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この先の人生

 それから、勇樹君とはよく話すようになった。俺は毎日、彼は一日おきに活動しに来る。同じ物を配布する時には、来場者が途切れるとよく話をした。大抵は俺の昔話だった。勇樹君が聞きたがるのだ。

「それで?千さんってどんな人なの?」

「うーん。寡黙で、いかにも職人気質って感じの人かな。」

「手強いね。」

「そうだな。あははは。」

実家の話もよくした。

 ある日、来場者が少なくて、近くにいる数人でおしゃべりをしていた時の事。女性達が自分の子供がやっているスポーツについて話を始めた。

「あなたは?大学生?何かスポーツやってないの?」

その時、勇樹君にそう質問が飛んだ。

「あ、僕は何も・・・。」

「そんな細腕じゃあ、スポーツなんて出来ないわよ。」

「そうよねー。」

女性達は遠慮が無い。俺は勇樹君の顔を盗み見た。彼は少し傷ついたような顔を一瞬だけしたが、またすぐに笑顔に戻った。そもそも、スポーツをやっている若者だったら、このエリアにはいないだろうと思った。そう、勇樹君はこの活動エリアには滅多にいない、若い男子だった。

 勇樹君と2人で話をする際、聞いてみた。

「大学には行っていないのかい?」

「うん。」

「そうか。」

俺はそれ以上聞かなかった。けれども、勇樹君の方から、自分の事を話してくれた。

「僕、病気なんだ。いわゆる難病ってやつ。多分、長くは生きられないと思う。だから、将来のために頑張って勉強したり、働いたりって、出来なくて。」

勇樹君は少しうつむいて、寂しげに笑った。病気?難病?!俄には信じがたい。だって、こんなに元気そうなのに。確かに体は細いが。

「・・・そうなのか。そんな風には見えないが。」

「そうだよね。信じられないよね。実際、苦痛なく普通に過ごせてるんだよ。一日おきに病院に通っていれば。」

「一日おきに?」

そうか、だから勇樹君は活動を一日おきに入れているのか。

「その病気は、治らないのかい?」

「うん。今のところ治療法がないんだって。とりあえず延命の為の処置をしているだけなんだ。一日おきには必ず病院に行かなくちゃいけないんだよ。こんなだから、旅行にも行けないし、仕事も難しいでしょ。」

そうだったのか。俺の会社員時代を思い起こせば、毎日朝から晩まで会社や取引先へ行っていて、とても一日おきに病院に通えるような状態ではなかった。

「確かにな。でも、今は治療法がなくても、いずれ新しい治療法が見つかるかもしれないだろ?」

「病院の先生にも同じ事を言われてる。だから、何か目標を持って生きた方がいいって。」

「そうだよ。おっちゃんもそう思うぞ。先生が言うなら、きっと治療法も見つかるよ。勇樹君には、何か夢はないのかい?」

「夢?夢なんて・・・ないよ。多分三十歳まで生きられないしさ。今すぐ出来るようなものなんて何もないし。」

「勿体ないぞ。たとえ10年だとしても、夢を持って生きた方が充実すると思うぞ。」

「じゃあ、清太郎さんは?清太郎さんの夢って何?」

「俺の夢?夢なんか・・・。もう人生終わったようなものだから。」

「何言ってんだよ。むしろ僕より清太郎さんの方が長く生きられるかもしれないのに、それこそ目標を持って生きなきゃ。」

俺は愕然とした。もう歳だし(もうすぐ父親が他界した年齢になるのだ)、散々働いてきたし、もう何もやる事はないと思っていた。だが、確かに俺にはまだ10年、20年いや、30年生きる可能性がある。勇樹君よりもよっぽど時間があるというのに。

「だがな・・・頭も体も衰えちまって、今から何かやろうって言ってもな。」

それでも、口をついて出たのはそんな弱気な言葉だった。

「そんな事ないよ。清太郎さん、この間までバリバリ働いてたんでしょ?」

勇樹君は笑ってそう言った。


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