24.突撃! スターレンジャーとの交渉②
「俺たちは知っている。だからこそ、ここにいる」
スターレッドがはっきりと言う。
知っている? ジョーカーの目的を?
私たちも知らないのに?
「……あなたたちは何者なの? なぜジョーカーに敵対しているの?」
これはずっと疑問に思ってたこと。
スターレンジャーの力はどう見ても普通じゃない。それに、彼らがヒーローをやる理由もわからない。
「ちょっと、待って!」
ん?
いきなりスターピンクが会話に割り込んできた。
「あなたたち、本当に知らないの? ジョーカーの目的を」
「えっと、まぁ……」
口ごもる私。
何度聞かれても、知らないものは知らないのだ。
私の様子を見て、スターピンクが呆然としてつぶやいた。
「信じられない……。一体どうなってんのよ。あなたたち、大幹部なんでしょ?」
かなりショックを受けているようだ。
そんなに変なことなのかしら?
確かに大幹部である私たちが知らないのは、どうかとは思うけど……。
「もしかして、君たちはジョーカーのトップ、首領の正体も知らないんじゃないか?」
スターブルーも驚いた様子で尋ねてくる。
「その、それは……」
もしかしなくても知らない。テレビの最終話は覚えてないから、よくわからないし。
でも、こうしてみると、私って肝心なこと何も知らないわね……。
「俺らがそれを知ることは許されていない。反則事項ってやつだ」
私の代わりに龍司が答える。
ナイス、龍司!
そうよ、反則事項なのよ。知らなくても仕方ないの。
特に首領の正体はジョーカーのトップシークレットだ。探ることは禁止されている。
でも――
よく考えたら、どうして首領の正体を知ってはいけないのかしら?
「反則事項……」
スターブルーはそうつぶやいて、黙り込んでしまった。なにやら考え込んでいる様子だ。
さっきから、一体何なのかしら? スターレンジャーの反応がすごく微妙なんだけど……。
私が悩んでいると、スターレッドが口を開いた。
「話を戻そう。なぜ俺たちがジョーカーに敵対するか、だったね。理由は簡単だ。ジョーカーは存在してはいけない組織だからさ」
「存在してはいけない組織……」
「ああ、そうだ。だから俺たちはジョーカーを倒さなければならない。悪の組織であるジョーカーの企みを阻止するためにね」
スターレッドの言葉には、どこか皮肉めいた響きがあった。
「ジョーカーの企みって一体何なの?」
「さぁ、何だろうね?」
スターレッドが肩をすくめる。
「……教える気はないってこと?」
「答える必要性を感じないだけさ」
「知られると何かまずいことでもあるのかしら?」
「好きに解釈するといいよ」
スターレッドが素っ気なく返す。
どうもさっきから適当にかわされているような気がする。
信用されてない……のよね、やっぱり。
「私たちやっぱり協力しあえないのかしら……」
気持ちが沈んでいく。
ここでうまくいかなければ、敵対することになってしまうというのに、どう話を進めればいいかわからない。
「そうは言ってないよ」
「えっ?」
どういうこと?
思わずスターレッドの顔をまじまじと見る。
「俺は君たちと手を組んでもいいと思っている」
「レッド!」
スターピンクが咎めるような声を出す。しかし、スターレッドは無視して話を進める。
「ただその前に確認しておきたい。協力したいというのは君たち個人の申し出なのかな? それとも怪人の代表として来ているのか?」
「それは……」
口ごもる私。代わりに龍司が答える。
「スパイダーレディの個人的な申し出だ。ちなみに俺はお前らと手を組むつもりはねぇ」
「ドラゴンフライヤー!」
「最初から言ってたはずだ。俺は反対だと」
「それはそうだけど……」
なにも、今そんなことを言わなくても……。
「ふーん。なるほどね。反対だけど、恋人が心配でついてきたってわけだ」
「こ、恋人じゃないわ!」
「そうなんだ? でも、単なる仲間って雰囲気でもないけどな……」
そう言って、スターレッドがジロジロと私たちを見る。
「おい、どうだっていいだろ。んなこたぁ」
龍司が不愉快そうに言う。
「そうよ! 今重要なことはそこじゃないでしょ。レッド、さっきの発言、一体どういうつもりなのよ?」
スターピンクがスターレッドを問い詰める。
「さっきの発言って?」
「怪人と組んでもいいだなんて……。できるわけないでしょ、そんなこと」
「どうしてだ? ジョーカーの怪人が仲間になれば、俺らの目的は達成しやすくなる。そうだろ?」
「それはそうかもしれないけど……。でも……」
ふいにスターピンクが私の方を見る。
えっ、何?
