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その手があったか

 次に勇樹君と活動が一緒になった時、

「そういえばさ、この間話していた夢の事だけど。」

俺が切り出すと、

「うん。夢見つかった?」

勇樹君も乗ってきた。

「ああ、見つけたんだ。」

「なになに?」

「実家のうどん屋で、新メニューを創り出す事。」

「でも、うどん屋には携わってなかったんじゃなかった?長く居る従業員さんがいて、居場所がないんでしょ?」

前に話した実家の話を、勇樹君は覚えていてくれた。

「そうなんだが・・・。でも決めたんだ。高松に帰ったら、俺もうどん屋をやろうって。それで、新メニューを考えて、店で出すんだ。それが俺のこれからの目標だ。」

「へえ。かっこいいじゃん。じゃあ、僕の夢は、その新メニューを食べに行く事にしようかな。」

「お、いいね。」

「香川は遠いけど・・・日帰りで行ける?」

「行けるけど、夢なら大きく、だぞ。香川に来て俺の新メニューを食べたら、それから金比羅さんへ連れて行ってやる。瀬戸大橋も渡ってさ、宮島にも行くか?」

「わあ、いいね。僕修学旅行にも行けなかったから、瀬戸大橋なんて写真でしか見たことがないんだよ。」

「きっと行けるさ。俺の生きている内に頼むぞ。」

「それは、僕じゃなくて、医療の研究者が頑張るしかないからさ。」

勇樹君は気楽な感じでそう言ったが、俺はやるせない気持ちになった。確かにそうだ。夢を持て、なんて言ったって、彼の頑張り次第でどうにかなるものではないのだ。

「ごめんな。おっちゃん、何も力になれないな。」

「うううん。」

勇樹君は首を横に振った。俺は、何とか勇樹君を元気づけたかった。

「だけどさ、おっちゃんは勇樹君の書く文章が好きなんだ。いつもブログを読んでるよ。そうだ、ブロガーってのは今からでもなれるんじゃないのか?」

俺がそう言うと、勇樹君は少し困ったように笑ってこう続けた。

「僕が書いているのは日記だもん。ブロガーとして稼ぐには、どこかに行ったり、話題の新作を買ったりして、それを売り込むような文章を書かないと。僕には無理だよ。お金もないし。でも・・・。」

勇樹君は言葉を切った。そして、ちょっとはにかみながら、

「文章を褒められたのって、初めてかも。良く書けたね、くらいは学校で言われたかもしれないけど。」

と、言った。

「そうなのかい?でも、すごく文章が上手いじゃないか。」

「どんな風に?自分では上手いかどうかよく分からないんだけど。」

「すごく引き込まれる文章だし、なんか、上手く言えないけど、とにかく、おっちゃんは好きだなあ。」

「あ、ありがと。」

勇樹君はぼそっと言って、足下に置いてあったペットボトルの水を手にとって飲んだ。照れ隠しだな?俺は思わず微笑んだ。

「今からでもさ、闘病生活をブログに綴ったりすると、多くの人に読んでもらえるんじゃないかな。いずれ本になって出版されるかもしれないぞ。そうしたら、立派な仕事だ。」

俺がそう言うと、勇樹君は一瞬ぽかんとこちらを見た。

「そっか。その手があったか。」

そして、そうつぶやいた。


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