26.追憶! 思い出の中に
アルバムをめくる。
生まれたばかりの赤ん坊がすやすやと眠っている。
アルバムをめくる。
赤ん坊を抱いた美しい女性。眼鏡をかけた優しそうな顔立ちの男性が、幸せそうに二人に微笑みかけている。
アルバムをめくる。
小さな女の子が満足げな顔をして、男性の膝の上に座っている。どこか偉そうだ。
アルバムをめくる。
誕生日ケーキにかぶりつく少女。顔は生クリームだらけ。なぜか誇らしげ。
アルバムをめくる。
嬉しくて仕方がないといった様子で少女が女性の手を引いている。背中には大きなランドセル。
アルバムをめくる。
白い建物の前で四人が笑っている。少女以外は皆白衣だ。
――研究所にて
写真はここで途切れている。
◆◇◆◇◆
ジョーカーの目的、ジョーカーの目的。
だめだ、わからない。
あれからずっと考えているんだけど、何も思いつかない。今までのジョーカーの行動を振り返ってみても、何か目的があるとは思えないし。
パパとママが生きてたらな、色々聞けるんだけど……。
私の両親はジョーカーの研究員だった。正確に言うと、元は四羽ケミカルの職員で、途中からジョーカーの職員になったの。
二人なら、きっとジョーカーができた経緯も知っていたはず。
でも、両親は私が小さい時に事故で亡くなってしまった。そのせいで私は何も知らない。二人が何を研究していたのかさえ――
何か残っているとよかったんだけど、二人が亡くなった時に、ほとんどの荷物をジョーカーに没収されてしまったの。おかげで私の手元には、ほとんど何も残っていない。あるのは、数枚の写真と買ってもらったおもちゃだけ。
……何か言ってなかったかなぁ、パパとママ。
棚の上に置いている写真を手に取る。
幼い私が両親二人と手をつないで笑っている写真だ。
こうして見ると、私やっぱりママに似ているわね。目元なんかがそっくり。でも、口元はパパ似かな。
優しいパパとしっかり者のママ。私は二人のことが大好きだった。
二人とも忙しい人だったけど、私の誕生日には必ず早く帰ってきてくれた。ママが仕事を休んでケーキを作ってくれたこともある。懐かしい……。
そういえば、一度だけパパが中々帰ってこない日があったのよね。当然、私はふくれたわ。誕生日なのにって。“パパなんてもう知らない!”って泣き出して、ママを困らせたの。
そんな私をママは必死でなだめた。「綾、パパはね、綾や皆を守るために頑張ってお仕事をしているのよ」って。
それで私、ママに聞いたの。「パパの仕事ってなぁに?」って。そしたらママは「悪い奴らから皆を守るための仕事よ」って答えたわ。それから……。
……あれ? それから何だっけ?
◆◇◆◇◆
「それで一つ質問なんだが」
「何?」
「これは何だ」
カマキリソルジャーが報告書のある部分を指さす。
「ああ、それ。知らない? 水族館の人気者、チンアナゴちゃんよ」
「……そういうことを聞いているんじゃない。なぜ報告書に変なスタンプを押しているのかと言っているんだ」
「変って……失礼ね。それに“つかれたー…”って文字が見えないの?」
カマキリソルジャーが指さしたのは、チンアナゴのスタンプ。この間、蒼ニ君と水族館に行った時に買ったものだ。
グデッとしたチンアナゴに“つかれたー…”の文字。
このゆるーい感じ。とてもラブリー。
「大変だったんだから、今回の任務。しばらくはお休みしたいわ」
そう言って大げさに疲れた素振りをしてみせる。
しかし、カマキリソルジャーは無反応。淡々とした口調で続ける。
「……もう一度聞く。なぜスタンプを押した?」
「もちろん、押したかったからよ。カワイイでしょ!」
今度は開き直って言う。
スタンプって使う機会がなかなかないのよね。自分のノートには押したりしてるんだけど、やっぱりこういうのって誰かに見てほしいじゃない?
そう思ってた時に、ジョーカーの報告書を見てひらめいたってわけ。我ながらナイスアイデア!
