スライの知名度
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「はい、確かに確認しました。依頼は完了です。報酬はベッセルに振り込みますか?それともいつもの預かり場所にしますか?」
「ベッセルで良いわ。そんなに高額でもないから」
「分かりました」
左腕に着けている腕輪型の携帯通信具と空間収納装置が合わさった魔道具【ベッセル】に、受付の係員が報酬を振り込む。
窓口に置かれた数枚の紙幣が、窓口にある黒い魔玉から発せられる白い光りを通じてベッセルへと吸い込まれていった。
依頼を終えたアルーラはいつものように依頼にあった採取品を納め、報酬を貰っていた所だった。
だが、いつもと違うのは──先日怪我を負った右足。
報酬の金額を確認し、後は帰るだけと思った矢先、ずきりと右足の傷が疼いた。
「──イタッ!…無理して仕事なんか受けるんじゃなかった……」
アルーラはギルドの出入り口付近にある椅子に腰を掛けて、小さく愚痴を零した。
痛み止めは塗ったものの、やはり手持ちの薬では治りはしない。誰か顔見知りに送ってもらおう──
「お、やっぱりいたか」
と、そんな事を思いながら足に手をやって俯いた顔を上げてみるとそこには……
「ス、スライ!?どうして、ここに!?」
赤いスカーフで口元を覆ったスライが居たのだった。その出来事に驚いたアルーラは思わず声を上げるが、慌ててそれに返すのはスライだった。
「バ、バカ!」
スライが慌てるのは……己の名の認知度だった。
(スライ?)
(スライ…ってあのイレイザーズギルドの!?)
ぽろりと零したアルーラの言葉にざわざわと辺りが騒がしくなる。
そんな慌てるスライに人が集まってくるのに時間は掛からなかった。
「イレイザーズのスライさんですよね!?イレイザーズになるにはどうすればいいんですか!?」
「イレイザーズから貰える物ってなんなんですか?」
「バルロさんをご紹介して下さい!」
エリート中のエリートが集まる場所、イレイザーズ。
そしてギルドの強者からも入った者がいるその場所は一般ギルド員からは憧れられる所でもあった。
さらに言えば若干16歳という破格の年齢でイレイザーズへと入ったスライは、その数々の困難な依頼を熟す実力と、年齢に似合わない風格と整った容姿もある為にギルドでは知名度が高かったのだ。
「うわっ!?ア、アルーラ、逃げるぞ!」
スライはアルーラを連れ、慌ててギルドを飛び出した。
だが、しかし彼女の足はそれを許さない。
「……ッ!」
「──足が痛むか。あれだけ無理はするなって言っただろ……仕方ねぇ…!」
スライは走りながら左手に付けていた指輪の一つを弄ると、黒い鋼鉄で出来た乗り物──大型二輪車が出現した。
剥き出しのマフラーが4本に、L字のようなハンドルが八の字に着いた角ばったデザインのこのバイクはそのイレイザーズから支給された物の一つで、魔道具と呼ばれる魔力を燃料にする物。
普段は使うことは無いが、スライは状況的に出し渋る必要も無かった為の判断だった。
「さぁ! 早く乗れ!」
「う、うん!」
足の痛みに耐えてスライに着いて来たアルーラはその誘いに断る筈も無く、そのバイクの後ろに乗り込んだ。
「捕まってろ!!」
「…!」
響くは身体に響く低いエンジンの轟き。
アクセルを捻ったスライはアルーラが自身に捕まったのを確認すると、追って来ていた人達から一目散に逃げて行った。
…
「…ここまでくりゃ安心だろ」
スライはバイクから降り、一息ついた。
ここは街から少し離れた川の一つ。
穏やかに流れるこの川まで来れば流石にあのギルド員達追っては来れないだろう。
「ごめん、ついうっかりしてて」
「いや、いいよ。気にすんな」
「あの…さ、なんで突然?」
白い素肌を少し赤くして尋ねるアルーラの鼓動は高い。
あの騒ぎのせいだろうか、それとも男性の背中にくっ付いたと言う事実だからだろうか。
そんな事を思いながらアルーラはそうスライに尋ねた。
「ああ、お前にこれを渡そうと思ってな」
懐を探り、スライは山で採って来た薬草、トリース草をそっと手渡した。
「これ…は?」
「トリース草って言う薬草だ。聞いた事はあるだろ?怪我に良く効く。群生してる場所を知ってたから採ってきた」
「…わざわざありがとう」
この薬草を生えている場所は危険区だった筈、アルーラはその事を覚えていたがこの手負いの身では行けなかった。
だがじっとはしてられない性格の彼女は依頼にあった簡単な依頼なら出来るだろうと行動していたのだ。
「まぁ無理はすんな。大人しくしてればすぐ治るんだからよ。もうすぐすりゃこの薬草も普通に入荷される筈だ」
これはイレイザーズ内にあった依頼でもある。
この薬草の安定した供給がされるのはそう遠くない。
スライが群生してた薬草を全部取らずに居たのも繁殖させる為でもあったのだ。
既に幾つかイレイザーズに届けていたこの薬草は時期に安定して購入できるだろう。
「うん……」
「少ししたらその足の痛みも治まるだろ。そしたら送るよ。だいぶ街から離れたからな」
「…」
スライの言葉に返さず、アルーラは静かに頷く。
川の流れる音と、辺りの木々が囁く中、自分の鼓動だけがやけに大きく鳴っているような気がしていた。
…
不気味なほどに静まり返った森の中、少数の男達が集まり、何かを話していた。
日も沈みそうに景色が山吹色と紫色のコントラストを奏でる中、パルクオラ山の頂上で。
「……何?…炎を操る奴にやられただと?」
男は二つの刀を背負い、左目に眼帯をしている。
どうやらこの集団をまとめているらしい。
眼帯の男は威風堂々と街の方を眺めながら答えると素早く刀を抜き、近くにあった木を切り倒した。
鮮やかな切り口とは対象に、荒々しく小枝を折りながら倒れる音が辺りに響く。
「はい!確かに炎を使ってました!」
「間違いありません!俺もこの目で見ました!」
二人組はそう言うと焼け焦げたあとがあるジャケットを見せた。
どうやらこの二人はスライに気絶させられた二人らしい。
「…そうか…ならば探し出して俺の目の前に連れて来い!」
男は刀を鞘にしまい、二人組に言い放つ。
その眼帯のされていない右眼には激しい感情の色が見て取れた。
「分かりました!」
「必ずや!」
二人組はすかさず山を降り、その男を探しに行った。
自身のチームの大将の……目的の為に。
(……炎を使う奴ならば俺は何としても倒さなくてはならない…何としても……)
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