第五話 変化
それから暫くした朝の事。
「やだ、肌ガサガサ」
沢山眠ったにも関わらず、私の肌は酷くやつれていた。
鏡でよく見てみると、目元にはくっきりと深いシワが刻まれている事に気付く。
「うそっ、昨日まではなかったのに」
突然の変化に戸惑いながらも、きっと旅行帰りで疲れているだけだと、一過性のものだと思っていた。
「また睡眠時間を少し買っておかなきゃ」
それからというもの、私は多めに睡眠時間を買うようになった。貯金はどんどん減っていったけど、そんな事気にしていられなかった。
だけど、私の体はどんどん老いていった。
白髪が生えてくる様になり、腰や関節は痛くなって、肌はかさかさになった。
色々な化粧品を試してみてもあまり効果が感じられない。どうして?
また前みたいに余裕のない自分に戻っていく気がした。
違う、私は前とは変わったの! だから、急がなきゃ。
急がなきゃ、体が老いてゆく。
急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ急がなきゃ。
これも老化の弊害なんだろうか。
昼食を買い忘れていた事に気付いた。しょうがなく会社の近くのカフェで軽食をテイクアウトしようと、外に出る。
お昼時のカフェは、若い人が多くてなんだか気後れする。
いやいや、私だってまだ20代だ。
自分を奮い立たせてみたけど、やっぱり居心地が悪かった。注文が済むと私はそそくさと店内から立ち去った。
あまりに慌てていたから、入り口に人が居る事なんて気付かなかった。
案の定避けきれなくて、思いっきりその人にぶつかる。30代ぐらいのスーツを着た男性だった。
「ごめんごめん、大丈夫? おばあちゃん」
おばあちゃん。初めてそう言われて愕然とした。
「だ……大丈夫……」
もう誰も私が20代だなんて気付かない。身体が重い。心が重いよ。




