9-9 三者会談
お爺ちゃんの部屋に入り、自分のノートパソコンを開いて社内ネットにログインする。
ネット会議のソフトを立ち上げたら、スマホで彼女にLINEを送る。
「門守りです。準備できました」18:34
既読が着いた途端に、ネット会議に彼女と鈴木さん、そして田中君。計3名の顔が写る。
「門守りです。見えてますか聞こえますか?」
「「「はい。大丈夫です」」」
おいおい、ハモってるぞ。
「4通のメール。発信しました」
「みんな、お疲れ様です」
秦さんの言葉に、俺はねぎらいの言葉をかえす。
3人とも良い笑顔だ。俺は心底嬉しい気持ちになった。
「じゃあ、秦さん帰りますね」
「秦センパイ有給休暇楽しんでくださいね」
そう告げて、鈴木さんと田中君は帰る素振りをしている。
鈴木さんと田中君は、俺がネット会議に参加するのを待っていたのか?
インカムを着けようとする彼女の後ろでは、田中君と鈴木さんは鞄を持って既に帰宅姿だ。
「秦さん。二人は俺を待ってたの?」
「帰って良いって言ったんだけど、センパイに伝えたかったみたいですよ」
「なんか悪いことしたなぁ~」
「あの二人は放置しましょう」
何やら意味深な言葉だな?
「あれ?もしかして、あの二人って?」
「センパイ、知らないんですか?」
「知らない」
「そういうことですので、放置で」
彼女はインカムを着けた状態で、ニッコリと笑う。
「センパイは、まだメールは見てないですよね?」
「ごめん見てない。今から見た方が良い?」
「いえ、あの内容なら大丈夫です」
「じゃあ後で見ます。秦さんは当日出発するの?」
「それなんですけど、部長に呼ばれたんです」
「部長に呼ばれた?」
アスカラ・セグレ社訪問で、部長は彼女に何かを依頼したのか?
「部長は何だって?」
「迎えに行けって言われました」
「迎えに?誰を?」
「センパイを」
えっ?俺を迎えに行く?
俺は幼稚園児じゃないぞ。部長は何を考えてるんだ?
「センパイと落ち合ったら、電話しろって言われました」
「まてまて。どう言うことだ?」
「それが出張扱いの条件に含まれるって暗に言われたんです」
「な、なんだよそれ!」
「なので迎えに行きます」
「それって当日じゃダメなの?」
「私もそう言ったんですが、今回の訪問で先方が示した絶対条件が、センパイと私なんだって言われたんです」
「⋯」
「それで部長が、念のために迎えに行け。旅費も宿泊費も出す。これも出張扱いにする。と言われました」
秦さん。そこで笑顔ですか?
それにしてもアスカラ・セグレ社の訪問で、俺が絶対条件に入ってるなんて⋯
これって明らかにエリック・セグレさん。俺に会うのを目的にしている。
エリックさんの思惑に、部長も彼女も巻き込まれている。
「秦さんはどうする?」
「えっ?!」
「秦さんは、どうしたいのかなと思って⋯」
「センパイ!ズルいです!私に決めさせるんですか?!」
「そうじゃ、二郎はズルいぞ」
バーチャんの声に振り返れば、空のジョッキを片手にしたバーチャんが俺の後ろに立って手を振っていた。
「二郎はワシに餃子を食べさせんのじゃ」
「バ、バーチャん。今仕事中だから」
「バーチャん?センパイのお婆さんですか?」
そう言う彼女も手を振っている。
「ほぉ~可愛いのぉ~」
「えぇ~そうですかぁ~(テレ」
「⋯」
「二郎。空じゃ」
そう言ってバーチャんは空のジョッキを突き出す。
バーチャん。飲めば空になります。
「お婆さん。何を飲んでるんですかぁ~」
「二郎特性の酒じゃ。これがめっぽう旨いんっじゃ」
そう言ってバーチャんは空のジョッキを持ったまま、俺を押し退けるようにノートパソコンの前に座った。
「お婆さんからも言ってください。私が迎えに行くって言ったら自分で決めろって言うんですよ」
「なんじゃと!女に決めさせるのか!ひどい話じゃ!」
俺はそんなこと言ってません。
「センパイと大阪に行くんですが、迎えに行かないと私の負担になっちゃうんです」
「ますます、ひどい話じゃ。二郎。空じゃ。作ってこい!」
秦さん。やっぱり出張扱いに釣られてるんですね。
「二郎。ワシはこの可愛い娘と話しとるから、早よ作ってこい。餃子も焼くんじゃ!」
ダメだ。これ以上はバーチャんの乱入を続けるのは危険だ。
そう思った時、バーチャんが強く言い出した。
「二郎が決めれんなら、ワシが決めちゃる。娘!遠慮せず迎えに来い!」
「やったー!じゃあセンパイ。詳しくはLINEで♪」
「良か良か」
「お婆さん。ありがとうございます」
そう言って彼女は手を振る。
バーチャんも手を振る。
そしてネット会議の画面は真っ暗になった。
バーチャんは真っ暗なネット会議の画面を指差して言った。
「あの可愛い娘は、いつ来るんじゃ?」