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21.追跡! スターレンジャーを追え!②

 ずいぶん遠くまで来たわね。


 植物特有の青っぽい臭いが鼻につく。目の前には巨大な森。

 木々は深く暗い色に染まり、ジメッとした空気の中、虫の音が所々から聞こえてくる。


 ……夜の森って雰囲気あるわよね。

 しかも、ここ、入ると呪われるっていう“山村の樹海(やまむらのじゅかい)”じゃない……。


 “山村の樹海(やまむらのじゅかい)”。それは、この国で一番有名な森だ。通称“(もど)らずの森”とも呼ばれている。この森に一歩入ったが最後、二度と現世には戻れないというところからきているらしい。


 実際、この森では数え切れないほどの人間が行方不明になっている。観光客や近隣住民、自殺者。行方不明になった者の事情は様々だ。捜索隊も出されたが、結局誰も見つけることはできなかった。

 そう、死体さえも――。


 不可解なことに、この森では死体が見つかることがない。

 行方不明者の数からいって、一人も死体が見つからないなどあり得ないことらしい。動物に食べられたのかもしれないが、それにしても……。


 行方不明者は死んではいない。けれど見つからない。この謎は多くの者を惹きつけた。その結果、多くの人間がこの森に押し寄せ、そして――やはり多くの人間が行方不明になってしまったのだ。


 このことは世間でも大きく騒がれ、今では政府がこの森を立ち入り禁止区域にしている。それでも肝試しと称して入っていく者が後を絶たず、いまだ毎年何人もの行方不明者を出し続けているという。


 糸はこの森の中に続いている。


 ……嫌すぎる。こんな場所に一人で入らないといけないの?


 しかし、やるしかない。これは任務なのだ。そう思って一歩踏み出した時、


「おい」


 うわっ! な、なに?

 急に後ろから声をかけられ、びっくりして振り返る。

 そこにいたのは――


「龍司! どうしてここに?」


 赤い髪に、鋭い目。ふてぶてしい面構え。

 どこか不機嫌そうな顔をした龍司が立っていた。


「白鳥から連絡を受けてな。探知機を使ってお前の後を追った」

「白鳥が? 一体どうして」

「お前のこと心配してだろ」


 そういえば、不安そうに私を見てたっけ。龍司に連絡してくれたんだ。

 探知機も龍司に渡したのね。


 私たちがしている腕時計には、発信機がついている。ジョーカーが怪人を管理するためだ。

 今回、チームの怪人がいる場所を把握する必要があるということで、本部から発信機を探知する機械を借りておいたのだ。


 それにしても……


「よくこんなに早く追いついたわね」


 白鳥の連絡を受けて来たにしては、追いつくのが早すぎない? 

 私、まっすぐここに来たんだけど。


「んなこと、どうでもいいだろ。で、あいつらはこの樹海の中なのか?」

「うん。ヤツらにつけた糸がこの中に続いているの」

「じゃあ、行くぞ」

「ついてくる気?」

「当たり前だろ。お前一人に任せられるか」

「これは私の任務なのよ」


 そうは言いつつも、一緒に来てくれるのを期待している自分がいる。

 ここに一人で入るのはさすがに恐い。でも、龍司がついてくると、スターレンジャーと話し合いができない……。


 どうしよう?


「ここまでくりゃ、関係ねぇだろ。俺はお前のこと、白鳥に頼まれたんだぜ? このまま帰れるかよ。それとも何だ? 俺がついて行くとまずいことでもあるのか?」

「別にそんなことはないけど……」

「ならいいだろ。ほら、早く行こうぜ」


 そう言って、スタスタと樹海の中に入っていく。


「ちょ、ちょっと! 待ってよ」


 もう! やっぱり人の言うこと聞かないんだから!

 彼の後を追い、私も樹海の中へと飛び込んで行った。


◆◇◆◇◆


「おい、さっきから何おびえてんだよ?」

「だ、だって……」


 恐いんだもん!


 樹海は思っていた以上に不気味なところだった。

 森の中は鬱蒼としていて暗く、頼りは木々の隙間から差し込む弱々しい月の光だけ。

 油断すると何かに引きずり込まれそうな、奇妙な感覚。


 ガサッ! 何かが動く音がする。

 思わず、龍司の腕に抱きつく。


「ったく。心霊スポットなんて見飽きてるだろ?」

「だって、ここ樹海よ? そんじょそこらの心霊スポットとはわけが違うわ。幽霊や宇宙人がウヨウヨいるって噂なんだから」

「怪人が幽霊や宇宙人を恐れてどうすんだ?」


 龍司はあきれ顔だ。


「私だって、普段なら平気だけど、ここは何か違うの。この場所、私たちの感覚を狂わせるような、そんな嫌な感じがするの。龍司だって感じるでしょ?」

「まぁ、確かに嫌な感じはするな」

「でしょ。それにさっきから何かに見られているような、妙な気配もするし……」

「ああ、それは俺も思ってた。だが、誰もいねぇんだよな……」


 龍司が注意深く周囲を見渡す。

 そして幾分表情を引き締めて言った。


「綾、いつでも動ける準備をしておけ。ここはもう敵陣の中だ。何があってもおかしくねぇ」

「うん……」


 龍司が言うとおり、何が待ち構えていてもおかしくない。 

 スターレンジャーはこの森にいるのだ。


 警戒しながら進んでいく。周りが静かなせいで、歩く音がやけに大きく感じる。 


 ……龍司がいてくれてよかった。こんな所、きっと一人では耐えられない。

 なんだかんだいって、彼は頼りになるのだ。


 あっ、龍司がこっちを見た。

 どうしたの? 深刻な顔して。


「……なぁ」

「なに?」

「出口ってわかるか?」

「ええっ! 龍司わかってないの?」

「さっぱり」


 あっさりと龍司が言う。


 し、信じられない……!


