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28.交渉! 情報屋 “秋舘文春”

 相変わらず派手な建物ね……。


 秋舘の印刷工場兼オフィスは独特の形をしている。子供の図画工作の作品のようなつぎはぎだらけでへんてこな形。絵の具をぶちまけたようなカラフルな色。一度見たら忘れられない建物だ。まるでペカソの絵みたい。


「入るぞ」

「うん」


 龍司と一緒にオフィスの中に入る。


「相変わらずスゲーな……」


 龍司がつぶやく。

 わかる、その気持ち。


 すごいのは外観だけじゃない。秋舘のオフィスは中もペカソなのだ。


 外観と同じようにカラフルな色合い。壁には大小様々な大きさの写真やイラストが隙間なく貼り付けられている。ごちゃごちゃしていて落ち着かない。見ていると、目がチカチカする。


 人はいない。部屋にこもって作業をしているのだろうか? 秋舘曰く、プライデーは少数精鋭。ここで働いている怪人自体少ない。


 ホールの階段を上り、真っ直ぐ秋舘の編集室に向かう。立派な木彫りの扉が目の前に現れる。編集室の扉だ。


 編集室の扉には、何かの物語の場面を表した絵が彫られている。絵は四つの場面にわかれていて、それぞれがつながって一つの話になっている。


 一つ目は怪物が人間を襲っている絵。子供が怪物に攫われている。


 二つ目は人間が怪物と戦っている絵。たくさんの人間が血を流して倒れている。


 三つ目は人間が薬を飲んで怪物に変化している絵。


 四つ目は怪物化した人間が最初の怪物を倒している絵。


 ……一体何の物語なのだろう? 宗教画ってわけでもなさそうだし。秋舘の趣味はよくわからない。


「おい、どうした? ぼんやりして」

「あっ、ごめん。何でもない」


 龍司に声をかけられて、ふと我に返る。


 いけない、いけない。こんなこと考えている場合じゃなかった。


 コンコン。編集室のドアをノックする。


「入りたまえ」


 抑揚のないのっぺりとした声。秋舘の声だ。


 扉を開け、中に入る。部屋の主が尊大な態度で私たちを迎えた。


「これはこれは、スパイダーレディにドラゴンフライヤー。ゲコ。大幹部が吾輩に何の用かね」


 しゃべると喉の辺りがプクプクふくらみ、ゲコゲコ鳴き声が入る。


 ――目の前にいるのはカエル。シルクハットをかぶり、黒いタキシードを身にまとった大きなカエルだ。


 ただし、皮膚は緑ではなく、鮮やかな青。本人は自分の皮膚の色をブルーサファイアだとか、タンザナイトだとか、よく宝石にたとえている。


 確かに綺麗な色だけど、鮮やかすぎて毒々しい。いかにもって感じなのだ。


 そのカエル――秋舘文春(あきだちふみはる)は大きな椅子の上でふんぞり返って葉巻をふかしている。まるでギャングのボスみたいに。


「お前に少し聞きたいことがあってな」


 龍司が話を切り出す。


「吾輩に聞きたいこととは何かね? ゲコ」

「ジョーカーのことだ」

「ジョーカーのこと……」


 秋舘が目を細める。


「お前、ジョーカーのことはどの程度知っているんだ?」

「どの程度とは? ゲコ」

「つまり、ジョーカーが何のために作られて、そして何を目指しているか……わかるか?」


 それ、私たちがスターレッドから聞かれた質問ね。


「……なぜ、そんなことを聞く? ゲコ」


 ギョロギョロと秋舘の大きな目玉が動く。


「さぁ。どうしてだろうな?」


 龍司がわざとらしく肩をすくめた。


 ……大丈夫かな、龍司。


 秋舘は素直に情報を教えてくれるような性格はしていない。下手なことを言えば逆に情報を抜き取られる可能性がある。


 秋舘との取引では情報が全て。


 人物、場所、会話、そしてちょっとした仕草ですら秋舘は情報として読み取る。取引するからには、ヤツに情報を与えてはいけない。その上で、こちらの持つ情報に興味を持たせなければならないのだ。


「理由も言わず、情報だけ教えろと言うのか? ゲコ」

「理由がそんなに大事か?」

「大幹部の二人がわざわざこの場所に情報を聞きにくる。興味をもって当然だろう? ゲコ」


 私も龍司もここにはあまり来ないものね。確かに妙に思われても仕方ないかもしれない。


「残念だけど、龍司と私の用事は別よ。龍司の用事がすんだら、私の話を聞いてもらうわ」

「二人の用事は別……」


 秋舘の大きな目玉がまた動く。


「そうよ。でも、さっき龍司が言ったことなら私も興味あるわ。秋舘、あんたジョーカーができた理由なんて知ってるの?」

「もちろん知っている。ゲコ」


 当然のように言う。


「なら、教えてくれよ。俺はそれが気になって夜も眠れねぇんだ」


 龍司が軽口をたたく。


「なら理由を言え。ゲコ。情報はそれからだ」

「理由を言えば教えてくれるのか?」

「ゲーコゲコゲコゲコ。まさか! 理由を言うのは前提条件。情報代はまた別だ」


 秋舘がバカにしたように笑う。

 なんか腹立つわねー。


「……お前はジョーカーができた理由とやらを知っているということでいいんだな?」

「さっきからそう言っている。ゲコ」

「そうか……」


 龍司が微かに表情を引き締める。


 勝負はここからよ。龍司、頑張って!

