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共謀の伯爵令嬢

 ガーデンパーティーの方の進捗は、順調です。


 会場となる庭には業者が入り、すでにテーブルやソファのセットは完了しています。

 これから周囲の装飾がなされていくわけですが、今のこの段階でももう、パーティーの雰囲気が出てきています。


 アル・ソールの配役も決まり、わたくしが実行委員としてするべきは経過の確認ぐらいになりました。とはいえこちらも複数人で行うものなので、負担は然程大きくありません。


 件の太陽王は、やはりセティ様に決まりましたわ。後ほど、お姉様に報告申し上げておきましょう。


「……まあ。こちらのテーブルクロス、とても精緻で美しいですわね。予算は大丈夫でしょうか……」


 感嘆の息をつきつつ言ったクロエ様が示したのは、本会場から少し離れた、疲れた方や具合が悪くなった方を案内する休憩所です。


 本来なら別に部屋が用意される施設ですが、ここは学園。本格的に具合の悪くなった方は医務室へご案内します。


 品質を褒めつつも、クロエ様はやや心配そうにわたくしを見上げてきました。

 予算は明確に決められているわけではありません。正確には、学園から出る予算は決まっているのですが、実行委員の裁量で別途にお金を出しても構わないのです。


 とはいえ、予算の分配は重要な才覚。あまり足は出し過ぎないのが好まれます。


「問題ありませんわ。実はこのテーブルクロスは、外周部の職人の手によるものなのです」


 中央区の貴族が使う店の扱う品や職人の腕ですべてをまかなっては、クロエ様のご心配通りのことが起こるでしょう。ですが今回は布と糸だけを仕入れ、職人は外周部の者に依頼しています。


「大丈夫でしょうか……?」

「複数人のDクラスの者から調査をして、レグナ様が交渉されています。大丈夫でなければ、大事ですわね」


 大失態と言えるでしょう。


 しかしエスト嬢にも協力してもらい、信のおける職人を紹介してもらっています。おそらく問題は起こらないかと。


 これは、レグナ様からのメッセージでもあります。技術を持つ者は、相応に登用すると。


「では、こちらの品にも文句を付けた方がよろしいのでしょうか」


 クロエ様にも、計画の概要は伝えてあります。


 エスト嬢やクルスさん、クラウセッドの問題とあまり関わりのないクロエ様を巻き込むのは心苦しいのですが、お姉様とトレス様曰く、黙っているとむしろ危ないかもしれない、とのことでした。


 いかに心が否と言おうと、力がなければ目的は果たせません。ですので、ヒューベルト先生にクラウセッドに対抗できると思っていただける力を揃えるために、レグナ様はセティ様を巻き込むおつもりです。


 そうすると、高確率でクロエ様がご心配なさるのだとか。


 言われてみれば、納得できます。クロエ様はエスト嬢の存在に不安を感じていらっしゃいますから。

 ですので始めからすべてを打ち明け、わたくしと共に行動していただくことになりました。


 アキュラ家は関わっている家々と比べ、力がある家とは言えません。

 クルスさんのため、真剣にわたくしと一緒に悪役になってくださろうとしているクロエ様のことは、わたくしが守らなくては。


「こちらはレグナ様がお求めになった品ですから、然程攻撃的になる必要はないかと思いますわ。けれど仰る通り、嫌味の一つぐらいは言うべきですわね」


 わたくしの設定上、アスティリテ家と争うつもりはないけれど、エスト嬢の肩を持つレグナ様のことは気に食わないはずですもの。


「分かりました。では、そういたしましょう」


 しかし、セティ様がエスト嬢に魅了されるのを心配しているクロエ様です。いっそ、セティ様と一緒に、エスト嬢と行動してもよいかとも思うのですが……。


 お姉様とトレス様に、断固として止められました。


 クロエ様が不安を感じたとき、エスト嬢やセティ様には相談できず、思い詰めてしまうかもしれないから――とのことです。


 そう言われれば、もしそのときが来たら彼女に気を配るのはわたくしが適任だとも思います。


「妙なことに巻き込んで、ごめんなさい」

「いいえ。教えていただいてよかったです。セティ様はレグナ様に協力を求められて……とのことでしたが、きっと、そうでなくてもエスト嬢を放っておきはしなかったと思うのです」

