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07.注意! スパイダーレディの能力!

 あっ、ローズからメールがきている。なんだろ?


“ハロー、マイマイさん。どう? 彼とは上手くいった?”


 しまった! 報告忘れてた。


“こんにちは、ローズさん。私、頑張りました! お礼の品も渡したし、できる限り笑顔で話しかけてみました。彼も終始ニコニコしていたし、良い印象を与えられたと思います”


 問題は、あれから紅一君に全然話しかけられていないってことね。彼、いつも誰かと話してるんだもん。きっかけがないと話にくい。

 結局、スターピンクとも会えていないし。……前途多難だわ。


“よかったわ。私、ずっと気になってたの”


“返事が遅くなってごめんなさい。ちょっとトラブルが発生しちゃって。そのせいで、報告できなかったんです”


 そう、トラブルのせいなの。決して忘れていたわけじゃないの。


“えっ、トラブルって?”


“実は、彼のことを好きな女子のグループに睨まれちゃって。校舎裏に呼び出されてしまったんです”


 私の秘密を知ってる……なんて書いてあるからびっくりしちゃった。私の場合、心当たりがありすぎるのよね。


“大変じゃない! それでどうしたの?”


“もちろん、校舎裏に行きました。彼女たち、ものすごく怒ってて恐かった……”


 鈴木さん、なんであんなに怒ってたんだろう? 謎だわ。


“大丈夫? 何かひどいことされなかった?”


“それは、大丈夫です。ただ、彼とはもう関わるなって言われちゃって。そんなの無理だし、私、きっぱり断りました”


“エクセレント! 素敵よ、マイマイさん。そんな奴らの言うことを聞く必要はないわ”


 あっ、ほめられた。


“でも、彼女たちますます怒っちゃって。私もつい……手を出してしまったんです”


 あの時、彼女たちにスパイダーレディの能力を使ってしまったの。今では少しやりすぎたと反省している。

 

 蜘蛛の怪人である私には、いくつかの能力がある。指先から蜘蛛の糸をだすこともできるし、壁をよじのぼることもできる。そして、催眠術を使うことも。


 私の出せる蜘蛛の糸は二種類あって、一つは普通の糸だけど、もう一つの糸はフェロモンや催眠効果のある化学物質を含んでいる。

 普通の糸は強く丈夫だけど、化学物質を含んだ糸は、か細く繊細なものになっている。


 この化学物質を含んだ糸に触れると、相手は強制的に催眠状態におちいる。

 この糸を、彼女たちが後ろを振り向いた隙に、付着させたの。


 だって、彼女たち私の話を聞いてくれそうになかったし、まぁ、つまり、面倒くさくなったのね。


“あら、恋は戦いなのよ! そんなのいちいち気にする必要ないわ。どうなの? 再起不能にしてやったの?”


“い、いえ。さすがに、そこまでは”


 ……ローズは、私を一体何だと思ってるのかしら?


“あら、それなら決着はつかなかったのね”


“決着?”


“だって、中途半端に終わっちゃったら、勝者がわからないでしょ。最後に立ってたものが勝者だもの”


“……何の話ですか?”


“恋愛の話でしょ?”


 恋愛にそんなルールあったかしら?


“……”


“違うの?”


 どうだろう? 残念ながら、私には一般的な恋愛はよくわからない。基本的に私の周りには怪人しかいないのだ。


 よく知っているカップルっていったら、白鳥(しらとり)杉本(すぎもと)だけど……。確か怪人同士の合コンで付き合い始めたって言ってた。


“よくわからないけど、違うような”


“そうなの? うーん、文化の違いかしら? じゃあ、マイマイさんの場合は、どうなったの?”


