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第六話 返品

 ――もしかして。

 ここまできてやっと気付いた。

 他の人より余計に生きてるからだ。

 肌の調子が悪くなり始めたのも、時間を買う様になってから。

 急いで会社に戻ると、すぐさま課長の席へ向かった。

「すみません、体調が優れないので早退させてください」

「あぁ、そうした方がいい。お大事に」

意外にもすんなり許可が下りた。

 仕事のスケジュールはかなりギリギリだったけれど、誰にも何も言われなかった。それほど私の顔は青ざめていたのだろう。

 早く、あのお店に行かなきゃ。

 痛む関節をかばいながらなるべく早く歩こうとする。

 ゆっくりとしか動けないのがもどかしい。気持ちだけが焦って体から飛んでっちゃいそう。

 やっとの事でお店に着くと、すぐさま少年に訴えた。

「お願い、時間を戻して……」

「時間の返品ですね? 手数料がかかってしまいますが、宜しいでしょうか?」

時間の、返品。そういう扱いなのか。

「はい、構いません」

時間を買うのと同じく、莫大なお金を取られるのかもしれない。それでもいい。とにかく私は戻ろうと必死だった。

「確かに承りました。明日の朝には戻っています」

心底ほっとした。

 これで、戻れる。

 戻ったら仕事を辞めよう。だって若い体に戻れるんだもの。そうしたら何だって出来る。

『仕事が忙しい』なんて所詮は言い訳だったんだ。ちゃんと今を生きないと。


「それでは、手数料としてお客様の記憶をいただきました。ありがとうございます」

記憶? どういう事だろう。

 朦朧とした意識の中でなんとか考えようとしたけど、結局その努力を放棄して私は家へと帰る事にした。

 今は一刻も早く帰って身体を休めたい。

 だから私がお店を出た後、窓ガラスごしに少年が誰かに電話をかけているのが見えても何も思わなかった。


「もしもし、卯月です。今回の依頼が終了しました為ご報告させていただきます。えぇ、結城さまです。これで245回目です。最初? えぇとこの方は……大正12年に初めてご来店なさっています。はい、よろしくお願いいたします」

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