おにぎりみたいに異世界に転がり落ちたらしき俺は、魔王と腐った文学少女に出会う
「待っていたぞ。」
通学途中に背中に衝撃を受けてのブラックアウト。
目を開けてみれば、大理石の高級そうな床にうつ伏せになっていた。
「意識はあるのだろう。人間よ、なぜ寝たふりを続ける。」
俺が必死に認知拒否をしている存在が、再び俺に恐ろし気な低い声をかけて来た。
金髪長髪ロングに全てを凍らすような真っ青な瞳を持つ大柄な男、確かにじろじろと見つめてしまいたくなるほどに男らしくも美しい造形をした男であろうが、左右の側頭部に羊さんのような大きな角を生やしている時点で一般人は現実逃避したくなるものだろう。
「お前の世界では、目の前に落ちて来た男は恋人にして良いらしいな!」
「それ、どっからの知識!」
俺は思わず叫び返していた。
妹が友人としていた会話、BL設定について、を盗み聞いていた自分の過去が憎い。
魔王様の間違った知識に突っ込みを入れたが故に、俺は彼をしっかりと見返す事となり、魔王様はそれはもう勇者を倒したぞという満足げな笑みだ。
魔王様の手には、初心者用BL漫画講座、っぽい本が掲げられていた。
「それは誰からの貢ぎ品だ!」
魔王はそっと視線を動かし、俺はその視線の先、魔王が座る玉座をそれまた飾るようにある柱みたいなものに自分の妹が控えていたことを知った。
彼女は普段よりも大人びて見えたが、それは魔王側近用の黒いドレスを着ているからか。
「てめえ、兄を売りやがったな。」
「そうだ、ではやろうか。」
「やんねぇよ、ばか!確かにBL漫画は30ページくらいで行為てんこ盛りもあるけどな、それでも気持ちの揺らぎや誘惑もちゃんとあるんだよ!」
俺は何を語っているのか。
お兄ちゃん勝手に読んでいたんだ、な妹の呟きもどうでもよい。
「よし、お前を誘惑しようか。」
「どうしてそうなるわけ!」
俺の声はしっかりと裏返っていた。
危機迫りすぎる俺は、話し合いをまずしましょうと言う体制を整えるべきだと、やけっぱちな気持ちになりながらも身を起こして胡坐をかいた。
体を起こした事で、ぐしゃっと濡れたシャツが背中に貼り付いた。
「濡れている?」
俺は自分の背中を見返し、俺がここに来る前に車に激突されていたことを思い出した。
「おに、お兄ちゃんを助けたかったの!だ、だから魔王様に!」
俺は妹の大人びていた理由をすんなりと理解したが、履いていた靴を脱ぐや妹に向かって投げつけていた。
「状況の半分以上がお前の趣味だろうが!」
寂しい魔王様を唆したのは、「妹」が過去に死んでしまった兄を呼び戻したいからでした。
けれど、魔王様は人間界の人間付き合いには疎い方で、妹は腐女子でしたから。