「お前はTPOって言葉知っているか?」
「もちろん知ってるわよ。バカにしないで」
カマキリソルジャーの失礼な言い方に、ムッとする。
「TPOとはTIME(時)、PLACE(場所)、OCCASION(場合)の頭文字でしょ。時と場所、場合によって、方法・態度・服装等をきちんと使い分けることを言うのよね」
ふんぞり返って言う私。
この使い分け、私は大得意だ。なんせ高校生をやりながらジョーカーの大幹部をやっているのだ。使い分けのプロと言ってもいい。
「わかっているなら、使い分けてくれないか?」
カマキリソルジャーがため息まじりに言う。
「ちゃんと使い分けてるじゃない」
「この書類は、上にも見せるんだぞ」
「大丈夫よ。これを見たら、アイツらだってきっとほっこりするわ」
「……俺はむしろイラッとしたが」
「カマキリソルジャーってば余裕なさすぎ。仕事にも遊び心は大切よ」
「ジョーカーの仕事に遊び心は必要ない」
カマキリソルジャーが書類を机に叩きつける。
……つまんないヤツ。
「とにかく、この報告書はだめだ。作り直せ。余計なものは書くな、入れるな、押すな!」
「ええっー! どうしてよ」
異議あり! 異議あーり!
◆◇◆◇◆
「もう報告は終わったのか?」
「ええ、バッチリよ」
親指を立てて、龍司に答える。
報告書はカマキリソルジャーに押しつけてきた。
絶対に作り直さないからね! という捨て台詞とともに。
あのラブリーなスタンプが押された報告書をそのまま元老院に見せるかどうかは、カマキリソルジャー次第だ。
「余計なことは話してねぇだろうな?」
「大丈夫よ。そんなヘマはしないわ」
「ならいいけどよ……」
なんでそこで不安そうな顔するのかしら?
龍司ったら心配性なんだから。
もうちょっと私のこと信頼してよ。
スターレンジャーと接触したことは私と龍司だけの秘密だ。当然、報告書もそのあたりのことは適当にごまかしてある。
色々聞かれたら嫌だなと思ってたんだけど、あのスタンプのおかげで質問されずにすんだ。
……意外とこの手は使えるわね。覚えておこう。
「秋舘の野郎、知っていると思うか?」
「どうかしら。でも、アイツが知らなきゃ、誰も知らないんじゃない?」
「そうだよな……」
本部のエレベーターに乗りこむ。バグズシティに行くためだ。
秋舘は、暗殺部隊の中幹部にして“ビッグ5”の一人。怪人ゴシップ誌プライデーの編集長でもある。ジョーカーの情報は全てヤツに集まると言っても過言ではない。
ジョーカーの目的。これを調べるには、秋舘に話を聞くのが一番だ。
それに、アイツ、今度プライデーで“大幹部特集”というふざけた記事を出すらしいの。了承もなく人の記事を載せるなんてどういうつもりかしら。返答次第では許さないわよ。
「問題は、秋舘の野郎が素直に情報を出すかだな……」
「無理ね。絶対何か要求されるわ」
私たちのように秋舘に情報を聞きに行くヤツは多い。彼に聞けば大抵のことがわかるからだ。“気になるあの子の好みのタイプから、いけ好かない上司の弱味まで”、ありとあらゆる情報を秋舘は握っている。
もちろん、情報はタダじゃない。私たちは秋舘の求めるものを提供しなくてはならない。
秋舘は求めるもの――それは情報だ。彼は情報に情報を要求してくる。秋舘から情報を買いたければ、こちらも同等の情報を用意しなくてはならない。
「俺らが奴に差し出せる情報なんてあったか?」
「うーん……」
私も情報を集めるのは得意な方だけど、今回は買う情報が情報だからなぁ。生半可なものでは売ってもらえないだろうし。
「アイツがどのレベルのものを要求してくるかにもよるわね……。とりあえず、聞いてみるしかないんじゃない? 最悪、私たちの情報を売るしかないかも」
大幹部の情報は高く売れるらしい。でも、アイツに秘密を握られたが最後。何をされるかわかったもんじゃないけど……。
「それはできればやりたくねぇな」
龍司が眉をひそめる。
まぁ、龍司もアイツには散々な目に遭わされているものね……。
どよーんと空気が淀んだところで、チンとエレベーターが到着を告げた。
次回、木曜日に更新。
「遭遇! ジョーカー最速の男“鈴鹿セナ”」




