プロローグ2
…
謎の男は地下下水道を抜け、自分の船に乗り込んでいた。
少年を……スライをここから逃す為に。
…
「…ここ…は?」
少年は目を覚まし、初めて見る景色に驚く。
小さな丸い窓に映る地の見えない景色、耳を軽く差すキーンとした高音。ここは飛行船なのだと。
そこまで広くはない船内、自分はその中にある横並びの席に寝かされているのだと知った。
「起きたか…心配するな、地獄ってオチはない」
振り返る事も無く、謎の男は操縦桿を握り、右手でピアスを取り外しながら言う。
「ここは俺の船、〔シルフコンドル〕の中だ」
そう言い終わると同時に謎の男の右隣りへと、ピアスから朧げな赤い光と共にリュラが現れた。
その突然の事に少年は目を丸くさせる。
突然ピアスへと封じられたリュラはその事に憤慨していた事にも。
「やい、この野郎!いきなり閉じ込めやがって!」
リュラは怒っているのだと分かりやすく身体を形成する炎を激しく燃やしていた。
「…時間がなかったんだ、仕方あるまい。それとも…置いて行った方が良かったか?」
「う゛…」
正論を発する男の言葉にしゅるしゅると己の炎を小さくさせリュラはピアスに収納される前よりも小さくなった。
「ところで…あんたは誰なんだ?なぜ俺を助けてくれたんだ?」
「…そういえば自己紹介するのを忘れていたな。俺はアルフ、しがない忍者さ。ある奴の頼みでお前を助けた」
姿を闇へ隠すような深い青の服装───族に言う、忍装束をした男、アルフはそう言って口元を隠していた布を取ってそう口にした。
頭巾は無いが、髪は闇に溶けやすいように黒く短い。
鋭い目つきは決して優しそうとは言えず、口調と踏まえてどうにも冷たい印象が伺えた。
「俺の名前は───」
「スライ・アスラ」
(え…?)
少年が名を名乗ろうとした時、後ろから何者かが先にそれを口にする者が居た。
くるりとスライはその声のする方向、すなわち後ろを振り向く。
「あんたは…?」
「俺がアルフに頼んだ張本人、炎雷だ」
スライの後ろには黒く長い髪を後ろで束ねた、優しそうな男が立っていた。
「なんで俺を…?」
「その話しは目的地に着いてからゆっくりしてやる。アルフ、俺は奥で寝てる、着いたら起こしてくれ」
理由を聞いたスライだが、炎雷はそう質問をあしらうなり手をひらひらと振りながら下へと続く階段へ降りて行ってしまった。
「ああ。スライ、お前も休むといい。下に寝室がある」
「…」
…
研究所脱出から数時間後…
スライ達を乗せた船は遥か西の町「ガンゼルド」に来ていた。
…
「ここはどこ?」
スライは初めて見るその町の景色に、辺りをキョロキョロと見渡し、炎雷に尋ねた。
「ここは武術の町、ガンゼルドと言う。アルフ、すまなかったな」
「何、親友の言うことならな。…俺はもう行くぞ」
「おう、ありがとよ」
簡単な言葉を数度交わし、アルフは乗って来た自分の船へと乗り町を後にする。
その短いやり取りは彼らの信頼関係を如実に表していた。
「…それじゃ、行くか」
「行くってどこに?」
「俺の家だ。知りたいんだろ?なぜ俺がアルフに頼んだか」
その炎雷の言葉にスライは静かに頷く。
「なら黙って着いてきな」
スライと炎雷は石が敷き詰められたような道をしばらく歩き、炎雷の家へと辿り着く。
「おかえりなさい!」
家に入るとスライと同じ位の少女が出迎えてくれた。
「リース、ただいま。これから一緒に住むことになったスライだ」
「初めまして、よろしくね」
スライはいきなりの出来事に戸惑った。当たり前だ、突然住むと言われたのだ、戸惑う事は必然だった。
「!? ちょっと待ってくれよ!俺はそんなこと……」
「なら聞くが、他に泊まるあてがあるのか?」
