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31.奇怪! 比呂田笛吹き男事件

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ vol.19997━

比呂田笛吹き男事件(比呂田市児童集団失踪事件) 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

××××年12月4日


比呂田市の6歳~8歳の児童12人が公園で遊んでいるうちに集団で行方不明になるという事件が発生。

目撃者の男児が、児童失踪直前に「仮面をかぶった男の人が笛を吹き、みんながその人の後をフラフラとついて行った」と証言したことから「比呂田笛吹き男事件」と呼ばれる。

誘拐の線から捜索が行われたが、何の手がかりも発見できていない。

この事件は児童の行方が発見されていないため、失踪事件となっている。


◆不可解な点

この事件には不可解な点がいくつも存在する。

①公園には児童らの親も含め複数の人間がいたが、証言者の男児以外は笛吹き男を目撃していない点

②12人もの児童を連れ去った方法と運搬手段

③児童らが抵抗した痕跡が全く見られない点

④犯人の目的


※「深淵なる宇宙」の著者、R.グレイ氏は“この事件は宇宙人による集団誘拐事件であり、人類が気がついていないだけでこのような事件は今までにも度々起こっている”と語っている。



「結局子供たちは見つからなかったのね……」

「警察も必死で捜査したみたいだが、手がかりすらつかめなかったそうだ。国ぐるみの誘拐事件なんじゃないかとか、宇宙人の仕業だとか、当時色んな噂が飛び交ってたな。今でもたまにそれ系のテレビ番組でやってるぜ、この事件」


 ああ、“世界仰天ファイル!”的なヤツね。確かにこの事件なら色々作れそう。


「でもこの事件、ジョーカーの仕業っぽくない?」


 ジョーカーなら、目撃情報をもみ消せるし、警察に手を回して捜査をやめさせることができる。誘拐なんて日常的にやってるんだし。


「まぁな。だが、秋舘は“この事件がきっかけとなってジョーカーが作られることになった”と言ったんだ。お前の言うように、これがジョーカーの仕業となれば順序が逆だろ?」

「……アイツが適当なことを言ったって可能性は?」


 私の言葉に龍司が首を振る。


「ねぇな。秋舘の奴は情報屋だけあって、そういうのにはやたらとうるさいからな。あいつの言葉どおり、“比呂田笛吹き男事件”は“ジョーカーが作られるきっかけとなった事件”であり、“ジョーカーが作られた理由につながる情報”だと考えるべきだ」


 確かに秋舘は情報の扱いについてはうるさい。内容だけじゃなく、言葉の使い方も正確だ。


 ……そんなヤツがどうして“プライデー”の記事みたいなのを世に送り出しているのかしら? 不思議ね。


「この事件、警察が調べてもわからなかったんでしょ。こんなのどうやって調べればいいのかしら?」

「行方不明になった子供の親を当たってみるか、それとも笛吹き男見たという子供を捜してみるか……」

「警察のデータを探ってみるっていうのは?」

「それは危険だな。警察の上層部はジョーカーとつながっている。下手をすれば、警察からジョーカーにバレる可能性がある」

「そっか……」


 私たちがジョーカーを探っているってこと、上に知られるのはまずいものね。

 やっぱり、当時の目撃者に当たってみるしかないのかしら?


 ネット検索で出てきたサイトを見てみる。

 どうもこのサイトでは“宇宙人説”を押しているらしい。ふざけた考察が真面目に書かれている。


 宇宙人ねぇ……。

 まるでアイツみたいなこと言ってるわね。


 怪人の謎を解き明かすことに使命を感じちゃってるヤツの顔が頭に浮かぶ。


 ……ダメ元で聞いてみようかしら? 噂話って案外バカにならないし。


「まぁ、地道に探っていくしかないな」


 龍司がつぶやく。

 地道な作業って苦手なんだけどな。


 他の方法はないものかしら?


 他の方法……。

 パパとママの研究。それに極楽博士……。


 いや、アイツはダメ。絶対!


 ブンブンと頭を振る。


「ん? どうした?」


 龍司が怪訝な顔をする。


「な、なんでもない。なにか他のアプローチはないかなって考えてたの」

「他のアプローチ?」

「例えば、私の両親の仕事とか」

「ああ。そういえば、お前の親、ジョーカーの研究員だったな」

「うん。だから、二人が何の研究をしていたかわかれば、手がかりになるんじゃないかと思って。この間から色々調べているの」


 両親はずっとジョーカーの研究員として働いていた。ジョーカーがどんな組織だったかも当然知っていたはずだ。このことを考えると、少し憂鬱になるけど。


「で、何かわかったのか?」

「ううん、それが全然。アルバムや遺品はアイツに取られちゃったし、記憶も曖昧で……。私って、自分の親のこと何も知らないのね」


 あんなにも大好きだったのに、二人のことを私は何も知らない。それがとても悲しい。


「お前まだガキだったんだろ。仕方ねぇよ」


 龍司が優しい口調で言う。


 そうかな? 私って薄情なんじゃないかな。パパやママのこと、あまり思い出さないようにしてたし。

 いや、ダメだ。こんなこと考えちゃ。


「でも一つだけ思い出したことがあるの」

「何だ?」

「パパの仕事のこと」


 誕生日の時に、ママに聞いたことを思い出したのだ。


「昔ママに聞いたことがあるの、“パパの仕事ってなぁに?”って。そしたらママは“パパは悪い奴から皆を守るための仕事をしているのよ”って言ったの」


 私の言葉を聞いた龍司は、意外そうな顔をする。


「悪い奴から皆を守るための仕事? ジョーカーでの研究がか?」


 龍司が疑問に思うのも無理はない。私だって、“悪いヤツはジョーカーでしょ!”って言いたくなるもの。でも……


「確かにそう言ったわ。その後も私、ママに色々聞いたんだけど……」


 “悪いヤツって誰?”とか“どうやって皆を守るの?”とか聞いた気がする。

 私から質問攻めにされたママは困った顔をして――


「なんだか難しい言葉ではぐらかされてしまったの。私、ママの言っていることが全く理解できなかったわ」


 わかったのは、とにかくパパは大切な仕事をしていて、すごく偉いんだってこと。

 当時の私はそれで満足してしまったの。だって小さい時の私は“パパが偉い”ってことさえわかれば十分だったんだもの。


「悪い奴から皆を守る……。悪い奴って誰のことだ?」

「さぁ? 笛吹き男とか?」

「……わけがわからねぇな」


 龍司が考え込むような顔をする。

 しばらくして、何か思いついたように口を開いた。


「そういえば、お前、昔よく言ってたよな。“私のパパとママは偉いのよ。だって、二人はジンルイを救うための仕事をしてたんだから”って」

「人類を救うための仕事……」


 そういえばそんなことも言ってた気がする。


「“人類を救うための仕事って何だよ”って聞いても、ちゃんとした答えは返ってこなかったけどな。だが、今の話からいくと、お前の親の仕事は、“悪い奴から皆を守る仕事”で“人類を救うための仕事”ってことになる」

「まぁ、そうなるわね」

「ということは、悪い奴ってのは“人類の敵”ってことにならねぇか?」

「“人類の敵”……。って何?」

「さぁな。笛吹き男とか?」


 ……私たちは笛吹き男に過剰な期待をしすぎだと思うの。


「もっと調べる必要があるわね。パパたちの仕事も、笛吹き男のことも」

「そうだな……」


 それにしても、人類を救うために、悪い奴から皆を守る仕事かぁ……。

 それって、まるで――


 まるで――()()()()()()()()みたいね?

次回、日曜日に更新。

「エピローグ」

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