“再起不能ではないんですけど、実はリーダーの女の子にひどいことを言ってしまって……。彼女のこと、傷つけてしまったみたいなんです”


 私、相川さんに無理矢理催眠術をかけようとしたのよね。


 さっきも説明したけど、化学物質を含んだ糸に触れると、相手は強制的に催眠状態におちいる。ただ、これはそれほど強いものではない。なんせ、他からの刺激を受けたり、糸が切れると効果がなくなってしまうぐらいだから。


 継続的に催眠術をかけるためには、相手の目を見つめ、相手の心のより深い部分に触れる必要がある。重ねがけも必須だ。


 ただ、異性の場合はこんな面倒くさい手順を踏まなくても、操ることができる。フェロモンがよく効くみたい。個人差はあるけど。


 あのとき、私が知る相川さんの情報から、効果的だと思える言葉をかけてみた。


 私、クラスメイトと仲良くなるつもりはないけど、情報収集は好きなの。ある意味、クラスの誰よりもクラスメイトのことを知っているかもしれない。


 相川さんはクラスの女子の中でも目立つタイプだから、情報も手に入りやすい。


 例えば、相川さんには、美人で頭の良いお姉さんがいるらしい。しかも、お姉さんは県下でもトップクラスの進学校、桜陽高校(おうようこうこう)に入学したにもかかわらず、相川さんは受験に失敗し、この星華高校に入学したらしい。相川さんにお姉さんの話は禁句らしい。相川さんは、モデルにスカウトされたものの親に反対され、不満に思っていたらしい。先日、相川さんが髪を染めたところ、親とケンカになり、メイク道具一式を捨てられてしまったらしい、などなど。


 噂だけじゃない。私はクラスメイトの行動もよく観察している。


 相川さんは、常に女子のリーダーとしてふさわしい振る舞いをしようとしている。おしゃれに気を遣い、流行にも敏感で、クラスに逐一話題を提供する。常に自分を他人よりも上にみせようとしている。クラスメイトはきっと彼女を強い人間だと思っていることだろう。


 でもそれは違う。彼女が何かをするとき、リーダーらしく振る舞うとき、常に恐れの感情が見え隠れする。周りの反応を過剰なまでに気にする感情の揺れ。そういったものが、私には肌で感じられるのだ。


 優秀な姉に劣等感をもち、そのことをクラスメイトに知られるのをひどく恐れ、ことさら自分を大きく見せることで、心のバランスを保っている。それがきっと本当の相川さん。


 催眠術をかけるときに、それらを適当にぼかして言ってみたんだけど、思った以上に効果があった。あのまま邪魔が入らなければ、きっと催眠術は成功していただろう。


“あー、それはよくないわね。心の傷っていうのは、そう簡単に癒えるものじゃないもの”


 やっぱりそうよね……。


“そうですよね……。あれから、彼女学校に来ていないんです。私、ちょっと責任感じちゃって”


 まさかあそこまで彼女が引きずるとは……。もう少し力を抑えればよかった。あの時の私、ちょっとハイな状態だったからなぁ。


 私たち改造人間は、怪人の姿になるとちょっと攻撃的な性格になる。

 怪人にならなくてもたまにそういう気持ちになってしまう時があって、中々コントロールできないのだ。……脳内麻薬でもでているのかもしれない。


“大丈夫よ、マイマイさん。傷つけちゃった女の子にはちゃんと謝りなさい。誠意をもって謝れば、きっと許してくれるわ”

 

 謝るかぁ……。私だけが悪いんじゃないと思うんだけど。むこうも、褒められた態度じゃなかったし。


“でも、私そういうのは……”


“ダメよ。ちゃんと謝らなきゃ。あなたの気持ちが相手に伝わらないわ”


“……はい”


“頑張って。私はいつもマイマイさんを応援しているわ”


◆◇◆◇◆


 それにしても……。相川さんたちと話していたときに聞こえた、あの大きな音は一体何だったんだろう? 調べたけど何もわからなかった。


 あの時のことを不思議に思いながら、帰り支度をする。紅一君はもう教室を出てしまったようだ。盗み聞きしたところによると、今日の放課後は部活の見学に行くらしい。

 そういえば街研の歓迎会って今日だっけ? まずい、さっさと帰らないと。


 私は相変わらず周りの生徒に挨拶もせず、校舎の出口へと急ぐ。この前は、下駄箱に手紙が置いてあって、ひどい目にあった。今日は何もなければいいけど。


 ん、あれは……?


 下駄箱の前に立っている男子生徒が見えた。それは、私のよく知る人物で……。

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