 後ろからエールを送る。


「実は、スターレンジャーが気になることを言っていてな。それで調べようと思ったわけだ」

「スターレンジャーが……?」


 ……秋舘のヤツ、目の色が変わったわね。


 ジョーカーにおいて、スターレンジャーは今一番ホットな話題。その割に、彼らについての情報は少ない。情報屋としては、どんなささいなことであっても知っておきたいところだろう。


「ああ。そこでだ、情報の交換をしねぇか。お前が情報をくれれば、俺が知っているスターレンジャーの情報をやる。どうだ、悪い話じゃないだろ?」

「スターレンジャーの情報……。ゲコゲコ。確かにそれは魅力的」


 秋舘がつぶやくように言う。


「言っとくが、この情報はまだ誰も知らねぇと思うぜ? 奴らの正体につながる情報だからな」

「スターレンジャーの正体……。それは本当か? ゲコ」


 秋舘が目をしばたたかせる


「俺は、嘘はつかねぇ」


 龍司が真顔で言う。


 ウソつき! いつも平気でウソつくくせに。


「ふぅむ。だが、聞いてみないことには情報の真贋を見定めることはできない。ゲコ。ドラゴンフライヤー、お前の持つ情報を言ってみろ。吾輩がその価値をはかってやる」

「その前に約束しろ、秋舘。スターレンジャーの情報と引き換えに、ジョーカーができた理由と組織の目的を俺に教えると」


 龍司が鋭い目つきで秋舘を見る。


「それはお前の情報次第だ。ゲコ。だが、約束しよう。ゲコゲコ。吾輩はお前の情報の価値に見合った情報を与える」

「信じてもいいのか?」

「安心しろ、ゲコ。今言ったことに嘘偽りはない。ゲコ。情報の売買は信頼が第一。それに取引を偽証するなど、吾輩のポリシーに反する」


 これは本当ね。

 少なくとも、秋舘は情報の取引でズルをしたことはない。()()()()ね。


「わかった。なら俺の情報を先に言う。ちゃんと買ってくれよ」


 龍司が秋舘をまっすぐに見据える。

 いつになく真剣な表情だ。


 隣で見ている私も、ドキドキしてくる。

 ……うまくいくかしら?


「スターレンジャーの目的は、ジョーカーの企みを阻止することだそうだ」

「ジョーカーの企みを阻止することが目的……」


 秋舘がゆっくりと龍司の言葉を繰り返す。


「奴らが言うには、ジョーカーは存在してはならない組織なんだと」


 そう、確かにスターレッドは言っていた。

 ジョーカーは存在してはならない組織だと。だから倒すのだと。


「……スターレンジャーがそういったんだな? ゲコ」

「ああ。それだけじゃねぇ。奴らはジョーカーの目的はもちろんのこと、首領の正体も知っているようだった」

「そ、それは本当か? ゲコ」

「おそらくな」

「……!」


 目を見開く秋舘。


「……な、ならば、奴らの正体は……。しかし、確信は……」


 何やら一人でブツブツ言っている。


「他には? 他には何かないのか? ゲコ」

「他?」

「そうだ。そういえばスパイダーレディは奴らのことを探っていたのだろう? アジトの場所をつかんだと聞いたが……」

「あら、よく知っているわね。さすが情報屋」


 ついさっきカマキリソルジャーに報告したばかりなのに、耳が早い。


「スターレンジャーのアジトの場所はどこだ? ゲコ」

「……何で私がそんなことあんたに教えないといけないわけ?」


 コイツにやすやすと情報を与えてはならない。


「ジョーカーのことを知りたいのだろう? 黙っていても、いずれ我輩の耳に入るのだ。隠しても意味ないぞ。ゲコ」


 ……()()()じゃ、我慢できないんでしょ。誰よりも早く情報を。それが情報屋の(さが)だもの。


「勘違いしているようだから言うけど、ジョーカーのことを知りたいのは龍司。私の用事は別だっていったでしょ?」


 わざと素っ気なく言う。


「……ドラゴンフライヤーが知りたいと言っているのだぞ? ゲコ。愛する男の役に立ちたいと思わないのか? ゲコ」

「だ、誰が愛する男よ! ふざけないで! 殺すわよ!」


 あまりの暴言に、頭が一瞬で沸騰する。


「おい、綾、落ち着け」

「だって、コイツが……」

「いいから。秋舘のペースに乗るな」


 龍司に言われて、仕方なく引き下がる。


 ううっ、モヤモヤする……。

 

「スターレンジャーのアジトの場所を言えば、俺の知りたい情報をくれるのか?」

「ああ、やる。だから今すぐ教えろ。ゲコ」

「約束は守れよ?」

「わかっている。約束する。ゲコ」


 秋舘が何度も頷く。


「いいだろう。じゃあ教えてやる。スターレンジャーのアジトは山村の樹海の中だ」

「山村の樹海! ……やはり!」


 秋舘がプルプルと震える。

 そして唐突に大声で笑い出した。


「ゲーコゲコゲコゲコ。素晴らしい! こいつは素晴らしいぞ!」


 彼の笑い声が部屋中に響き渡る。


 な、なに? いきなりどうしたの、コイツ?


 秋舘は狂ったように笑い続けている。

 私と龍司はただ呆然として秋舘を見ることしかできない。


 秋舘はひとしきり笑った後、何事もなかったかのような顔で、コホンと咳払いした。


「期待してなかったが、確かにこれはスターレンジャーの正体につながる情報だ。ゲコ。いいだろう。情報をくれてやる」


 龍司と顔を見合わせる。


 ……なんだかよくわからないけどうまくいったのね!


 見ると、龍司が拳を握り、密かにガッツポーズをとっている。


 お疲れ、龍司! 


「ジョーカーが作られたきっかけは……」


 秋舘が静かに口を開く。

 私は期待に胸を高鳴らせ、彼の言葉に耳を傾けた。

次回、木曜日に更新。

「召喚! 華麗なるエリザベスちゃん」

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