 前言撤回。コイツ、何も考えてない。

 当てにしているととんでもないことになる。


「綾、どうなんだ? 出口はわかるのか?」

「……入り口の木に糸を付けておいたから、それを辿れば帰れると思う」

「そうか。なら安心だな」


 龍司がホッとした顔をする。


「安心だな、じゃないでしょ。私がちゃんと目印つけてなかったらどうするつもりだったのよ?」


 一生この森でさまよい続けることになってたわよ。

 私が責め立てると、龍司が面倒くさそうに言った。


「うっせぇな。んなもん、空を飛べば一瞬で解決だろ?」

「あっ、そっか」


 なるほど。飛び上がっちゃえば道とか関係ないものね。

 空を飛べるって便利!


「まぁ、怪人になれば、奴らに見つかるだろうけどな」


 やっぱり、ダメじゃない!

 なら、空を飛ぶのは最後の手段ってことね。


「それより、こっちであってんだろうな?」

「大丈夫よ、糸はこの先に続いているもの。あと少しで、スターレンジャーがいるところに着けるはず」

「ならいいけどよ。……しかし、歩きにくいな」


 龍司が顔をしかめる。

 確かに歩きにくい。昨日雨が降ったせいか、泥や落ち葉が靴に引っ付くし。


「道が舗装されてないものね。人が入る場所じゃないのよ」

「こんなところにアジトをつくるなんざ、やっぱまともじゃねぇな」

「まぁ……。人に見つからないためだろうけど、それでもどうかと思うわよね。遠いし、迷うし、なにより気味が悪いもの」


 それを考えると、ジョーカーの本部は都心のど真ん中にあり、何かと便利だ。交通の便もいいし、美味しいご飯屋さんも周りにたくさんある。理想的な場所にあると言っていい。


「電気とか水道とかどうしてんだろうな?」

「水はなんとかなるんじゃない? 湖があるらしいし。電気は自家発電とか?」

「食料の調達も面倒そうだし、よくこんな所に住めるよな」

「確かにね。でも、龍司ってキャンプ好きでしょ。こういう所も好きなんじゃないの?」


 龍司はツーリングが趣味で、一人で色々な所に行っている。日帰りが多いみたいだけど、たまにキャンプして帰ることもあるようだ。


 ……すぐ一人でどっかに行っちゃうのよね、龍司は。


「森は嫌いじゃねぇけど、ここはさすがに無理だ。禍々しすぎる」

「確かにこの樹海でキャンプは悪趣味よね」


 この樹海は、自殺の名所とも言われている。入り口には、立ち入り禁止の看板だけでなく、自殺を思いとどまるようにとの看板も立てかけられているぐらいだ。

 ただ死体は見つかってないから、本当に自殺しているかどうかはわからないんだけど。


「さっさと任務終わらせて、こんなところ出ようぜ」

「うん」


 本当にね。私もさっさと出たい、こんなところ。でも……


 チラリと龍司の顔を見る。


 その()()()()()()まで、わざわざ来てくれたのよね。

 白鳥に頼まれたって言ってたけど……


「ねぇ、龍司……」

「なんだ?」

「今日はどうして来てくれたの?」

「……」


 龍司が足を止める。

 そして、私を見た。


「龍司?」


 彼の手が私の方へと伸ばされる。


 何だろう?


 彼の指が私の頭のすぐそばに近づいてきて――


「いたっ!」


 衝撃。

 額に痛みが走り、思わず手を当てる。

 ……デコピンされた。


「くだらねぇこと聞くな」

「ひどい……」

「ひどくねぇ。お前が悪い」


 龍司はそう言い捨てると、また先にスタスタと歩いて行ってしまう。

 ちょっと聞いただけなのに……。


「ちょっと、待ってよ!」


 彼の元に駆け寄る。

 なんで龍司が先を行くの? 場所わかんないでしょ。


「理由、教えてくれたっていいじゃん」

「白鳥に頼まれたって言っただろ」

「本当にそれだけ?」


 なおもしつこく食い下がる私。


「……お前な、俺に何を言わせようとしてるんだ?」

「それは……」

「バカなこと言ってねぇで、ちゃんと周囲を警戒しろ」

「わかってるわよ……」


 つまんないの。もうちょっと何か……。

 私がむくれていると、龍司がため息まじりに言った。


「あんま心配かけんなよ」

「えっ?」

「大変なんだからな、こっちは」

「……」

「わかったな?」

「……うん、わかった!」

「わかればいい」


 龍司はそう言うと、また前を向いて歩き出す。


 ほら、やっぱりね。心配して来てくれたんじゃない。


 頬が緩むのがわかる。


 龍司は優しい。いつだって私を助けてくれる。昔からずっと。

 それなのに、私は彼に迷惑をかけてばかり。スターレンジャーのことだって……。


 糸を確認する。スターレンジャーの居場所はもうすぐそこだ。

 どうするか決めなくてはいけない。

 このまま適当にやり過ごすことはできる。できるけど……


 でも、やっぱり……


 ……。

 ……。

 ……。


「龍司、私ね」

「ん?」

「龍司に隠していたことがあるの」

次回、日曜日に更新。


「告白! スターレンジャーの秘密」

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