09.笑止! 怪人の噂(1)
「さて、新入部員も入ってきたことだし、いまいちど我が部の活動方針について説明したいと思う……」
部長がわが街研究部の説明を始める。
あれ、長いのよねー。要点だけ言えばいいのに、部長の話ってあっちこっち飛ぶから、中々進まない。仕方ない。私が部長の代わりに説明しますか。
この部活では、自分たちが住んでいる比呂田市のことを色々調べて、その情報を発信するという活動を行っているの。
研究内容は主に『歴史』、『噂』、『ニュース』の3つのテーマに分かれている。
一つ目は『歴史』。比呂田市の歴史のこと。これはイメージしやすいよね。ただ、教科書にのっているような古いものだけじゃなくて、比呂田市に昔からあるお菓子屋さんの紹介とか、割と最近のものも歴史のカテゴリーに入るの。
次に『噂』。比呂田市の都市伝説や噂話のこと。比呂田市の噂はオカルトじみたものが多い。だいたいがジョーカーのせい。部長なんかは必死で検証を行っている。
最後に『ニュース』。お祭り、イベント、行事など、比呂田市に関わる最新のニュースのこと。オープンしたばかりのお店に行って、その体験レポートを書く、なんてこともしている。
わが街研究部こと街研では、調べたことについて各自で記事を書き、学校の掲示板に貼りだしている。だいたい月に2・3回ぐらいの頻度でね。
活動内容がかぶっているせいか、記事を出すたびに新聞部とケンカしている。新聞部の部長とうちの部長、仲悪いのよね。似たもの同士って気もするけど。
長々と部長が話をしている。眠い。あくびをこらえるのがやっとだ。
星野兄妹の方を見ると、真面目な顔で部長の話を聞いていた。……そんなに集中して聞く話でもないよ? あっ、終わった。
「では、次に自己紹介にうつりたいと思う。まずは私から。2年4組、田村紫音だ。この街研の部長をしている。仲のいいものは私のことはムラムラと呼ぶ。だが、君たちは部長と呼ぶように」
ムラムラねぇ。しかし、紫音という名前、死ぬほど似合ってないわ……。
「さて、私がこの部に入った理由だが……」
ここでブレス。
「なんと私はこの部で、“怪人”の調査を行っているのだ!」
どうだ! といわんばかりの口調。……はっきり言って、うざい。
沈黙が流れる。部長がいつまでたっても話を進めようとしないからだ。誰かが反応するのを待っている。あー、面倒くさい。
遠崎さんは冷たい目で部長を見ている。
私? ……ツッコんだら負けかなと思っている。
「……あのー、“怪人”ってなんですか?」
場の空気を読んで、桃ちゃんが質問をする。ほっといてもいいんだよ?
「ふっふっふ。知りたいかね? ならば教えてやろう」
部長は得意げな表情で笑う。新しい部員が入ってきたせいか、今日はテンションがやたらと高い。
「“怪人”とは、比呂田市に存在するUnidentified Mysterious Animal、すなわちUMA(未確認生物)の一種だ!」
ビシッ、人差し指を前に突き立てる。……なんのポーズ、それ?
部長はフッフッフッと含み笑いをしながら、前髪をファサとかき上げた。
「君たちは知らないかもしれないが、この比呂田市には多数の“怪人”が存在しているのだ。“怪人”は、昆虫が人型化したような姿をしている。ハエ男に蜘蛛女、蛾人間……、多くの人間が彼らの餌食になっている」
へー。どっかで聞いたような話ね。
「餌食と言っても食べられるのではない。人体実験に使われるのだ。一説によると、“怪人”は宇宙人のペットで、宇宙人に命令されて夜な夜な人間を攫っているらしい。攫われた人間は宇宙人に解剖され、体をもて遊ばれた後、次の“怪人”にされてしまうという」
ふむふむ。
「“怪人”の正体を突き止めること。これは人類の存亡にかかる重大事なのだ!」
なるほど! それはすごい!
ドン!
「もう、部長は! いつもいっているけど、この部はオカルト研究会じゃないのよ!」
遠崎さんが、もう耐えられないといった様子で机をたたき、立ち上がる。
「“怪人”はオカルトではない! 実在する! 私は“怪人”を実際に見たんだ!」
「はいはい。ストーンハンティングの帰りに見たんでしょ。ふわふわと空を飛んでいたのよね? 百回は聞いたわよ、それ」
「ふわふわじゃない。それはすごい速さで飛んできて、すぐに見えなくなったのだ」
「すぐ見えなくなったのに、なぜ“怪人”ってわかるのよ!」
「少ししか見てなくても、私にはわかる! あれは昆虫のような姿をしていた。間違いなく“怪人”だった!」
部長と遠崎さんは激しくやり合っている。……なんか、一年前にもこういった光景を見たような気がする。
誰だ? こんな面倒くさいヤツに姿を見られたのは。……ドラゴンフライヤーかな。アイツ、周りのことなんて気にしないし。
こういう噂って、どこからわいてくるんだろう? 微妙に真実が含まれているところが、何ともいえないわね。
それにしても……、私は気になって、星野兄妹の方をチラリと見る。二人は神妙な顔をして部長の話を聞いている。
……彼らは “怪人”のことをどこまで知っているのだろう?