プロローグ
どーも厨二男、りばーしゃです。
現在執筆中でもある「ヘタレの努力家」が遂に100話を突破したという事で処女作「エンシェントスピチュアルズ」を公開します。
なおタイトルは造語。スペルちゃうやろがぃ!なんて言葉は受け付けておりません。
こ う い う タ イ ト ル な ん で す 。
ではどうぞお楽しみ下さいませ。
…
…東Aブロック「アルカラ研究所」
「逃がすなぁーッッ!!!」
荒々しい男の怒声、丈狂うように響き渡る、警告を告げるアラームと赤い光。
ここはとある組織の研究所、普段は静寂に包まれたこの場所も、今はアラームとその激しい足音達による喧騒に満ち溢れていた。
「はぁ、はぁ、はぁッ……くそっ!……捕まってたまるか!」
息を切らしながら、真っ白な貫頭衣に身を包んだ、一人の少年がその丸裸の足を動かし続けながら言葉を吐き捨てた。
年齢は大体10歳ぐらい、その伸びっぱなしの黒い髪と同じく瞳も黒く、子供特有のあどけなさはそのままに、強い光りを灯している。
「はぁ…はぁ…ッ…後少しで…出られるッ!」
少年の思考は一つ、この場所から出れる外へと繋がる道───下水道へと逃げるつもりだ。
場所は既に盗み見たマヌケな監視の地図で把握済み、もう少しで───
「ッ!?」
突如として目の前に振り落とされるモノ。
バサリと身体に絡みつくその感触が捕獲用のネットだと言うのは動けない身体と、飛んで来た怒声によってようやく気付いた。
「チョロチョロしやがって!【実験サンプル】のくせに逃げるんじゃねぇ!」
発射したであろう簡易なバズーカのような銃に繋がるそのネットを手繰り寄せ、若くガラの悪い警備員らしき男は少年に蹴りをいれた。
ここが善良な市民が住む、平和な町ならばこんな事があれば非難轟々、許されざる事だろう。
しかしここはとある組織が治める、悪意渦巻く研究所。
ここに居る全ての人間が異常者、または悪事をしてる事などどうでも良いと思っている人間ばかりだった。
「ッア…!」
鋭く刺さるそのつま先は少年の呼吸を止め、僅かな苦悶の声が響く。
どうやらみぞおちにはいったようだ。
少年はその痛みに、お腹を抑え苦しみもがく。
「たかが実験サンプルのくせに手間をかけさせるんじゃねぇ!」
(…たかが、実験サンプル……いや…!…違う…俺は…!!!)
男は何度も少年に蹴りを入れた。
執拗に繰り返すそれは、まるで八つ当たりのようにも見えた。
やがて少年を蹴り飛ばそうとした時、男の手が瞬時に火に包まれた。
「───ぐあッ! 熱いッ!?まさか…【聖霊】…か?〝また〟…逃げ出したの…か…ぐあぁぁぁッッ!火がッ!!消えないッ!!!あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
必死に手から燃え盛っていく炎を振り払うが、勢いを増すばかり。
やがて男は炎に包まれ、断末魔の叫びと同時に真っ黒な灰へと姿を変えた。
「……ゲホッ…聖霊? …また?───ッ痛……」
少年が身体へと残る痛みに咳き込みながらそう言うと、目の前ある〝現象〟が起きた。
陽炎のように揺らぐ空間、燃える音と共に炎の塊が現れた。
赤を基準とした、末端のみが少し青い小さな鳥のような炎。
炎のくせにソイツはしっかりとした青い眼で少年を見つめ、顔部分の菱形の部分を開く。
「脱走してくれてありがとよ!俺はリュラ! 火の聖霊さ!お前が実験室をぶっ壊してくれたお陰で逃げることができたんだ!」
宙にふよふよと浮かびながら、太陽の如く橙色の小さな嘴をぱくぱくとさせて、リュラこと、火の聖霊はそう口にした。
声に幼さが残るこの小さな聖霊が成体な筈も無い、幼体───なのだと少年はそう確信に近い感覚を覚える。
聖霊達は研究のために捕らえられてたらしく、朦朧としてきた意識の中で周りが爆発音などで騒がしいのが分かった。
だが、そろそろ少年の意識は、重くなってきた瞼と共に闇に呑まれていく。
「…それは良かった…な……」
少年はそう言うとバッタリと倒れてしまった。
脱出する際に使った魔力、そして再び捕まるかという恐怖は精神的負担となって少年の体力を大幅に奪っていたのだ。
「あちゃ~…助けるのが遅かったな……」
ふよふよとその場に浮かびながら、答える事が出来なくなった少年に向かってごちた。
リュラは聖霊、常人では触れることができない。
「参ったな…このままじゃまた捕まっちまう───ん?」
リュラが考えていると上のダクトから影が降りて来た。
いや、影ではない、〝人〟だ。
「……ッ誰だ!?」
「聖霊がいるとは聞いたいなかったな……警戒はするな、俺はある奴に頼まれてこいつを救いに来ただけだ」
一見黒と見間違う程の全身が深い、青の衣服。
口元もその衣服で覆われているその姿は何かを隠すような姿であった。
「ある奴?誰だよそいつは…」
「詳しい話はあとだ。今はここから逃げるぞ、お前も来い」
謎の男は少年を抱え、目的地へ───下水道へ急ぐ。
「おい! 待ってくれ~!」
…
…地下下水道
「早く来い! 閉じ込められるぞ!」
「んなこと言ったって…」
謎の男の足は異様に速かった。
空を浮かんでいる他に、聖霊としてまだまだ未熟な嶐羅は謎の男を見失わないようにするのがやっとだったのだ。
仕方ない、と謎の男は少年をその場に静かに下ろすと、やっと近寄って来た聖霊に向かって口を開く。
「…仕方ない…聖霊よ、少し目を閉じろ」
「?」
謎の男は左耳から付けていたピアスを取り外し、聖霊の目の前へそれを見せる。
ピアスの形は至って普通のバーベルのような物。それに空色の宝玉が付いている。
「お前にはしばらく〝休んでもらう〟。なに、心配するな。こいつが目を覚ます間だけだ」
「へ?」
聖霊には突然の事だったので何を言われたのか分からなかった。
それもその筈、聖霊にはそのピアスが何なのかなど分からないのだから。
「時間がない、ちょっと乱暴かもしれないが我慢しろ」
「え? お、おい! うわぁぁ───」
ぎゅる、と、周りの空間が歪むと聖霊は小さなピアスに吸い込まれていった。
このピアスは物質など仕舞う事が出来る特殊なピアス。聖霊などと言う規格外の物を仕舞えば壊れるだろうが一度きり、短時間ならば持つだろう。
「…よし、急がなくては。死ぬなよ、少年」
謎の男は少年を抱え、疾風のように地下下水道をなんなく脱出する。
けたたましく唸るサイレンと、追手の騒めきを置き去りにして。




