だった。

 正直に述べて今年に入ってから、1月分から3月分までの自分自身の売上を確認していなかった。

 連日の終電残業と休日出勤に追われて、こうした会社が準備した仕組みを使っていなかったのだ。


 ふっ、これでは『忙しかったから』と言い訳しているのと同じだ。


 それでも俺は腹の底から沸き出す怒りを感じた。

 あのパワハラ課長と山田はとんでもないことをしている。


 明らかな『私文書偽造』で刑法に定められた犯罪行為だ。

 しかも俺の成果を掠め取っているのだ。


 俺個人の被害を考えれば、俺の成績をパワハラ課長と山田に掠め取られている。

 これは俺の賞与の査定などに大きな影響を与える。


 更に考えれば俺だけでは無い可能性がある。

 他の課員(彼女や鈴木さん田中君)の成績でも同じことをしていたなら大問題だ。

 彼らの査定や人事評価に多大な影響を与える。


 どうする。

 早急にパワハラ課長と山田の不正を暴かないと。


 どうする?

 早急に経理台帳の数字を正しいものにしないと。


 どうする!

 とにかく何とかしなくては…



 ガラリ!


「二郎。晩御飯はどうする!」


 部屋の扉がガラリと開いてバーチャんが入ってきた。


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