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門の守人  作者: 圭太朗
2021年4月28日(水)☀️/☀️
105/279

10-1 神棚と仏壇


 鳥の鳴き声とカーテン越しの明かりで目が覚めた。


 今朝はバーチャんが起こしに来ない。

 スマホを見れば06:30。

 いつもより早い時間だから起こしに来ないか。


 昨夜はぐっすりと眠れた。

 お日様の香りがする布団は、朝まで俺を起こさずに包んでくれた。


 俺は自分で起きて着替えも済ませ布団も畳んだ。

 トイレに行き顔を洗っていると、座敷の方から柏手かしわでが聞こえる。

 座敷に行くと、バーチャんが神棚に手を合わせていたので俺も隣に並んで手を合わせる。


「今日も一日、家族が無事に過ごせるようお見守りください。」


"はい。おまかせください。(Byメイド"

"少しのハプニングは人生のエッセンス(By若奥様"

"お戯れはほどほどに(Byメガネ執事"

"ホッホッホ(Byサンダース"


「あれ?」

「充電されとるで、よう聞こえるな。」


 合わせた手をほどき、バーチャんがつぶやく。


「今のって何?」

「何じゃろうな。ホッホッホ(笑」


 バーチャんが笑いながら座敷を出て行く。俺よりサンダース笑いが似ていた。


 バーチャんは仏間に入り仏壇の前で正座して線香を上げて合掌している。俺もバーチャんの後ろに座り合掌する。

 一瞬、零士お爺ちゃんや一郎父さんと礼子母さんの声が聞こえるかと思ったが何もなかった。

 少し安心してしまったが、自分の中にもやっとしたものを感じた。


「二郎。朝飯じゃ。」


 バーチャんの声に俺は合掌をほどいた。



 いつもの朝御飯を食べ、いつものとおりに洗い物を済ませる。


 仏間でくつろぐバーチャんに新たにお茶入れ直す。


「バーチャん。今日は何時ごろに出る?」

「8時からのドラマを見てからじゃ。」


 仏間の時計を見れば7時45分。

 これならば30分はある。


「バーチャん。出る前に声かけて。」


 バーチャんにお願いして、俺は寝泊まりしている部屋で作業着に着替え、お爺ちゃんの部屋に向かった。


 お爺ちゃんの部屋で自分のノートパソコンを開き社内ネットにログインする。

 未読メールを確認したが、さすがに昨夜あの時間にメールを見ているので未読メールは一通もなかった。


 さて、仕事に関して確認するべき残る事項は、彼女のお迎えがどうなるかだ。


 俺としては30日の訪問前に落ち合えれば良いのだが、部長命令で彼女が事前に迎えに来ることになった。

 

 そのお迎えについて、迂闊にも俺は彼女に『どうする?』『どうしたいのかなと思って…』と迎えのプランを任せてしまった。

 昨日の事を思い返すと、俺の優柔不断な言葉が事態を複雑にしてしまったと後悔した。


『センパイ!ズルいです!私に決めさせるんですか?!』


 彼女の言葉を思い返すだけで朝から落ち込みそうだ。


 ここで彼女にLINEで『お迎えはどうなりましたか?』等と聞くのは……絶対にまずい。

 これでは彼女に丸投げしときながら、急かす感じだ。


 もう少し捻って『当日どこで落ち合えるかな?』と聞くのはどうだろうか?

 これもまずい。当日では彼女が部長に急かされる可能性が残る。


 ここまで考えて、俺は『何を躊躇っているか』に向き合ってみた。

 ノートパソコンの前で腕を組んで考えた。


 結論が出た。

 やっぱり彼女に丸投げのままで良い。

 彼女が決めたプランを俺が受け入れれば良いだけだ。

 一旦、任せた以上は任せた側は従う責任がある。


 そんな結論を出してノートパソコンを閉じた。


 スマホ片手に仏間に戻ろうとすると、バーチャんも着替えを済ませ台所で湯呑みを洗っていた。


「バーチャん。戸締りは?」

「済んどる。二郎、行くぞ。」



 1週間前には緑色だった畑は、今日で全てが土色に変わる。

 周囲の畑と同じ色合いになる。

 その畑の上空は、1週間前と変わらない青さだ。やっぱり東京とは違う。


 倒れた葉を束ねて持ち1個1個新玉ねぎを地面から剥がして行く。

 地面から剥がした新玉ねぎを、葉がついたままの状態で並べて行く。

 そんな作業をする俺の後ろでは、バーチャんが根切りと葉切りをして行く。


 先週と同じ作業で新玉ねぎの収穫を続ける。

 今週はバーチャんの指示で、根切りと葉切りで出たゴミを袋に入れて行く。

 全ての作業を終えようとする時に、畑の脇の農道に1台のワゴン車が止まった。

 ワゴン車の運転席からマクド店長が手をふっている。


「やっぱり桂子ばあちゃんと二郎ちゃんだ。」

「店長、スーツの件、ご迷惑をかけます。」


「いいって。気にするな。これから実家に着なくなったのも取りに行くから後で持ってくよ。」

「えっ?良いんですか?」


 こちらが午後に伺う予定だったが、店長の都合もあるのだろう。実家に持ってきて貰えると言う。


「おお、店長じゃ。すまんのう。」

「桂子ばあちゃんも、二郎ちゃんも迷惑じゃなければだけど?」

「むしろ店長の手間になるんじゃ…」


「いやあ、親父とお袋に実家のスーツの話をしたら持って行けって叱られちゃたよ。」

「これから廃棄センターに行くで1時頃に頼めるか?」


「じゃあ。1時に。」

「おお。すまんのう。」

「ありがとうございます。」


 そう言って店長のワゴン車は農道を戻って行った。


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