「あなた、本当にそれでいいの?」
「えっ?」
「何も知らない状態で手を組もうだなんて、どうかしているわ」
「……」
「そんなことしたら、後悔するわよ」
「後悔……」
スターピンクは、私と手を組むのに反対だからこんなことを言うのだろうか?
でも、言い方はキツいけど、嫌なものは感じない。むしろ忠告してくれているような……。
「ピンクの言うとおりだ」
スターブルーが静かに言う。
「君は、もっと自分の置かれている状況を理解すべきだ。知った上で、俺たちと協力関係を結ぶかどうか考えるべきだと思う」
自分のことを知った上で考える……。
スターブルーはどうしてわざわざそんなことを言うのだろう?
「……それは重要なことなの?」
私が尋ねると、スターブルーが無言で頷いた。
どうしよう? 二人の忠告は無視してはいけない気がする。
でも、そんな悠長なことをしていられる時間も……。
あれこれ考えを巡らせる。結論は出そうにない。
「スパイダーレディ」
龍司に声をかけられ、ハッとする。
「聞いたとおりだ。こいつらも気乗りしねぇみてぇだし、このまま強引に話をすすめるのは無理だ」
「でも……」
「こんな状態で、協力関係なんか結べるわけねぇだろ。こっちは命がけなんだぜ?」
龍司の言うとおりだ。
今の状況だと、おそらくスターレンジャーと信頼関係は築けない。
彼らの目的も正体もはっきりしないのだ。彼らから聞き出せそうにもない。
それに、こちらが何も知らないことに不信感を抱かれているような気もする。
このまま話を進めるのは、さすがに無謀……だと思う。
私は渋々頷く。
「……今日のところは引き下がるわ。けど私は諦めない。ジョーカーのこともあなたたちのことも調べて、また会いにくるわ」
「それは構わないよ。俺は君たちと協力関係を結ぶことにはもとから賛成だし。ただ……」
「ただ?」
「何もかも知った後で、君は俺たちと手を組もうなんて思えるかな?」
スターレッドが意味ありげに言う。
まるで、そんなことはありえないとでも言いたそうな口ぶりだ。
「……思わせぶりな言い方ね。まぁいいわ。とりあえず連絡先を教えてくれないかしら? あなたたちとはいつでも連絡を取れるようにしておきたいから」
今後のことを思うと、彼らとの連絡手段は必須である。
私の言葉に、スターレンジャーたちが顔を見合わせた。
「少し待ってくれないか。話し合いたい」
「もちろん構わないわ」
スターレッドの言葉に、快く頷く。
三人が私たちから離れていく。あれこれヒソヒソと話し合っているみたいだ。
しばらく経ってから、三人がこちらに戻ってきた。どうやら話がまとまったらしい。
スターレッドが手に黒い機器を持っている。携帯電話より一回り小さい大きさの、長方形型の機器だ。
「これを君たちに渡しておくよ。このボタンを押せば俺たちと会話できる」
スターレッドから手渡された機器を見る。
かなり薄い。しかも、よくわからない文字が書いてある。
「いいの? これ、もらっちゃっても」
「構わないよ。ただそれを人に見せるのはお勧めしない。場合によっては、命を狙われる危険がある」
「それはあなたたちが? それとも私たちが?」
「君たちの方だね」
人に見せたら命を狙われる……。一体どういうことだろう?
でも、これってよく考えたら重要なヒントね。後でこの機器について調べてみよう。
「わかったわ。十分気をつける。あと、気を悪くしたら申し訳ないんだけど……」
「何?」
「この機器、発信機やら盗聴器の類は付いていないでしょうね?」
私たちの正体や基地の場所がバレたら大変なことになる。
「安心してくれ、そういったものは付いていない。信じるか信じないかは君たち次第だけど……。心配なら、いくらでも調べてもらって構わない」
スターブルーが返事をする。
彼が言うなら大丈夫かな。一応、チェックはするけど。
「わかった。ごめんなさい、疑ったりして。それともう一ついいかしら?」
「何?」
不思議そうに尋ねるスターブルー。
私は彼を見て、ニコリと笑う。
「私、あなたたちのこと上に報告しないといけないの。さて、どうしようか?」
次回、木曜日に更新。
「決定! これからの方針」