9-10 旅程確認
「二郎。この餃子は旨いぞ。遠慮せんと食べんか。」
バーチャん。俺が選んで俺が焼いた餃子です。
バーチャんにすすめられ俺も食べる。懐かしい味だ。大学時代にはずいぶんとお世話になった味だ。
バーチャんは餃子を食べては、ジョッキのハイボールをグビリ。
「かぁ~。旨い。やっぱりこの酒と餃子の組み合わせは最高じゃ。」
「ビールと餃子も美味しいよね。」
「ワシはビールは風呂の後が好きじゃ。飯時に飲むビールも旨いが、すぐに腹が膨れるんじゃ。」
「バーチャんは一人の時に飲まないの?」
「お爺さんの言いつけなんじゃ。一人の時は何かあったら嫌だから飲まないでと頼まれてなぁ~。」
お爺ちゃん。バーチャんの飲み過ぎが心配だったんだね。
「二郎が居る間は、毎日飲めるぞ。」
毎日は飲み過ぎだと思う。
「そう言えば、あの娘はいつ来るんじゃ?」
「まだ詳しくは決めてない。決まったら知らせるよ。」
「楽しみじゃのう。ホレっ空じゃ。」
「バーチャん。『飲むな』とは言わない。けれども昨日のように寝たら終わりだからね。」
「わかった。今日は寝ないで飲むぞ。」
「餃子はまだ食べる?食べるなら焼くよ。」
「おお!焼いてくれ。今夜は飲んで食べるぞ!」
ーーと、言っていた時期もありました。
◆
昨夜同様に、ほろ酔い気分で晩御飯の洗い物を済ませた。
結果的に海老餃子は1袋分焼いた。
おかげさまでお腹一杯だ。
昨夜同様に、バーチャんはハイボールを持ったままでくつろいでいる。
いや、正確には座卓が枕になっている。
一応、昨夜同様に声をかけてみる。
「バーチャん。大丈夫?」
「大丈夫じゃ。9時からドラマじゃ。」
そう言ってジョッキを握ったままで、バーチャんは再び座卓を枕に寝始めてしまった。
なんか既視感があるなぁ~。
そう思いながら、Padで「アルバイン」「ジョージ」「キャロライン」「エリック」と順次検索してみる。
「アルバイン」と「ジョージ」。
この二人は『米軍の門』での実験の責任者だけあって、大量に検索結果が出てくる。
「キャロライン」と「エリック」は、検索結果としての出現回数は少ない。
バーチャんに教えて貰った際の日記で見かける程度で、年齢が知れるぐらいだ。
これ以上検索を続けても、たいした情報は得られないと判断してPadを操作するのはやめることにした。
そのまま日記での学習をしようかと思ったが、昨夜同様に酔った状態では日記からの学習も進まない。
そう言えば昨日の夜は、こうした時間に彼女とLINEをしていたらバーチャんが起きたんだよな。
そうだ、30日に大阪へ行く旅程を確認しておこう。
スマホでアスカラ・セグレ社の大阪本社の住所を調べ、JR大阪駅が最寄りと判断した。
続けて「淡路陵から大阪駅」で検索し、到着時刻を訪問時間である15:30の30分前で交通機関を調べる。
御陵前 11:58
↓
福良
↓
三宮
↓
大阪駅 14:43
この旅程かな?
訪問時刻には40分以上早い。
試しに到着時刻を15:30で確認してみたが同じ旅程が出てきたので、これが遅刻にならない旅程だと確認した。
訪問時刻が15:30だから、当日に大阪から戻れるかもしれない。
「エリック」さんと『米軍の門』や零士お爺ちゃん、礼子母さんの話しにならなければ遅くはならないだろう。
「淡路陵から大阪駅」の最終を検索してみる。
大阪駅 18:45
↓
明石
↓
舞子
↓
洲本
↓
御陵前 21:01
これが最終か。
大阪で18:00を過ぎたら泊まりだな。
アスカラ・セグレ社への訪問が15:30だから、多分、大丈夫だろう。
それとも大阪で少し遊ぶか?
今回は出張扱いだから泊まっても会社持ちだ。
パワハラ課長が来てから夜遊びなんて皆無な日々が続いてたし、少しなら良いか?良いよな?良いとしよう。
じゃあ一泊予定で準備して行こう。
あれ?
ちょっと待て。
何か大事なことを忘れてないか?
「しまった!スーツが無い!」
思わず声に出てしまった。
どうする。どうする?どうする!
明日、東京に取りに帰るか?
「二郎。時間か?」
「バーチャん。スーツが無いんだ。靴もネクタイも。」
スーツが無ければ靴も無い。
ワイシャツもネクタイも無い。
ビジネスマンとしての戦闘服が手元に無い。
「お爺さんの礼服ならあるぞ。」
「いや、礼服はちょっと…」
ちゃっちゃかちゃかちゃか
ちゃんちゃんちゃーん
急にバーチャんのPadから音楽が流れた。
「二郎。見たいテレビがあるんじゃ。」
「う、うん。俺も少し考える。風呂に入るね。」
バーチャんは何も答えない。
既にバーチャんは、テレビの人になっていた。