「そうかもしれません」


 セティ様は、エスト嬢に期待をしていたようですし。


「そうしたら、わたくしもきっと、エスト嬢を応援することにしたでしょう。その裏でセティ様を疑い続けながら」

「今は、大丈夫ですか?」

「少し、不安です。けれどやはり、ほっとしてもいるのです。レグナ様と共に道理に基づいた行動を選び、身分の隔てなく労を惜しまないセティ様に。わたくしは、そんなあの方が好きですから」


 セティ様の行動原理は、エスト嬢に実力があるから、という部分も大きいかと思いますが、身分で労を惜しまない方なのは間違いありません。

 クロエ様、将来苦労されるかもしれませんわ。


 ……でも、喜ばしい苦労ですものね。


 わたくしならば歓迎します。クロエ様も、きっと。


「さて。本日の作業も順調のようですし、そろそろ戻りましょうか」

「はい。そういたしましょう」


 ただ見ているだけの人間がいては、お仕事もはかどらないと思いますし。


 首肯したクロエ様と共に、会議室へと向かいます。本日の進捗具合を確認したとして、予定表に署名をしておくのです。


 庭を後にして実習棟に入った瞬間、つい先程話に上った方と鉢合わせました。


「セティ様」


 とはいえこれは、偶然ではないと思われます。わたくしたちを見て、目的を達せた安堵が見えましたから。


「会議室では今、ヒューベルト先生がレグナとエスト嬢と話しています。近付くべきではありません」

「まあ。わざわざ今日になさらなくても」


 わたくしとクロエ様が監査当番だということは、予定表を見れば分かりますのに。


「貴女がまともに仕事をするとは考えていらっしゃらないのでしょう。ヒューベルト先生の中で、貴女は随分と怠惰なようですね、ラクロア嬢」


 ヒューベルト先生は、わたくしとお父様がよく似ていると仰いました。もしやヒューベルト先生から見たお父様は、お仕事を怠ける人間なのでしょうか……?


 ああ、いえ。怠けはしないでしょうが、下の者ができる仕事はやらない方ですわね、お父様は。やっている時間がない、というのが正確ですが。


 心外です。お父様は、時間さえ許せばすべてを自分でやりたがる方なのですよ。基本的に他者を信用していらっしゃらないので。


「もっとも、そのように見られた方が都合がよいのでしょうが」

「そうですわね」


 わたくしがダメな令嬢であればあるほど、望ましいかと。


「とりあえず、隣の部屋で三人の話が終わるのを待ちましょう。内容も、後でレグナやエスト嬢から又聞きで聞くよりも、直接聞いておいた方が齟齬もない」

「直接聞く、と仰いましても……」


 隣の部屋だからといって、会話が筒抜けになる声量で話したりはしないのですは?


 何にせよ、見つからない場所でやり過ごすのは賛成です。セティ様について、会議室の隣の空き教室に移動します。勿論、クロエ様も一緒に。


 扉を閉めて、皆で適当な椅子に腰かけました。


「では、静かに」


 唇の前に人差し指を立て、セティ様が言った途端。


『――なぜ理解しない、ファディア。このままでは、次は君が陥れられるだけだぞ』

「!」


 テーブル中央に浮き上がった魔法陣からヒューベルト先生の声がして、わたくしとクロエ様が揃って肩を撥ね上げました。


 直前に忠告をされていたので、上がりそうになった悲鳴は口を抑えてどうにかやり過ごします。


 これは、セティ様の風の魔法ですわね。空気の振動を記録して、別の場所で再生させる。高難度魔法です。


「セティ様、集音の魔法、使われるのですね」

「騎士として上に昇りたいのなら必須技能です。この魔法で相手の陣容を探ることも多いので」


 レイドル家は風属性を重視することで有名ですが、そのためだったのですね。


「ということは、この会話は今、隣でされているものですか?」

「多少の遅れはありますが、そうです」


 風がこちらに運んでくる分の差、ですわね。

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