「……」
正論だった。
研究所から抜け出したばっかりのスライに泊まる場所なんてあるはずがない。
「なら拒否権はなしだ。それに…強くなりたいだろ?」
「強く?」
「後々わかるさ。リース、ちょっと向こうに行ってもらえるか?スライと話すことがあるんだ」
「うん」
リースはそう言われるとすぐさま部屋を出て行った。
部屋には二人が残る。
「…それじゃあなぜ俺がアルフに頼んだか教えてやる」
炎雷は椅子に腰掛け、アルフに頼んだ理由を話し始めた。
スライを、あの研究所から助け出した理由を。
「…俺がアルフに頼んだ理由はな、お前が戦友の息子だからだ」
「戦友?」
「戦友とは言っても特別な戦友だ。何せ…あいつは聖霊だからな」
「お、俺が聖霊の息子?」
「正確に言えば古代聖霊〔ギリアン〕だ。古代聖霊は三人の巫女を守護していた。俺はその近衛兵だった……」
炎雷は言葉を少し区切り、思い出すように窓の方、景色を眺めて再び口を開く。
「…ところがある日、とてつもなく強力で邪悪な力を持った奴が現れ、そいつが次々と古代聖霊達を封印していった───
恐ろしい力だった。
まだ若かった俺では手も足も出なかった。
巫女達の抵抗もあり、聖霊達の子供は殺されずに済んだが…
抵抗した巫女達は殺された。
『スライは闇に染まったこの世界を救わなければならない』
それがお前の父、戦友から聞いた最後の言葉だ───
スライ、俺ではこの世界を救うことができない。お前にしか救うことができないんだ!」
炎雷ははその小さな両肩を掴み、未来を託すようにスライに言う。
「嘘だろ…俺が聖霊の子…」
「お前にはこれから修行をしてもらうつもりだ。修行は過酷なものとなろう。受けるどうかはお前次第だ。……もっとも…大切な人を守りたくばすぐに返答すべきだがな…覚悟ができたらこい」
スライは少し動揺しながらゆっくり部屋を後にした。
頭の中にはぐるぐると言葉が回る。
「俺が…聖霊の息子…?」
聞かされた真実に戸惑い、気を落ち着かせるためか海岸に出かけた。
…
「…いきなり世界救えって言われたって……ああ!もう…!!」
スライはを岩に座り、海を見つめて愚痴を零した。
「『…大切な人を守りたくばすぐに返答すべきだがな…』…か……」
スライは脱走した時のことを思い出していた。
自分を救ってくれた、あの二人の事を。
「……ルーイン……タロン……ごめんよ…助けてもらったよな…ダメだよな…このままじゃ……」
不意に落ちていた石を握り締めると、それを思い切り海へと放り投げ、意思を固めた。
足は、炎雷の家へ。
…
「……」
「お父さん! スライ君が来たよ!」
時間がかかるだろうと仮眠を取っていた炎雷をリースが揺すり起こした。
「…ん? 意外と早かったな……」
炎雷はむくりと起き上がり、目の前へ立つスライを見据えた。
「決まったのか」
「…おっさん、俺…やってみるよ。世界を救えるかどうかはわからないけど…大切な人を救いたいんだ!」
スライの言葉にやれやれという感じに息を吐く。
「ほう、ちょっとみないうちにいい面構えになったじゃないか」
炎雷はしゃがみこみスライの頭を軽く撫でた。
くしゃりと、重い決断をしたであろう、少年に敬意を込めて。
「その心があれば大切な人も世界も救える。お前は少しも弱くないぞ」
「おっさん……」
「これからお前を鍛えてやる。その心を無駄にするなよ?」
「うん!」
「それからな、俺のことは師匠と呼べ」
炎雷は優しく微笑みながら言った。
続くのは笑顔と共に発せられたスライの言葉だった。
「はい! 師匠!」
…
小説投稿当初は1ページ200文字ぐらいでした。
今は大体一話2000〜3000文字。
向上した物だ……うむ。




